47. 新連載:嗅がせてあげるねっ!
『嗅がせてあげるねっ!』
谷沢辛子
【プロローグ「宇宙」】
「クサメ少尉」
「はっ少佐!」
「ターゲットはもう決まったのか?」
「はっ決定しております。姓名・
「よし。では時きたるまで休息とする。海王星を出てからほとんど不眠不休だ。お前もよく休んでおけ」
「はっ了解しました!」
地球暦一九七二年四月一〇日未明、惑星間移動用小型艇が月面に着陸した。
乗っているのは、海王星・宙軍第二部隊の精鋭たち。部隊を率いるアックウビ少佐以下、セキ大尉・タン大尉・クサメ少尉・タカジアスタ少尉・カイゲイン准尉・リュウガク曹長の七名。このうちセキ大尉は軍医でもあり、彼は海王星で四番目に腕がいいと評判の脳外科医だ。
だが、万一の場合に備えて常時誰かが
その任に当たったのは、カイゲイン准尉とリュウガク曹長。この二人は交替で休息していたので、何の問題もなく十分な睡眠を取ることができていた。
しかし、他の五名はそういうわけにいかなかった。
宙軍とはいえ普段は
もちろん海王星の麻雀も地球同様に基本は四人打ちだ。
したがって常に一人が外れるので、少しくらいの仮眠を取ることは可能――と、そう考えるのは甘い。
なにしろうるさくて眠れないのだ。
うとうとすると決まって、「りぃーいいいぃーち! さあさあさあさあ、こいこいこいこい!」だとか「うっわぁーまじっすか。うっそでしょ。普通それで待たねえしぃー」なとど叫ぶ輩がいるものだ。
このため、月に着いてから五人は爆睡した。
一方、下っ端の二人は律儀に監視作業を続けている。こんなへんぴな所にはほとんど誰もこないのだけれど、無人探査機とかが写真撮影でもしていたらまずいからだ。
「ううわ、やっべえ! 寝過ごした?」
まず最初に起きたセキ大尉が叫んだ。続いてアックウビ少佐。
「あーっ! おいおい何時だ? こらクサメ、起きろ!」
「むん? あっおはようございます少佐」
「おはようございますじゃねえだろっ!」
「あっもう午後二時半であります少佐!」
「おいおい、お前よお、なんで目覚ましセットしねえんだよ!」
アックウビ少佐は怒鳴りながらクサメ少尉の頭を平手ではたいた。
「いっつ……わ、忘れておりました!」
この騒ぎで、タン大尉・タカジアスタ少尉もようやく目を醒ました。
午後四時。
地球のニッポン国上空・高度約三万メートル辺りにたどり着いたアックウビ少佐たちは、艇内に設置されたスクリーンを真剣な表情で眺めている。
スクリーンには、ニッポン国のとある小学校の教室内が映っている。
先程そこへ鼻を刺すような悪い匂いのするガスを送り込んだ。少佐たちはその後の様子を観察しているのだ。
――いいだしっ屁や。嗅分くん、あんたでええやろ
――おっ、おう。わしでええわ
サラウンド・システムのスピーカーから子供たちの会話がリアルタイムで流れてくるけれど、地球の言葉はよくわからない。
「おや? なぜターゲットはこちらの少年の尻に鼻を近づけているのだ?」
「わ、わかりませんが、今がチャンスかと」
「おおそうか。ではやれ!」
「はっ!」
――すぅぅ
セキ大尉が、手に持っているスイッチのボタンを押した。
次の瞬間、しゃがんでいたターゲットが教室の床に倒れ込む様子が、スクリーン上に映った。
――ドタン
――あっ嗅分くん
――あかん、救急や
――そや急がなっ、はよう
――教員室や、教員室
「どうなった?」
「はい成功です」
「よし。直ちに帰還する」
「はっ!」
「あのう、復路でもやりますか?」
「クサメ、私を誰だと思っている」
「失礼いたしました、少佐!」
彼らはまた麻雀を楽しむのだった。
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