第6話

「博人く~ん、起きてくださいませ~!」


 気持ち悪いくらい上品な母親の声で飛び起きた。

 いつもは俺のことを怒鳴って起こしてきたり、平気でたたいてくるんだけど今日はやけに優しいなぁ……。


「母さん、一昨日から何かあったの? もしかしたら、何かしたんじゃ……」


 そこまで言ったのだけれど、次の瞬間俺の口の中には焼きあがった食パンが入り込んできた。


「もう10時なんだからね! 早く食べて早く出発するわよ!」


 俺はパンを口の中に入れながら母と一緒に喫茶店に入った。

 母親は周りを一通り見渡してから、一昨日あったいおじさんの座っていたところに行った。

 俺たちがそこまで向かうと、おじさんはこっちに気づいてくれたみたいで、立ち上がって話しかけてくれた。


「お早い到着ですね、さっそくで申し訳ないですけれど、当社の”プレミアム特訓口座”についての説明をいたします」


 俺はそのいかにも怪しそうな名前を聞いたとたんに、ぱっちりと目が覚めた。

 これは絶対に怪しいやつな気がする!


「あの……それって怪しいあつじゃ……っ!?」


 俺はそこまで言いかけたのだけれど、母親は俺の頭を押してきて無理やり


「今日はよろしくお願いいたします!」


 と言ってそのプレミアムの中身を聞いてきた。


 スマホが泣く暇だったので、俺も仕方なくその説明を聞いてみたのだけれど……

 正直俺は10万円も取られて音楽に関する教養を身に着ける!

 と言われても、正直興味はあまりわかなかった。

 そして、おじさんは俺のほうを向いて締めくくった。


「博人君にはこれがぴったりだと思うんですが……」


 おじさんはそう言っていたんだけれど、俺はすぐに断った。

 そもそも、俺は強制的に何かをさせられるのはものすごい嫌いだし、そもそもよくわからない単語を並べた口座に興味を示せなかった。


 しかし、母親はそれに興味津々だったらしく、俺の意見を全く聞かずにそれに参加することになった。

 ……この時の俺は後で”あんな凄いこと”になるなんて思ってもいなかった。


 その日はそれで家に帰ることになった。

 今日の残りの時間は昨日作った曲を使って遊んでいたり、リズムや楽器を付け加えてクオリティーアップという名称の”おふざけ”というものをしていた。

 母親が熱心に進めてきたので、俺は仕方なくあの講座に参加することになった。



 本番当日。


「すごい、博人君の作った曲ものすごくいいよ! こんなにいい曲だったらアニメーションをつけて、イラストを入れて……アドバイスするくらい素晴らしいよ! こっちがお金を出したいくらいだ!」


 スタッフさんは俺のことをものすごく褒めてくれたののだけれど、どうやら俺はいい曲を作ったらしく、プレミアム口座のスタッフさんたちを驚かせていた。

 自分ではいい曲を作ったつもりはなかったんだけれど、ここまで褒められるような曲だったのだろうか……?






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