レッスン18「薪 (3/6)」
薪。
夏が終わりに差しかかるこの頃、大量の木炭を用意する為に、薪の需要が高まってくる。
それに冒険家業が盛んなこの街では、武器や防具を作る為の鉄が必須。
薪の伐採依頼は一年中見かける。
というわけで、僕とお師匠様はお馴染み西の森へとやって来た。
「今日は、儂の【
「はい!」
「ではまず、この木をまるっと【収納】しな」
森の入り口に立っている木の幹を、お師匠様がぺちぺち叩く。
「はい! ちょっと離れてて下さいね――【
わずかな切り株を残し、木が消える。
「いい子だ。じゃあ次にその木を横たわらせな」
「【
僕とお師匠様の目の前に、木が横倒しの状態で現れる。
「枝は手折ってしまえ」
「【
枝と葉を収納すると、後には長々とした丸太が残る。
「続いてそれを、薪の形にしていく」
「【
いきなり八等分とかにしてみたかったのだけれど、できる
「【
輪切りにした数十センチ分の切り株を目の前に出現させる。
「【
切り株の半分を【収納】で真っ二つにしてからまた取り出し、そのまた半分を【収納】し……といった具合で薪を作っていく。
「ふぅ……お師匠様、できました」
「ふぅむ、時間がかかるしまどろっこしかったが……」
地面に転がる薪の、ささくれひとつないつるりとした断面を見て、
「ま、初めてにしちゃ及第点さね。さぁ、次だ」
「はい」
「お次はこの状態を、1回の【収納】で実現しな」
「……え?」
ええと、丸太から切り株を切り出し、それを8等分にする。
つまり8回か9回の【収納】による切断が必要なわけだけれど。
「そんなこと、できるんですか……?」
「同時に複数の【
……できるのか。
お師匠様が言うなら信じよう。
「そもそも、ドブさらいのときだってウサギのツノのときだって、そうだったろう?」
――言われてみれば。
「で、では……」
目の前の丸太を凝視して、その切断面をイメージする。
「【
丸太から数十センチ分が消える。
「【
果たして――
※※※※※※※※※
未乾燥の薪 × 8
※※※※※※※※※
「で、できましたお師匠様!」
「よしよし。見せてみな」
「はい――【
地面に、綺麗に8等分された薪が現れる。
お師匠様が満足そうにうなずき、
「合格さね。やはりお前さんは筋がいい」
お、お師匠様に褒められた……ッ!!
「さらにレベルを上げるよ。今度は、残りの丸太を全部一度で薪にしちまいな」
「はい! んんんっ……【
■ ◆ ■ ◆
そんなふうにして、何十本もの木を薪にした。
空の太陽はそろそろ頂点に達しようとしているところだけれど、たったの数時間で数十本分の薪を作れるとか、僕はこのまま木こりとして十分に生きていけると思う。
「さて、薪はこのままじゃ上手くは燃えない……言いたいことがわかるさね?」
「乾かさないとってことですよね?」
「
「でも僕、炎魔法とか使えませんけど」
「【収納】すりゃいい」
「え?」
「薪から、水分を」
「――あぁ! 【
*****************
未乾燥の薪 × 2,120
*****************
『未乾燥の薪』を長押ししてみるも、右隣に表示されるのは『未乾燥の薪』と『汚れ』のみ。試しに細分表示された方の『未乾燥の薪』を長押ししても同じ。
「ふぅむ……やはり薪の外側は認識できても、内側は無理ってことかね」
「のようですね……」
「よし、じゃあ儂のとっておきの魔法でサポートしてやろう」
このお師匠様をして『とっておき』と言わせるとは、いったいぜんたいどんな魔法が出て来るのやら……
「――【
お師匠様が、遠距離でも念じれば会話の出来る、便利な上級魔法を使った。
『聴こえているさね?』
お師匠様がこちらを見る。口は開いていない。
「はい! ――あ、じゃなかった」
僕は口を閉じ、うんうん念じてから、
『こ、こう……ですか? 聴こえていますか、お師匠様?』
『うんうん、感度良好さね――ちなみに』
お師匠様がニヤリと微笑む。
『儂の【
――え、それはマズい。
僕がいつもこっそりお師匠様の胸とかお尻を見ているのがバレてしまう。
『えぇぇ……お前さん、儂のことをそんな目て見てたのかい? 儂ゃ年下は趣味じゃあないんだが』
あ、やっぱりお師匠様って年上だったんですね。
顔は十代半ばってくらいにお若いですけれど……喋り方が、なんというか。
本当、何歳なんだろう……?
『レディの年齢を
『す、すみません……』
「さて、【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――
「はい」
果たして『未乾燥の薪』を長押ししてみると、
「――あっ」
右隣に、『薪』『汚れ』『水分』と表示された!
「いま、お前さんの【
……なんと便利な。
「さ、じゃあ『薪』だけ取り出しちまいな」
「はい!」
細分表示された『薪』をタッチする。
果たして目の前に、からっからに乾き切った薪の山が現出した。
***********************
ここまでご覧下さり、誠にありがとうございます!
本作は完結まで毎日更新し続けます!
何卒、引き続きのご愛顧を賜りますよう、宜しくお願い致します!
次回、いよいよ因縁の敵役登場!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます