第6話 彼氏としてご挨拶

「あぁ~もうホント嫌になるんだけど!」

「頑張ろうよ!リリカちゃん」

テーブルの上で姿勢をどっと崩したリリカの頭を撫でる。

私立は試験が一年に数回も行われる。成績と学力を更に高める為の生徒にとっての必須な行事だ。

ラッチにとっては、決して面倒なことではないが、勉強が得意じゃないリリカのテスト勉強を手伝うと、大変だ。

更に、クラスの子に教えるとなると、毎度のことながらに、ラッチの負担がかかる。しかし、それを完璧にこなすのがラッチの優れている所である。

「ていうか、ラッチは勉強しなくて大丈夫なの?

トップの成績が落ちるんじゃない~?」

リリカは頭を持ち上げて、意地悪に言った。

だが、ラッチはベッドに座り、首を横に振る。

「私はそこまで勉強不足じゃないから」

「ま、ラッチは地頭が良いし、天才肌だからね。勉強してもしなくても点数は変わらなさそうだしな……」

リリカがしょぼんと、ぱっちりした目を伏せた。

これは不味いと考えたラッチは、慌てて

「でも、私だって欠かさず勉強して今の成績をキープしてる。シャムに教えてもらったりしてるし」と答える。ラッチは元から頭が良いわけではない。

ラッチが計画的に勉学に励んで、問題集に毎日とりくんでいるからだ。

確かに、ラッチは間違いなく天才であるため、

他の生徒から見たら、完全に敵わない存在であることが正しい。


( 別に私も皆と変わりないのにな。たくさん頑張ってるだけだもん)


「それもそっか。頑張んないと………」

ほっと安堵の息をつく。

「うん!その調子!」


そのとき、音楽が部屋に鳴り響く。

ラッチの着メロだ。

スマホがベッドの布団に隠れて、震動していた。

ラッチは布団の中に手を突っ込み取り出す。

画面を開くと馬 塚司からだった。

「ごめんね、場所変えてくる」

そう言うとリリカに背中を向けて、客人用の部屋に入った。「もしもし」と声をスマホにあてる。馬からの返事は焦りが走っているようだった。


「ラ、ラッチ。財布を落としてないかっ?」

( え?財布? )

「今、確認してくるね……」

ラッチは急いでランドセルの蓋を開くと、あっと思った。


「ごめんなさい……それ私かも」

「…良かった。ラッチので合ってたね」

「あっ!それじゃぁ今、馬君の所に行くね!」 

「いや、逆にこっちが向かってる。待ってて」


( ―――え ? )


分かったと答え、通話を切る。

スマホを握りしめて、膝を床に落とした。

ラッチは床を眺めながら、考えた。


( 馬君の前に最初に出てくるのってまさか! )


親という偉大な存在の…………………。


シャムの、可能性がある、はずだ。


( でもでも流石に友達だって認識されるよね!?大丈夫だよねぇ!? )

胸がドクンドクンと痛い。不安になることはもうないはずだ。馬君は礼儀正しい人だし、失礼なことは言わない。だって、それ以外には何も無い。



ぴんぽ――――ん



来た。来て、しまった………。

ラッチは部屋で待っていたリリカにもう少し待機して欲しいと言い、玄関の元へ駆け込んだ。

( あああっ )

もうシャムが馬と対面して、会話をしていた。

変なことは言っていないだろうか。


「ありがとうね。あ、どうせなら家にいらっしゃらない?」

「ありがとうございます。でも塾の時間なので」

「そうなの……残念ね」

ラッチはほっとして馬に頭を下げた。

財布を受け取ると、「私の為にわざわざ、届けに来てくれて本当にありがとう」と頬を赤らめて、微笑んだ。馬はにこっと笑って頷く。

「ラッチ。素敵な友達ね」

恋人なんだけどね。

シャムにも秘密にしていて、一家ではメイド長とラッチしか知らない。

そういう特別な関係だ。


すると馬が口を開き、いいえと答える。

「僕はラッチの彼氏なんです」

きっぱりと馬は申した。

更に、シャムの前で。

それからは、沈黙の空気が流れた。

シャムの顔は固まり、ラッチの顔は赤くなる。


( えええええええ――――っ)


「………あ、えとそうなのね。びっくりしちゃったな。よ、よろしくね……」

シャムは戸惑いながらも、気まずい空気を変えようとした。ラッチも何度も力強く頷いて、そうなんだ~と笑ってみせた。

馬は察することなく、「失礼しました」と去っていった。

「あ、あのシャム~」

「――――――っ!!」

突然、シャムがラッチに抱きついた。

「ラッチったら!!あんな彼氏いたの!?」

嬉しそうだ。堪らなく嬉しそうだ。

まさか、認めて貰えるなんて。

「う、うん。数ヶ月前に付き合ってるの」

階段から降りてきたリリカがびっくりして、二人の元に駆け寄る。

「なになにっ?どうしたの?」

リリカに事情を話すと、愛想良く笑った。

「嬉しいよね。娘に彼氏が出来ることって」

「そ、そっか」


良かった。

ラッチはそう思い、財布をポケットの中に落とした。



















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ラッチストーリー 綾音 リンナ @akanekorin

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