ルーニー

Jack Torrance

空想の友達

ロンドン郊外のブリストル。クリフトン吊橋も観光の名所となっていて観光客で賑わっている。少し閑静な住宅街にバロックスタイルの建築様式で建てられた大邸宅と大庭園を構えるハチェット家。主人のエドガー ハチェットは輸入代理の事業で一代で財を成しこのブリストルに新居を構えたのは妻のローズマリーと結婚して1年目の年だった。この地に移って2年目の事だった。母親と子どもの白骨化した遺体が見つかった。ローズマリーはエドガーに言った。「あなた、親子と思われる白骨化した遺体がここから13マイルくらいしか離れてない所で見つかったそうよ。何だか物騒だわ」「ローズマリー、心配し過ぎだよ。家はセキュリティは万全だしお手伝いさんもいるじゃないか」エドガーがローズマリーの不安を取り除こうとやさしく言って聞かせた。「そうね。家には最新式のセキュリテぃと私とあなた、それにお手伝いさんが3人いるものね」こうして2年の歳月が過ぎてローズマリーとエドガーに第一子が生まれた。女の子だった。名はシャロンと名付けられた。シャロンは日に日に成長していった。近所には同年代の子を持つ家庭はなく、シャロンの遊び相手はローズマリーかお手伝いでまだ27歳のジェネッタかどちらかだった。エドガーは出張なども多く家を留守にする事も多々あった。シャロンも4歳になり自分のお気に入りの遊びも開拓していた。その中に空想の友達と遊ぶというものも含まれていた。その遊びはふと始まった。ローズマリーが庭でティータイムを寛ぎながらシャロンを庭で遊ばせていた時だった。「ジェネッタ、シャロンは私が見てるからあなたも少し休憩していいわよ」「はい、奥様。ありがとうございます。では、少し休ませていただきます。御用の時にはお呼びくださいませ」「ええ、そうするわ。行っていいわよ」グレンアンプルの茂みで遊んでいたシャロンの声がした。「ルーニー兄ちゃん、またね」ローズマリーがシャロンのいる茂みに向かった。「シャロン、今さっき誰とお話してたの?」シャロンはあどけなく答えた。「ルーニー兄ちゃんよ」「ルーニーって何処の子なの?お庭に迷い込んで来た子なの?」「ううん、あたし、そんなの知らないわ。僕の方がお兄ちゃんだからルーニー兄ちゃんって呼んでもいいよって言ってたわ」「あら、そんな事言ってたの?さあ、お家に入りましょ」ローズマリーはこの模様をエドガーに伝えた。「ローズマリー、君にもあっただろう?人形に名前を付けたりとか。シャロンも空想の友達を作って遊んでいるんだよ。周りに同世代の子とかいないしさ、それに兄弟もいないから自分の世界を作って楽しんでいるんだよ。放っておいても大丈夫さ」エドガーはローズマリーに言って聞かせた。シャロンがルーニーと遊ぶ時間は日に日に長くなっていった。部屋のカーテンに隠れるシャロン。「シャロン、何をしているの?」「ルーニー兄ちゃんと隠れん坊してるのよ」「シャロン、ルーニーはここにいるの?」「うん、さっきまでいたけどママが来たから帰っちゃったみたい」ローズマリーはまたエドガーに相談した。「あなた、シャロンがあのルーニーって空想の友達と遊ぶ時間が長くなってきているのよ。私、何だか気味が悪くて。どうしたらいいのかしら?」「君は気にし過ぎだよ。シャロンも学校に行き出せば友達も沢山出来てその内にその空想の友達とは遊ばなくなるよ」エドガーはローズマリーの不安を和らげるようにやさしく言って聞かせた。エドガーが出張で家を留守にしていた時の夕食。「シャロン、今日はママが忙しかったから遊んでやれなくてごめんね。今日は何して遊んだの?」「朝はジェネッタとボール遊びしたり花を摘んだりしたわ。昼からはルーニー兄ちゃんと自分のお部屋でお話していたわ」「ふーん、それでルーニーとはどんなお話をしていたの?」「ママとパパのお話よ。あたしのママはとーってもやさしくて綺麗なのよ。パパはお仕事が忙しくて家をお留守にする事が多いのって言ったわ」「それでルーニーは何て言ったの?」「ルーニー兄ちゃんはね、ママは僕とよく遊んでくれたけどパパは2週間に1回くらいしか会わなかったよって言ってたわ。