第6話 お願いタイム
「地球ちゃんおめでとう!」
徳丸が早速、地球をちゃん付けで呼んでいる。
秀将の方はまだちょっと馴染めない感じなので、祝福だけしておくことに。
「おめでとう!」
『今回は理想的な仕上がりになりました。相手星系を見て下さい』
すると新たなディスプレイが出現。そこにプロキシマ・ケンタウリ系が映し出される。
これは、素人目でもすぐに分かった。
親球のプロキシマ・ケンタウリの周囲を回る惑星たち。
その惑星たちが、綺麗に等間隔に並んでいるではないか。
「こ、これは……!」
精巧な工芸品。
匠の技。
そんな感想が静かに湧き上がってくる。
星を片手で持てる程の巨人が、1個1個測って配置していったかのようだ。
素人でも理解できる造形美だ。
それに対し、太陽系の仕上がりは雑である。
どうも狙った通りにならなかった感が滲み出ていた。
「これは僕でも分かりますよ、これなら太陽系の勝ちですよね!」
秀将がそう言うと徳丸も頷きを返した。
「こうも差が出るものなんだね。いやはや参った。しかし驚きだ。この仕上がりを予測して一球ずつ撃って……いや、投げて? いったというのか」
「当てながら相手の星の軌道を調整して、で、自分の星もこの辺りを回るようにして……なんか、カーリングにも似てますね」
「なるほど……思ったよりも奥が深い」
普通、勝負といえば相手の星をどれだけ減らしたかとか、そんなものだと思う。
しかしこの星系輪舞祭は違う。
『これで分かりましたか? この祭は相手を倒せば勝ちなのではなく、相手をより良く仕上げたら勝ちなのです』
変わった勝負だ。
でも、見たことの無い新鮮な勝負だ。
『対戦が終わりましたので、星の位置が元に戻ります。戻りました』
告知している最中にもう戻ったらしい。
戻ったとはどういうことか?
地球や木星が太陽系に戻ったということであろうと思われる。
確かめる方法は簡単。
地球の唯一の衛星を探せば良い。
周囲を見回すと、やはり月が見付かった。
瞬時に元通りになるのは超常現象だが、もはやここでは何が起きても不思議とは思わない。
月を見ると帰ってきた気分になった。
自分の家に帰ってきた気分。
太陽系は故郷なのだと初めて感じた。
『次はお願いタイムになります』
「お願いタイム?」
いったい何が始まろうというのか。
お願いとは何だろう。想像もつかない。
すると、全てのディスプレイがいったん消えた。
新たなディスプレイが現れる。
プロキシマ・ケンタウリ系が映し出される。その中で最も外側を回る星に矢印が付いた。
『この星をもらいます』
ディスプレイがもう一つ出現、そこに太陽系が映り、海王星の外側に新たな星が回り始めた。
プロキシマ・ケンタウリ系では、矢印で示されていた星がなくなっていた。
地球ちゃんがもらうと言った通り、本当に、星をもらったようだ。
『相手の要求は海王星のコピーのようです。負けた方は、もらう要求はできませんが、コピーの要求ならできます』
そうしたら、プロキシマ・ケンタウリ系の中ほど辺りに海王星が回り始めた。
太陽系にも海王星は残ったままだ。
それはずいぶんと奇妙な光景だった。
ポケットをたたくとビスケットがふたつ。
秀将はそんなことを思い浮かべた。何これ、錬金術じゃん。
「凄い、凄いぞ加賀美君、質量が増えた! 星をコピーしたってことだろう、この宇宙の中で、質量が純増したんだよ!」
徳丸はもっと知的な感想を得たらしい。質量保存の法則とかそんなところか。いつ習ったのかも忘却の彼方だ。
秀将は俗な感想しか浮かばなかったので何となく言い出せなかった。錬金術……
『これで対戦は終了です、お疲れ様でした! 次の対戦相手が決まるまでは自由に過ごしていて下さい。あ、「ここと対戦したい」みたいな希望があれば皆さん言って下さいね』
「ベテルギウス!」
間髪入れず徳丸が叫んだ。
そのあまりの速い反応、コンマ何秒。
剣の達人が辻斬りに背中から斬りかかられたにも関わらず振り向いて剣を受けたみたいな神技。
そもそも希望があれば言って下さいと言われることを予想してもいないのに、コンマ何秒でもう叫んでいたのである。
いったい何なんだこの人は……と秀将はぽかんとしてしまった。
周囲からも次々オーダーが飛び始めた。
「アークトゥルス!」
「ベガ!」
「UY■■■!」
もはや聞き取れないような星の名前もある。
次々と上がる声に空間の熱気は高まっていく。
オークションみたいな盛り上がりだ。
秀将も何か言わなければならない気持ちになってきた。
「シリウス!」
とりあえず分かるのはこれくらいだ。星といえばシリウス。一番明るい星。
『皆さん早速ありがとうございます。参考にしますね!』
抽選箱に自分の名前を書いて投票したようなものだ。希望が叶うか分からないが、楽しみにしておこう。
解散の流れになり、人の流れができ始める。
皆が向かうのは外の街だろう。
今度こそ、秀将は街へ向かった。
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