第6話 坑道
ソフィアは坑道をどんどん奥へと進む。
コークマッツから受け取った地図には、網の目のような坑道全体が細かく記載されているが、出口までは比較的簡単なようだった。地図によると、かなり進んだ後、左に進み、そしてさらに進む。その後、再び左へ進むと最初の救難活動をやっている坑道へと出ることができるようだ。
ソフィアは松明の灯りを頼りに、足元を注意しながら先へと進む。
奥へ進むにつれて、坑道内の気温が下がって来る。かなり肌寒くなってきた。
しばらく進むと、ソフィアは地図にない横穴を見つけ困惑した。
よく見ると、その穴は先日コークマッツから聞いた通り、大きさが少し小さく、掘り進め方も荒いものだった。
ソフィアはその横穴を覗き込むように頭を下げた。そして、松明を持った手も下げ、横穴の奥が良く見える様にした。
目に入ったのは、中は少し先で曲がっている様子だった。さらに奥を見通すには、先に進まないといけないが、ここで時間をつぶしている場合ではないと考え、地図にない穴は無視することにした。
先を進むと、途中、他にも横穴だけでなく地面や天井に縦穴を見つけることができた。この穴は一体なぜ出来たのだろうか?
さらに坑道を奥へと急ぐ、すると地面に剣が落ちているのを見つけた。
これは王国軍の兵士の物のようだ。ソフィアは屈んで剣を手にした。剣先には茶色い液体がべっとりと付着している。これは血ではないようだが、いったい何だろう?
この剣は行方不明となっている兵士のものであろうか?
ソフィアは拾い上げた剣を地面に置いて、他に落ちているものが無いかどうか地面を注意深く見回した。すると地面にはどうやら大量の血と思われるものが、引きずられた様に奥へ伸びているのに気が付いた。
ソフィアは気になって、その血の跡を追うように奥へと進んでいった。途中でまた別の小さな横穴があり、そちらのほうに血の跡が続いている。
おそらく、この血は先ほどコークマッツ達と奥へ入っていった兵士のものであろう。怪物と戦いになったと言っていた。
状況から見て、怪物と戦った兵士が連れさられてしまったようだった。
ソフィアは急に恐怖を感じ、自分の剣を抜いた。そして、血の跡は無視して、本来の進むべき坑道を進む。早く脱出しなくては。
ソフィアは師であるクリーガーに剣を習い始めて半年と少し、まだまだ剣の腕前はいまいちで自信がなかった。しかし、魔術を師や傭兵部隊の魔術師マイヤーから習っていたので、火炎魔術と水躁魔術が使える。
そう言うこともあり、ソフィアは、いざという時は、魔術で切り抜けることにこころに決めた。
ソフィアは坑道を奥へと進む。
手にしていた剣を地面に突き刺し、ポケットに入っていた地図を取り出し、それを確認する。そろそろ左へ曲がることができる別の坑道とつながっているはずだ。ここまでの途中でも怪物が掘ったと思われる横穴が度々あり、これが地図にある別の坑道かどうか少々、迷うことがあった。
横穴を見つけると、その穴の大きさが小さく掘りの跡が荒ければ、ソフィアが通るべき坑道でないと認識して、先をまっすぐに進む。
しばらく進むと、坑道の奥の方から、聞いたことの無い、唸り声のようなものが聞こえた。
ソフィアは一旦進むのをやめ、注意深く耳を澄ませて、その唸り声のようなものを聞く。坑道の壁に共鳴して声の主の正確な位置はわからないが、近くではないということはわかる。
ソフィアはハッとして、索敵魔術を使えば、声の主がどれぐらいの距離に居るか判別できることを思い出した。
ソフィアは意識を集中させ、索敵魔術を使う。しかし、近くには何も感じることができなかった。
さらに集中力を高め、注意深く索敵を行う。すると、坑道をしばらく進んだ辺りに何者かが四つか五つ居ることが確認できる。しかし、それが人間か怪物の識別は出来ない。
兵士の生存者がいるのだろうか?
もしくは、感じ取ったものが全て怪物であれば、こちらは一人だ。それらに遭遇したとすれば、戦闘に不慣れなソフィアに勝ち目はないだろう。
ソフィアは奥へ進むのをやめ、その場でしばらくどうするか考えた。しかし、これまでの道を戻っても、落盤した地点に戻るだけだ、外へ脱出することは出来ない。
ここは、脱出するには進むしか選択肢がないと、ソフィアは腹をくくって再び、ゆっくりと慎重に前に進みだした。
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