小説家戦記 - 最弱の国に転移しちゃったが、ここは小説家らしくチートスキル「想造」で最強を作る!
はやしはかせ
第1話 1話と最新話のPV差が激しい男
「はあ、今日も読まれねえなあ」
俺はいつものように溜息をついた。
皆さんご存知の、最強の小説投稿サイト、カクヨムに自作を公開するようになってから何年も経つが、自作が全く読まれない。
何を書いてるかって?
タイトルが長いからここでは伏せるけど、よくある異世界転生ものに追放と少しのオリジナリティを足したヤツね。
自信作っちゃあ、自信作よ。
これがまあ、読まれないのよ。
書いてるときは「俺って天才、ヒャッハー」な気分だけど、いざ公開すると、まあ読まれない、読まれない。
PVが増えないの。評価がつかないの。感想もないの。
まとめると、読者がいないってことね。
「何がいけないんだろうなあ」
読者に好まれそうなテンプレ要素も入れ込んだし、地の文だって読みやすい気がする。
ここまで来たらぶっちゃけちゃうけど、ランキングに入ってる凄い作品ともそんな遜色ないと思うのよ。きゃっ、言っちゃった。
「ざまあ要素が足りないかなあ。いっそハーレムもやっちゃうか?」
とはいえ作風に色気がないのは俺の駄目な所。
そっち系の描写が全然ダメ。
リアリティが出せないの。
読者が求める要素を満たすもんが書けないって自覚があるのね。
だって、俺、そういう経験したことないもん。
現実世界で魔法使いになれる要素満たしちゃってるのね。
詳しいこと書くと惨めになるから、省くけどさ。
30代、童貞、魔法使いってネット検索すりゃわかるよ。
って言ってるようなもんか、これ。
とにかく、俺は行き詰まっていた。
PV増えねえかなあとリロードを連発する意味の無い時間を過ごすと、たまにやって来るきつい一撃がある。
「フォロワーが減っとる!」
14あったフォロワーが12(実話)!
数秒の内にふたりもいなくなった(実話)!
ついでに星まで減らされとる(実話)!
カクヨムで投稿してからいろんなことで一喜一憂してきたけど、最高にきついのはフォロワーが減ることだよね。
捨てられたってことだからさ。
読者を満足させることが出来なかったっていう証明だからさ。
こうなるともう、面白くなくてごめんなさいとしか言えないけど、このフォロワーの減りが創作意欲を削るんだよねえ……。
もう何もかも嫌になるってかね。
「そんなに嫌ならこっちに来ればよい、ケケケ」
「おおっ?!」
誰かに話しかけられたわけではない。
俺と向かい合うノートパソコンの画面にはカクヨムの投稿フォームが映し出されているのだが、そいつに文字が勝手に打ち込まれたのだ!
大事なところだから、もう一度言おう。
あまたある小説投稿サイトの中で、一番使いやすくて美しく、シンプルで清潔感あふれるデザインのおかげで、作者が気持ちよく執筆できる、とってもクリエイティブな宇宙最強のカクヨムの投稿フォームに、勝手に文字がっ!
「なんだこれは!」
一人暮らしの小さな部屋に俺の絶叫が響く。
「ケケケと書くくらいだから、魔女的な老婆か……?」
「さすが小説家。わかりみが速いな、ケケケ」
また文字が浮かんでくるので、小説家志望の俺もついついキーボード入力で返事をしてしまう。
「あんた、誰だ? カクヨムの編集さんか?」
もしそうなら、書籍化の打診かしら。ワクワク。
「いかにもワシは史上最高の魔女、オボロばあさんだよ」
「……いかにもが噛みあってねえぞ」
編集さんじゃないのか。がっかりだ。
「無駄口叩いてる暇はないよ。あんたも異世界小説書きまくった身なら察しはつくだろがい」
「まさか……、マジで転生!?」
「そうさ。こっちに来んしゃい、
「自然な流れでさらっと俺の名を紹介させる巧みな技……、お前もまさか小説家?」
「だから魔女だっていうとるがな。とにかく来い」
「駄目だ駄目だ。俺みたいなヤツ異世界に連れ込んでも速攻で追放されるのがオチだろ」
見た目も中身も何もかも、悲しいくらい低スペックなのは自覚してるからね。
「そこは心配いらないさ。なんせあんたが行く国は弱いからねえ」
「弱い……。それはそれで嫌だ……」
「えり好みするんかい」
どうせ、異世界に行くならしがらみのない平和な国に生きたい。
一日だらだらして、たまに小説書いて、ほとんどの時間をゲームして、あとは寝る。
ああ、夢のリワード生活。
「弱いっていうのはどんくらいよ。信長の野望で説明してくれや」
俺が異世界に誘われる形なんだから、俺に合わせた、わかりやすい説明をして欲しい。
「そうさね、土佐の
「秒で
「ちなみに三國志で例えると、
「なん、だと……?!」
公式のガイドブックにすら、こいつでクリアするのは不可能だと見捨てられた、あの橋瑁だと?!
「勘弁してくれ、そんな切ない国、行きたくないよ」
しかし、オボロばばあは書いてしまった。
「残念だけど無理さ。だって、もう、行っちまってるからね。ケケケ……」
「……なな!」
まさか最後に見た日本語がケケケとは……。
そう、俺は本当に異世界に飛んだ。
これといった派手なエフェクトもなく、気がつけば大草原。
最初に感じたのは気持ちいい風だ。
鼻腔が洗われるような涼しくて爽やかな空気。
置かれた現状なんて忘れて、洗剤のコマーシャルのように両手を広げて美味しい空気を味わう俺だったが。
「あなたは……!?」
誰かの呼び声で俺は現実に戻った。
見れば、大勢の兵士達に囲まれていた。
皆が槍を持ち、奇怪な動物を見るように俺を見ている。
「星降りの儀が成功したというのか……」
とか、
「まさか本当に上手くいくなんて……」
「これで成功と言うことでいいのか?」
と皆さん驚いてらっしゃる。
どうやら異世界転生に慣れているのは俺の方みたい。
仕方ない、こっちから動くか。
「こんちは、とりあえず、どうすりゃいいすか」
挨拶してみると、兵士達はハッとなって、自分の仕事を思い出したらしい。
「異世界の勇者に敬礼!」
がちゃがちゃっと鎧を鳴らして、兵士達が膝をつく。
「勇者かよ……」
どうやら俺は本当に異世界ってヤツに来ちまったらしい。
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