六章「シマの御主人様」

25. 縞栗鼠シマの話(序)

 拙僧は縞栗鼠でもぉ。名前はまたシマ。栗鼠の姿をしているけど、本当の所は猫だったのぢぁ。一回死ぬまでは「にゃあ」「にゃあ?」「にゃあ!」「ふんがぁ」くらいしか言えなかったからでもぉ。

 にゃんでも最初じめじめした所でにゃあにゃあ言ってたら、当時小学六年生だったキノコさんが拾ってくれたのでもぉ。にゃあにゃあ言ってるやつは他にも何匹かいたのに、拙僧を選んでくれたのぢぁ。

 でも家で「こらぁーキノコ、ワシは猫が大嫌いなんじゃ。すぐ捨ててこい!」と霧介キリスケのおっさんが怒鳴ったので、キノコさんは拙僧を連れて、隣の家に駆け込んだのぢぁ。そこが御主人様の家だったもぉ。

 だけどそこでも、ワラビさんが「うちでも飼えないわ。もとのところへ返してらっしゃい」と言ったもぉ。

 で、そのときぢぁ。当時一歳の御主人様が拙僧にしがみついてきて、こう言ったのでもぉ。


 ――にゃんにゃん


 するとワラビさんとアツオさんが下のような会話をしたのぢぁ。


 ――まあナラオちゃんが初めて言葉をしゃべったわ。あなた聞いた?

 ――うん聞いたよ。これは縁起がいい。この猫を飼うことにしよう

 ――ええええ。そうしましょうそうしましょう


 それぢぁあ、最初に「うちでも飼えないわ」って嘘だったもぉ!

 まあそれはともかくとして、それまで御主人様は、「ううぅ」とか「うー」とか「ぅう~」くらいしか言えなかったそうぢぁ。そうすると、「にゃんにゃん」は言葉だけれど、「ううぅ」は言葉ではないと言うことなのかもぉ?

 ううぅ、拙僧にはよくわからんもぉ。今度フェルデナン君に会ったら、直接聞いてみることにするもぉ。でも諸君が、もし今すぐにでも知りたいのなら「ソシュール先生」でケンサク検索けんさく♪

 拙僧はちゃんと検索できんのぢぁ。拙僧の手がちっこいからキーボードに届かんもぉ。だからと言ってその上に乗って歩くと、例えばこんな風に表示されてしまうもぉ。


 cfghyt67ういこpl;@


 こんなのが検索できた所でなんの役に立たないのぢぁ。

 あと諸君が今テレビをつけているなら、拙僧がどのキーの上を順番に歩いたか当ててほしいもぉ。十六個のキーを入力してからdボタンを押すのぢぁ。でもどうなるか知らないもぉ。ははははもぉ、ジョウダン冗談じょうだん♪

 とまあこう言う特別な事情があるので、拙僧は御主人様に「拙僧にもスマホを一台買ってほしいもぉ」とおねだりしてみたら「でもシマはもち運べないじゃん」と言われてしまったもぉ。そりゃそうぢぁ、ははははもぉ。いくら軽くなったからと言ってもぉ、それでもまだ拙僧より重いもぉ。

 ぢぁあこの原稿はどうやって書いているんぢぁ?

 お前は万年筆ですら持てないだろうもぉ?

 なかなかするどいなもぉ!

 実はこれは拙僧が書いているのではなくて、拙僧が話すことを落花傘先生が書いてるだけだもぉ。


「おいシマ」

「なんだもぉ?」

「お前の話す通りに書くのは文末が鬱陶しい。読者諸兄もいらいらするであろう」

「なんだそんなことかもぉ。だったら地の文は適当に変えればいいのぢぁ」

「そうか。それで好いならそうさせて貰おう」


 なるほどなあ。小説家は読む人のことも考えて書いているのか。

 確かに「もぉ」とか「ぢぁ」ばっかりだとイライラするだろうてな、人間どもは。拙僧には想像もつかなんだなあ。はははは。


「所で先生」

「何だもぉ?」

「もぉ、拙僧の話し方を真似するなもぉ!」

「はははは、済まぬ済まぬ。少し使ってみただけだ。それで何だ?」

「あそうだったもぉ。拙僧が話して先生が書く、そしてまた拙僧が話して先生が書く、これだと時間がかかり過ぎるもぉ。もう睡いのぢぁ。拙僧は夜はちゃんと寝るのだもぉ。明日午前中に残りをまとめて全部話すから、それを先生が後でゆっくり書けばいいもぉ」

「はははは承知承知。それでは今夜はここまでだ。吾輩も寝る事にする」

「ふぅ~助かったもぉ」


 やっと解放されたのだ。黙ってたら徹夜になっただろう。やれやれ。

 と言うか、栗鼠が徹夜して小説を書くなんて話聞いたことないよ。

 と言うか、落花傘先生は拙僧の話をそのまま使おうとしたんだきっと。それぢぁ小説家ぢぁなくて筆記者だよまったく。こっちは原稿料はもちろんのことギャラももらえないしなあ。まあ向日葵の種をもらったけど。

 と言うか、いくら事実を元にした風刺だからってさ、それでもフィクションなんだから、ちゃんと先生が文章を考えるべきだよ。

 と言うか、まあそんなだから、あの先生には最近どこからも執筆依頼がこないんだ。昔は有名だったかもしれないけど、今はただのジジイだもぉ。

 と言うか、拙僧は睡いのであった。だからもう寝る。

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