成人男性Xの日記

たまごかけマシンガン

成人男性Xの日記

 これは、とある遺跡で発掘された日記である。私たちは日記の書き手を『成人男性X』と呼称し、発掘された順に彼の日記を掲載する。


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『一枚目』


 戦争が始まって、もう数ヶ月が経つ。早く娘と妻の姿が見たいものだ。


 AI部隊が派遣され、我々は戦う必要が無くなると噂されていたが、蓋を開けて見ればどうだ。IT後進国である我が国のAIは簡単にハッキングされ、完全に機能停止した。


 結局、ろくに訓練もされていない、素人集団の自分達が戦場に駆り出されることとなった。「国の為に命を懸けて」と言うものの、自分には愛国心なんて殆ど無い。何故、会ったこともない中年親父の為に死なねばならないのか。


 絶対、自分は生きて帰る。写真に映った、娘に誓おう。


『二枚目』


 今でも震えが止まらない。何だアレは?


 戦車で吹き飛ばされても再生し、炎で焼いても再生し、ついぞ殺しきることが出来なかった。数十メートルは離れていたのに、異臭で鼻が腐りそうだった。


 戦場にバケモノ立っていた。敵国の生物兵器か? 彼の言っていた『とある陰謀』と関係はあるのか?


 奴の正体が何にせよ、あんなモノが居たら我々に勝機は無いのでは? 今日だけで一体、どれだけ死んだのか。


 もう考えたくない。今日は早く眠ってしまおう。


『三枚目』


 どっかの新興宗教団体が大規模なデモを起こしたようだ。何でも、例のバケモノを信仰する宗教だとか。


 この絶望的な状況で頭がイカれちまったようにしか思えない。


 ただでさえ、こちらは大変なのに、これ以上、面倒ごとを増やさないでほしい。


『四枚目』


 突然、友人が「この戦争には『とある陰謀』が潜んでいる」なんて、突拍子も無いことを言い始めた。


 普通なら、笑うこともできないジョークだと、適当に流すものだが、彼がそんな冗談を言うようにも思えない。彼は誰よりも仲間の死を悲しむような、兵士には向いていない優し過ぎる男だ。一方、そんな男が陰謀を探るスパイに向いているとも思えない。


 やけに彼の言葉が耳に残る。


『五枚目』


 ついに、あのバケモノを殺す方法が編み出された。特定の毒に弱いらしく、毒の入った銃弾を数発撃ち込み、動きを止め、そのまま基地へと運び、大量の毒ガスを浴びせれば完全に活動を停止するらしい。


 いつだって、希望という物は残っているのだな。


『六枚目』


 例の宗教団体がバケモノを殺すことに反対するデモを起こしたようだ。デモは直ぐに鎮圧されたみたいだが、本当に傍迷惑な話だ。


『七枚目』


 今日、友人に例の宗教の勧誘をされた。何と、彼こそが教祖らしい。


 すごくショックだ。今までの彼との思い出が、全て歪んで見える。


 『とある陰謀』の話も、彼が狂って流したデマだったようだ。


『八枚目』


 ついに、自分は前線から降りることが出来た。


 代わりに回ってきたのはバケモノを処刑する仕事。と言っても、ただ作業的にボタンを押して、部屋の中にギチギチに詰め込まれたバケモノを毒殺するだけだ。


 少々暇な仕事だが、前線で戦うよりもずっと安全だろう。


 日に日にバケモノの数は増えてきているが、こちらの技術も数日単位で向上し、より効率的に殺せるようになっている。


 我々の勝利も近いだろう。


『九枚目』


 ついに戦争が終わった。我々の完勝だ。明日には娘の元へと帰れる。小躍りでも踊りたい気分だ。


 そういえば、例の宗教団体が一斉に処刑されたようだ。私の元友人も混ざっていたと思うと、少し後味が悪い。


 でも、今はそれよりも、この昂るような愉悦に身を浸そう。


『十枚目』


 今日は娘にピンクのリボンを買った。正直、プレゼントなんて何を選べばよいか分からなくて不安だったが、喜んでくれたようでホッとした。


『十一枚目』


 彼の遺書を見ると、全てが書かれていた。今の世界の状況が、その内容が真実であると証明している。


 この世界に希望はない。


 私はもう罪の重さに耐えられない。


 今から自害しようと思う。


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 Xが何故、自死を選んだのかは分からない。他にも、この時代の出来事は謎ばかりで、使用用途の不明な物が大量に出土している。遠く離れた別の遺跡からは、おかしな形をしたピンクの布が出てきたそうだ。

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