48. G計画
【第一章「G計画」】
ここは海王星・宙軍本部建物内にある第一会議室。
地球から帰還してすぐに呼び出されたアックウビ少佐が、セキ大尉と共に並んで座っている。上官の到着を待っているのだ。
二人の顔はまさに寝不足そのもの。今は他に誰もいないので、遠慮なく欠伸を繰り返している。
しばらくしてシャクリイヌ准将が現れた。
「やあアックウビ、それとセキ。ずいぶん待たせたな」
「たのんますよもう。すげえ眠いんすから」
「悪かった悪かった。手短に済ませるつもりだから、そうぶつくさ抜かすな」
「そうっすか。ならそれでお願いします」
シャクリイヌ准将とアックウビ少佐は上官と部下の関係だが、他に偉い人がいなければ、二人はいつもこのような砕けた話し方をしているのだ。
「さっそくだが地球での作戦の報告を頼む」
「成功したっす。詳しい内容はこいつが。おいセキ、あとまかす」
「はっ!」
セキ大尉がホワイトボートの前に立ち、まずそこに書いてある文章やら図やらを消し始めた。直前の使用者がちゃんと後始末をせずに帰ったようだ。
やがて書かれていた痕跡がすっかりなくなった。真っ白だ。ここまで綺麗にするとは余程の潔癖症なのであろう。
セキ大尉はピカピカに磨き上げたホワイトボートを、まるで恋人に穿かせるために今しがた買ってきたばかりの純白のパンティーを手に取って眺めるかのように、さも満足げな表情で見つめた。そしておもむろに説明を開始したのである。
セキ大尉が話した内容は、おおよそ次の通りだ。
まずターゲットとして、ニッポン国に住む地球年齢で一一歳の少年を選び、その脳内に善玉ウィータと悪玉ウィータの知識を植え付けたこと。
その知識が確実に定着するためには一定期間の安静が必要であり、陽子銃を使って彼のクモ膜と軟膜の間に出血を生じさせたこと。
植え付けた知識のうち善玉ウィータについては地球時間約一〇年後、悪玉ウィータについては地球時間約二〇年後に、それぞれ活性化すること。
セキ大尉は、これら三つの事柄を口頭で簡潔に伝えただけだった。つまりホワイトボートはまったく使用しなかったのだ。
「ようしわかった。これでG計画の第一段階は無事完了だな」
「そうっすね」
「ではこれから久しぶりにじゃららーんとやるか?」
「えっ、まじっすか? これからっすか?」
「おお当然だ。も一人呼んでこい」
「うっ……了解っす!」
たとえ砕けた話し方をしてはいても、上官の誘いは断れないものである。このため、寝付いたばかりのクサメ少尉が叩き起こされることとなった。どこの世界でも下っ端はつらいのだ。
ちなみにこの麻雀大会は一晩かけて行われ、結果アックウビ少佐の一人負けで幕を閉じることとなる。
G計画。これは海王星人が企てた恐ろしい邪悪な陰謀だ。
ことの発端は、地球暦で一九四七年六月二四日。地球上のホモサピエンスども(自分たちは叡智ある者だと威張り腐っている奴ら)は、この日に起こったことを「ケネスアーノルド事件」と呼んでいる。
そんな海王星人たちにとって記念すべき日、調査団が地球へ行って、そこに生息する数一〇種類の生物を数匹ずつ捕獲して持ち帰った。
海王星に連れてこられた生物たちは、農林水産省が中心となって結成された評価チームによって綿密に調べられた。
その結果、なかでもホモサピエンスのニクは海王星人の口に一番よく合うと高く評価されたのである。特に、調査に加わっていた、海王星で四番目に腕がいいと評判の料理人を唸らせたことが大きかった。
こうしてG計画が始まったのだ。
このまま計画が順調に進んだ場合、地球歴で二〇三五年頃には全ホモサピエンス――つまり全地球人が廃人同様となり、奴らは海王星人たちの家畜として生きることになるのである。
まず善玉ウィータが広まって、奴らは対立・闘争・殺人・戦争といった行為を起さなくなる。次に悪玉ウィータで奴らから食欲・睡眠欲・性欲を奪う。
そうしたのち奴らは、海王星の畜産農家たちの手により、強制的に栄養と睡眠とを与えられ、また人工授精により繁殖させられる。そして、やがては海王星のスーパーマーケットなどに、奴らの精肉や加工食品やらが所狭しと並べられることになるのだ。
食われるためだけに生きる地球人類ホモサピエンス。
ちなみに、海王星で四番目に腕がいいと評判の料理人の証言によると、一〇歳前後から一八歳くらいまでの特定のニッポン国産女子ソトモモニクが最高級ブランドとなることは、まず間違いないとのこと。
なにしろその匂いを嗅ぐだけで、EDの人でもたちまちに勃起しちゃうの。そんでもって食べたら、さらに増強――もうホントすっごいんだからねっ!
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◆お知らせ◆
先週号まで連載小説「多人駁論」をご執筆くださっていました落花傘飛高先生が、一月三十一日に交通事故のためお亡くなりになりました。六十九歳でした。全社一同、心よりご冥福をお祈りいたします。落花傘飛高先生、どうぞ安らかにお眠りください。今までありがとう。そしてさようなら……。
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