第2話
ヒーローが生まれて早五十年。
人間の経済は滞り、進歩は終わりを迎えた。
それが、血で血を洗う戦争を消し去る代償ならば、人々はそれなりに納得した。
そんな中、世界中で行われるヴァリアンの悪行に対抗する為、ヒーローは三つの大きな組織を打ち立てた。それらが機能的に動くことによって、人々の苦しみは軽減される。
その世界で、ヒーローである少女はひとつの組織を飛び出す。
「……私の居場所はここじゃない!」
それはまるで、人間の年頃の少女の突発的な家出の理由の様だった。
少女が所属していたのは三つある組織の中で、最大のヒーロー組織『ジャスティス』
対ヴァリアン戦を意識した組織づくりが行われており、世界中の至る所に支部を持つ。そんな最大手の組織に憧れるものも多い中、少女は飛び出した。
理由は『父親が嫌いだから』
少女の父はジャスティスを立ち上げた張本人。『世界最強のヒーロー』と言えば、誰もが彼を連想することだろう。その存在の大きさに、影すら踏めぬ少女は劣等感を覚えていた。
もうこの場には居たくなかった。優しく微笑む父の顔を見たくなかったのだ。
「……マオちゃん。本当に行くの?」
風が吹く丘の上。眼鏡を掛けたOL風の女性が言った。
「……よくわかんなくなって。……また、しばらくしたら帰るよ」
彼女の言葉に、はにかみながら、マオと呼ばれた少女は応えた。
「そっか。お父さんも心配するね」
「はは、そうは思えないけどね。あの人は何考えているか、わかんないし」
女性は少女の事を心配する。マオは首を左右に振って笑った。
父は強い。誰もが、慕い憧れ、ヒーローと呼ぶだろう。 ――少女は、そんな父が嫌いだった。
何故なら、少女は彼にヒーローである前に『父』であってほしかった。
それを言葉にしない事を、ずるい事だと理解しながらも、言葉に出来ないのは、少女がまだ子供だからだった。
「絶対に心配しますよ。これからどこに向かうの?ほかの組織に行くの?」
「うん。そうしようと思ってる。まずはオールドナークにでも行こうかな」
マオは頷く。少女は世界と言う大海を一人で生きるすべを知らない。けれど、人間を助けるはずのヒーローである少女が、人間に助けを求める訳にもいかない。と少女は唇を噛む。
「オールドナーク。……そうなると『リヒティローダー』かな?推薦文用意しようか?」
「その必要はないよ。お父さんが、誰だかばれたら気まずいし、実力で行く」
女性の口から出た、ヒーロー三組織のひとつ『リヒティローダー』
その組織は強き人間から金品を奪い、弱い人間に再分配することを旨として作り上げられた組織だ。ヒーロー組織と言うには手を汚しすぎる組織。所属するヒーローは自身のやる事を『義賊』と称し誇りを持っていた。
そんな彼らを嫌うヒーローは確かにいる。けれど、少女は躊躇わない。
「……わかった。それじゃ元気でね」
「はい。それではまた今度。リエラも元気で」
少女は旅に出る。
大嫌いなヒーローの存在意義を知るために。自分の存在価値を得るために。
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