36. ワラビの不安と次回予告
激しさのあとの静けさ。
あたしは、幸福感の中に紛れ込んでいるほんのわずかな、よくわからない不安を消し去りたかった。
「アツオさんはどうしてアツオさんなのかしら?」
「おいおいなんだよ今さら、渥と言う字は、うるおう・うるおす・ぬれる・ぬらすとかの意味があって、そんな夫になるように渥夫って名付けられたんだよ。前にも話したことあるだろう」
「やあねえ、そんな意味で言ったんじゃないわよお」
「えっ、じゃどんな意味で言ったんだい?」
「もーあなたって人はぁ、ロマンチックのかけらさえ持ってやしないんだから。あたしもう寝るから。おやすみっ」
「は? ああそうか寝るんだね。おやすみワラビ。ぼくも寝るよ、明日早いし」
もーアツオさんってば何もわかってないんだからっ。あたしがあなたに言って欲しかったのは「ワラビはどうしてワラビなんだ?」だったのにぃ。
そのあと「アツオさん」「ワラビ」「アツオさん!」「ワラビー!」ってふうになって、それからも一回ぴちぴちじゃぶじゃぶ……ってのを期待してたのにぃー。
やっぱり倦怠期ってやつかしら?
もしかしてほかに若い子とか?
いやいやいやだあ、そんなことないない。絶対ないわ。
だってあたしの体が世界一だって書いて雑誌に載せたくらいなんだから。
でも栄枯盛衰は世の習いとかって言うし、あたしがいつまでも世界一とは限らないんだわ。
「どうしましょあたし世界二になっちゃったのかしら?」
あっいけない思わず声に出しちゃった。アツオさんに聞かれたかしら。
「むにゃむにゃ」
よかった。よく寝てるわ。
「むにゃ、君が世界一だよ」
あらやだぁ、きっとあたしの夢見てるんだわ。ふふふふアツオさんったら。
これでようやく安心できたわ。あたしも寝よっと。
「むにゃ……ナラオちゃん」
えっ!? 何それ。体はまだあたしが世界一でも、アツオさんの心の世界一はもうあたしじゃなくてナラオになってるんだぁ。どうしよ。娘に夫を取られた――心で負けたんだわあたし。むきゅうー。
◇ ◇ ◇
「さぁて、来週の
いやあ、やっとオレの番だね。まさに新打ち登場って漢字だよ。
実はさあ、ニートのオレもそろそろ将来のこと考えないとダメだなあって考えてるんだよ。べ、べつにキノコに言われたからじゃ、ないんだからねっ。
でさあ、オレ小説家を目指すことにしたんだよ。将来、隣の隣に住んでる落花傘先生みたいになれたらいいなとかって。
つうことで次号の多人駁論【たじんばくろん】九章は、なんと豪華四本立て(でもページ数は増えませんけど)でーす。
・億万長者クリオ
・クリオの小説家修行
・ナラオちゃんの失恋
・未定(お楽しみに!)
みんなちゃんと読んでよ。それじゃあ、ばいば~い、まったね~~。
「ちょっとちょっとクリオ、間違ってるわよ。新打ち登場って漢字じゃなくて、真打ち登場って感じでしょ。まず漢字の書き取りを練習なさい。じゃんけぇん、ぽんっ! うふふふふふふ」
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