君のママは見た事あるけど君のパパには僕がここに遊びに来るようになってからはまだ一度も見てないよね。君のパパに会ってみたいなって言っていたわ」「へえ、そんなお話をしていたのね」翌々日にエドガーが出張から戻って来た。エドガーも度重なる出張で疲れているだろうと思いシャロンの話はしなかった。エドガーは夕食を済まし23字に就寝した。翌日は休みだった。翌朝、エドガーは9時になっても起きて来なかった。寝室を別にしているローズマリーはジェネッタから聞かれた。「旦那様はまだお目覚めになられていないようですが、どうなされましょうか?」「疲れているんだろうから、まだ休ませてあげててちょうだい」「はい、奥様、かしこまりました」10時の刻を鐘が撃った頃だった。8、9人ほどの背広を着た男達が門の呼び鈴を鳴らした。ジェネッタが応対しローズマリーに伝えに行った。「奥様、ブリストル警察の方が旦那様にお会いしたいと言っておられます」が「えっ、警察の方?一体、何の用かしら?私がすぐに応対に行くから少しお待ちしていただいてちょうだい」「はい、かしこまりました、奥様」ジェネッタは門に向かって警察の刑事と思われる男達を玄関に招き入れた。ローズマリーはヴィクトリア朝のアンティークの三面鏡の前で髪を解かしつけて身だしなみを整えて玄関に向かった。「お待たせいたしました。私はこの家の主人エドガー ハチェットの家内のローズマリー ハチェットでございます。本日は警察の方が我が家にどのような御用件でお越しでございましょうか?」白髪混じりの短髪で口髭を蓄えた生真面目そうな刑事が言った。「奥さん、ご主人のエドガー ハチェット氏に8年前のパメラ リードマン及び子息のルーニー リードマンの殺人、死体遺棄の容疑で逮捕状が出ています。ご主人に署までご同行願いたいのですが。後、家宅捜査にも入らせてもらいます」ローズマリーは驚愕し思案に暮れた。あの主人が殺人?あの母子の白骨遺体が見つかった事件も鮮明に覚えている。これは何かの間違いだわ。ルーニー リードマン?えっ、まさか。シャロンの空想の友達もルーニー。何なの。この細い糸が戦慄が忍び寄って来るように複雑に絡まってくる感覚は。何、何、何?動転したローズマリーは狼狽えながら掲示に言った。「まだ主人は休んでいます。起こしてきますので少々お待ちください」ローズマリーはエドガーの寝室に向かい扉を開けた。ベッドに近づきエドガーを起こそうとしたその時。「きゃあーーー」ローズマリーの悲鳴が轟いた。複数の刑事とジェネッタがエドガーの寝室に駆け足で向かった。ベッドの傍らで崩れ落ちているローズマリー。そこには、何かに怯えたような苦悶の表情で絶命していたエドガーの骸が横たわっていた。ジェネッタがローズマリーを抱え起こした。「この事はお嬢様にお伝えした方がよろしいのでしょうか?」「いいえ、まだ黙っていてちょうだい」エドガーの遺体は司法解剖に回され原因不明の突然死と断定された。警察でローズマリーは説明を受けた。「ハチェット氏とパメラ リードマンサンはあなたと御結婚される以前からの愛人関係にあったようです。DNA検査の結果子息のルーニー君はハチェット氏の隠し子だったようです。愛人関係のもつれでリードマン親子は殺害されたと我々の捜査で解りまして、容疑者にハチェット氏が浮上してきたという訳です」黙って説明を聞くローズマリー。何も知らないシャロンは自室でルーニーと語っていた。「シャロン、君のパパに昨晩会ったよ。どうやら僕は君のパパに嫌われていたみたいだったよ。とても残念だよ。君とも今日でお別れだ。それじゃ、シャロン、僕の妹よ」「そうなの?今日でもう会えなくなっちゃうの?つまんないわ、あたし。寂しくなっちゃうわ。それじゃ、バイバイ、ルーニー兄ちゃん。また遊びに来たくなったらいつでも来てね」

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ルーニー Jack Torrance @John-D

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