七章「ナラオの日常」

29. いじめ

 ばか五人組がぼくの席の前にやってきた。


「なあなあツヨシ、こいつの下の名前十回呼んでみろよ」

楢尾ならお楢尾楢尾楢尾楢尾ならおなら、おならおならおなら、おー、くっせー!」

「アハハハ、笑えねえ。けど笑っちゃったぞ」

「うははは、たまらーん」

「あそうだ、ひらがなで名前をこうやって区切って逆順にしたらどうだ」


 そういいながら五人目がわざわざ黒板になにか書き始めた。


 あ

 した

 なら

 お


「もしかして、お・なら・した・あ? がはは、いけないぜ、教室でしたら」

「消臭スプレーぴゅ~~って、へっへっへ!」

「アハハハ、おっかしぃー」

「うははは、へのへのならお~」

「なーらーおー、くさいくさい!」


 ばかじゃないの。なにがおもしろいんだか。五年生にもなって。

 ぼくのクラスの男子ってばかばかり。とくにこのばか五人組はさいてーね。


「あああっ! おい、こいつ筆箱に耳かきなんか入れてやがるぜ」

「えっえー、なんだって!」

「おい、勉強に必要ないもの持ってきたらイハンだぞ」

「そうだそうだ。ボッシュウしないとな」

「こら、なんとか言えよ」


 あんたらだってカードとかもってきてるくせに。ほんとうざいんだから。


「おい、無視するな!」


 ちょっとこらしめてやろうかな。


「あのねえ、これはこうやって使うんだよ。ひょい。てね」


 ぼくは耳かき棒あいてむをふってやった。


「うう、ぅぅぅぅー」

「あっどうした、シンゴ」

「わぁだいじょぶかぁー。なんかおかしいぞ」


 口があかなくなってるのよ。


「やいナラオ。おまえ何した!」

「ぼくは耳かき棒をふっただけだよ」

「ウソつけぇ。よしタクヤ、とりあげてふってみろよ」

「わかった」


 タクヤがぼくの手から耳かき棒をうばいとって、まぬけ顔でふっている。そんなことしてもむだなのにね。


「ぅぅぅー、ぅー、ぅぅー」

「シンゴ、口があかないのか? 保健室行くか?」

「ぅぅ、ぅぅー、ぅー」


 シンゴは苦しんでる。なんなら鼻もふさいでやろうか?

 ぼくはタクヤから耳かき棒をとりもどして、またふってやった。


「うぅ、ぼへっ、ごほごほ」


 鼻をふさぐのはやめて、元にもどしてやったのよ。最初からつまってたみたいだしね。それに人殺しはしたくないもん。


「シンゴ、しっかりしろ」


 むせているシンゴの背中を、ツヨシがさすってやっている。なかま同士にはやさしいんだね。


「あー苦しかった。ありがとツヨシ。急に口があかなくなったんだ」

「そうか大変だったなあ」

「ああ、おれ死ぬかと思ったぜ」

「やいナラオ。おまえがやったんだろ。耳かきはボッシュウする。出せ!」

「いやだよ。ひょい」

「あっ!」


 名前忘れたけどこの四人目、すぼんのまんなかを手でおさえてる。


「ないない。うわぁーオレのがなくなってる。どうしよどうしよ」


 あははは。あっでも今のは、もどせないもーどだった。

 ずっとそのままだよ。半年前に自殺した秋野あきの紅楓かえでちゃんのことを思えば、軽いばつだよね。この男子が始めた悪ふざけが原因だったんだから。


「きっとまたこいつのしわざだぞ!」


 タクヤがぼくをにらんできた。


「何したんだ!」


 ツヨシがぼくの机をけった。そんなことしてもこわくないもん。


「いやあぶないぜ、こいつ。おれもう苦しいのはいやだ。ツヨシ、行こうぜ」

「おっおう、そうだな行こうか」

「うん、オレもやべえし便所で見てくる」

「よし。行くぞ」

「あっ待てよー、あ痛っ! お、おーい待ってくれー」


 あははは。おくれそうになった五人目が机に足をぶつけた。

 でも今のは耳かき棒使ってないからね。

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