5秒前に戻れる女子高生、デスゲームの企画進行役で平和な世界へ尽力する
セセラギ
第1話
この国には
1つ目は
2つ目は
献体法は1ヶ月に1人だけ、16歳以上なら全国民対象ということで、誰しもが自分は選ばれるわけがないと思っている。若年者戦闘法の方が重大なのだ。高校を卒業してしまえば選ばれることはなくなるのでとりあえず関係なくなるわけだが、対象期間内での確率は結構高い。まあ高いと言っても献体法に比べればの話ではあるが。
そんな法律だが、中高生はやはり自分は選ばれるわけがないと思っている。そう、私も思っていた。実際に選ばれなかったし。
しかし、まさか献体法の方で自分が選ばれるとは思わなかった。なんで? 宝くじ1等の方が絶対に確率低いよ?
「
「……つっきー、今までありがとう……」
「ひっく……ぐす……」
先生方やクラスメート、大多数の人が泣いていた。泣いていない人もまるでお葬式に参加しているというような面持ちで私を取り囲んでいる。そしてそれを見張るように黒服の男達。
昨日の夜に決定したようで、1時間目の授業が始まる前に身柄を拘束された。
見るからにVIP待遇の高級車に乗せられ、学校を後にし家へと連れられる。今度はお母さん、お父さんとのお別れだ。
「ごめんね……何も……してやれなくて……」
「まさか、こんなことに……」
事前に連絡がいっていたらしく、私が到着する前からすでに泣いていた。両親がこんなに泣いている姿は初めて見た。
家族や友人とのお別れは名残惜しむ間もなくあっさりと終わらせられる。献体法に選ばれるとすぐに国の担当組織が迎えに来て支配下となってしまうので、その時点で国の物となってしまい自由などない。
またすぐに車に乗せられ、その間も黒服から声がかけられることはない。彼らにとってはただの事務作業、流れ作業の感覚なのだろう。
しばらく走行していると大きな施設の敷地へと入り、そのまま建物内の地下駐車場に駐車した。無言で車のドアが開けられたので降りろということなのだろう。車から降り無言のままついて行く。
建物内を歩き、エレベーターに乗り、また歩き、エレベーターに乗る。迷路のような複雑な構造だということがわかる。厳重にロックされているドアを何度か通ると、壁も天井も真っ白で何もない部屋へと通された。白衣を着た1人の男が立っている。
「選ばれし献体様、ようこそおいで下さいました。久しぶりに若い女性ということでワクワクしております」
ニタニタとした笑みを浮かべて薄気味悪いやつだ。年齢は40代半ばくらいだろうか。
「私はこれからどうなるんですか?」
「それはもちろん、あんなことやこんなことをされます」
本当に気持ちが悪い。恐らくは拷問に近いようなことが待っているのだろう。
「その前に、一応規則なので救済措置というのをやってもらう予定ですが……どうせ助からないと思いますよ。無駄な時間です。やります?」
「……ええ、助かる可能性が1%でもあるなら」
「おお! 本当に1%の確率のゲームなんです。よくわかりましたね」
別に正解したところでまったく嬉しくない。一体何をさせられるのだろうか。ゲームというからにはそんなに難しいことではなさそうだが。
「今から100枚のカードを裏返して並べます。その中の1枚が当たりで見事引き当てれば献体は免れます。1発勝負ですよ。やるだけ無駄だと思いませんか?」
過去、献体法に選ばれた人たちは、きっと最後に藁にもすがる思いでこのゲームにトライしたのだろう。普通に考えれば当たりを引くのはほぼ不可能だ。しかし私は違う。今までの人生でほとんど役に立たなかった特殊能力がある。
物心ついた時にはその能力は自分の中で当たり前のものであった。むしろ世の中の全員が使えるものだと思っていた。
―――意識した時点から5秒前に遡ることができる。
特に何か呪文がいるわけではなく、心の中で戻れと少し念じるだけだ。そうすると5秒前に戻れた。ちなみに5秒前に戻ってまたすぐ連続で5秒前に戻ることはできない。それができたら5秒前に戻ることを繰り返し数日前、数年前でも戻れてしまう。人生を何十回でもやり直すことが出来てしまうわけだがそれは出来なかった。
しかしそのような特殊能力を持っていても5秒前ではいまいち使いどころがない。道を歩いてて転んだ瞬間に5秒前に戻って怪我を回避するとか、席替えのくじ引きやじゃんけん大会など、便利に使える部分もあるがその程度だ。5秒というのは何かするにしても短く本当に微妙な時間である。
この土壇場で、能力が最も発揮できるくじ引きによる救済があるとは思わなかった。しかも並べてくれるらしい。最高の条件だ。こんなところで人体実験されて死ぬだけの人生なんて死んでも死にきれない。
「並べてください。私結構運が良い方なので……1%を引き当てます」
「ほう、この期に及んでまだ絶望に呑まれていないとは面白いお方ですね」
ヒヒヒと笑うと男は懐からトランプのようなものを取り出した。手には2束握られている。
「1束50枚、2束で100枚。今から床に1枚ずつ置いていきます。ちなみに当たりのカードは『解放』と書いてあり、ハズレは空白、何も書いていない。チャンスは先程も言いましたが1回のみ。並べ終わるまで少々お待ちを」
男はきちんと1枚ずつ確認しながら床にカードを置いている。几帳面そうな外見の割にカードの並べ方は乱雑で適当に床に置いているように見える。ただ、惑わそうとしているのか時折カードを見る表情が変わった。
「お待たせしました。確認しながら置いたので間違いなく一枚だけ『解放』と書かれているカードがありますので。救済チャレンジ始めて下さい」
スタートと同時に一番手前にあるカードの前まで歩いた。
カードを裏返した瞬間ハズレなら5秒前に戻る。それを繰り返すだけ。大丈夫、落ち着け私。ただ5秒前に戻ることを考えるとゆっくりとした動きでは逆に怪しく見えるかもしれない。5秒前がこの今の立っている状態になるように時間管理をする必要がある。よし! やってみますか!
躊躇いなく前屈の状態になりカードに指をかけてめくった。カードには当然というべきか、何も書かれていなかった。
『戻れ』
いつも通り心の中で念じた。一瞬目の前がフラッシュすると、カードの前で立っている状態まで戻っていた。戻ってくれないと困るわけだが、問題なく過去に戻ることができた。
すぐに気持ちを切り替え、今度は一歩横に動いて隣のカードの前に立つ。そして同じようにカードをめくった。次も文字はない。また5秒前に戻る。男から見ればカードの前に立ち、考え、違うという結論に達して横に移動したというのをただ繰り返してるだけに見えるだろう。人生がかかってる選択ということで慎重な行動もそこまで怪しいものではないと思える。
しかし10……20……30枚……全然文字の書かれているカードは出なかった。
「そんなに時間をかけてカードを見て何かわかるんですか?」
男がチャレンジを始めてから初めて声をかけてきた。
「当然何もわからないですよ。最後の選択くらい私の好きにさせて下さい」
「ええ、別に文句を言うつもりはないので。失礼しました続けてください」
この現実離れした能力がバレることはないだろうけど、喋り過ぎて怪しまれたり不信に思われても、間違いなくプラスになることはない。無駄な会話はしないことにする。
それにしても当たりのカードが出ない。40……50枚……とうとう半分まできたが出ない。もし男が嘘をついていて当たりカードは元々なく、救済措置自体などなかったとしたら……。そうなるともう能力を駆使してもどうすることもできない。
その最悪な場合を考えると徐々に緊張感が増してきた。
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