【prologue】episode 2

 訳のわからない事を口走って飛び起きた結歌に、込み上げる笑いを隠せないまま、まるで存在が光のような青年、グランツは眩しく微笑んだ。


「目が覚めた?」


 グランツ、攻略キャラ1。

 光属性の魔力を持つ騎士、26才。

 基本的にフェミニストで優しく、王宮ではモテモテの、王子より王子っぽいイケメンオブイケメン。金髪碧眼の超美形王道攻略キャラ。

 身長182センチの長身、程よく鍛えた体、部下にも慕われる第一騎士団長様。


 そう言えば一番最初に攻略したっけな。


「あー……はい」


 って言うかまだ夢なの?

 夢の中で眠って、また夢の中で起きるとか、そんなことって、ある?


「まだ、寝ぼけてる?何か良い夢でも見れたかいお嬢さん」


 ぐっと顔を近付けられて、思わず身体を引いてしまった。


「嫌だわお嬢さんだなんて、おばさんをからかわないで下さい」


 あんたより4つも上なのよ。と、目を細めると、グランツはその美しい顔で盛大に吹き出した。


「キミ、面白いね!どう見たって5つ以上はキミの方が若そうだけど!」


 ……は?

 アラサー捕まえて、何言ってるんだこの男は。日本人は童顔だからですか??


 訳がわからず、顔面いっぱいにハテナマークを浮かべていると、なんだか豪奢な部屋の扉が静かに開いて、アシェルが入ってきた。

 扉を開けたのはカインで、アシェルが部屋に入るのに扉を支え、後から続いて部屋に入ってきた。

 カインはグランツを見るなり、眉を潜めた。


「女性の寝ている部屋に一人で赴くとは……って感じにあからさまな顔をするなよな」


 グランツはカインの代弁をして、軽く笑った。


 カイン、攻略キャラ2。

 闇属性の魔力を持つ騎士、25才。

 グランツとは幼なじみ。

 超真面目で基本寡黙な第二騎士団長。

 冷利とも取れるような整った顔立ちにも関わらず、攻略キャラの中で一番の武闘派。

 槍も剣も弓も右に出るものはいない。

 基本的に黒づくめ。整った顔立ちを本人はあまり好いておらず、戦闘で付いたこめかみの傷があるくらいが精悍さを加えた気がして丁度良いと思っている。

 身長180センチ。


 幼なじみなのに微妙な仲の二人が、結歌的には、おいしいネタ。

 それもこれも、幼い頃は仲良しだったのに、グランツは第一王子付きの騎士で、カインは第二王子付きの騎士であることから、二人の間では度々言い合いが起こるのだが、結歌的には真面目なカインを心配する気配を言葉の端々にいつもグランツには感じていて、それがとにかく、


「萌えポイントなのよね」


 それなのにカインときたらいつだってアシェル一番で、一にアシェル、二にアシェル、三、四にアシェル、五にアシェルと言うほど、アシェル殿下に対して超過保護。

 だからカイン×アシェル派は超アマアマの主従ラブ萌えだったわよね!

 萌え萌えしている結歌をよそに、アシェルがベッドの横までやって来た。


「初めまして、僕はアシェル。貴女の名を聞いても良いですか?」


 育ちが良い。ひと言でそう表現が正しい、攻略キャラ3、アシェル殿下。

 水属性の魔力を持つマギーア王国第二王子、17才。

 人に優しく礼儀正しく、賢く、少しも奢る所のない生粋の王子さま。

 少し病弱と言われている第一王子より、アシェルを時期国王と推す第二王子派閥がある。

 身長167センチ。まだまだ成長期。

 銀糸の短く整えられた髪。さらさらの前髪の下のエメラルドグリーンの大きな瞳が、まるで少女のようだ。

 とにかく素直で可愛い王子を守り通すカインとのカップリングは、ヒロインよりヒロインらしいアシェルなのである。


「あ、えっと、結歌です」

「ユイカ、良い名前だね」


 アシェルは穏やかに微笑んで、ベッドに座る結歌に合わせて、ベッド脇にカインが運んできた椅子に腰掛け、結歌に視線を合わせると一呼吸置いて再び口を開いた。


「ユイカ、貴女に世界を救って欲しいんだ」


 アシェルはゆっくりと結歌に伝わるように、この世界の現状を話し始めた。

 結歌にとっては、ゲームの世界観のおさらいのようなものだったので、アシェルの話を聞きながらも、気分はそぞろにアシェルの後ろに立つカインをちらっと見る。

 カインは微動だにせずアシェルを見守っている。

 まっすぐに逸らさない真摯な眼差し。



『私は貴方しか見ていない。貴方一人を守る騎士なのです』(幻聴)



 くー!!!良い!!!良いよ!!!

 なんでリアルにあの頃、カイアシェ(短縮カップリング用語)の同人誌買っておかなかったんだろう!

 だってアシェルってば、エメラルドの瞳に掛かる銀の睫毛のなんて長いこと!もう王子ってより姫よ姫!!!

  姫を守る騎士なんて王道だもの、今分かったわカイアシェの良さ!!


 それからちらっと壁に背をもたれ掛けさせて腕を組んで、その様子を静観しているグランツを見た。


 ヤバい!アシェル←カインに対して長年の片思いで人知れずカインを見つめるグランツの図(妄想)

 美味しい!美味しすぎるわ!!!

 あー!!!そういう話誰か描いて!!!

 可愛い美少年も良いけど、やっぱりちょっと大人のR18要素は捨てられないわ!

 グランツには是非ともカインを押し倒して欲し……(ごほんごほん)


「ごめんなさいユイカ、少し急いで説明しすぎてしまいましたね」


 しまった。考え事をしてたらぼうっとしていると思われたんだわ。


「だ、大丈夫です!」


 そう、なら良いんだけど、とアシェルは微笑んだ。


 ああ、マジ天使。


「近々、父上に会っていただくのでその時にも話があると思うのですが、まずは世界樹の再生のために、6属性の精霊に祝福される6人の守護者を探して頂かなくてはなりません」


 あー、それはもうここに3人揃ってますけどね。

 という結歌の心の声が聞こえるはずもなく、アシェルが申し訳なさそうにそう言ったあとに、不覚にも結歌のお腹の虫は盛大に雄叫びを上げたのだった。


 クスクスとアシェルは笑って、

「その分なら夕食は食べれそうだね。そうだ一緒に食べましょう」

 そう提案してくれた。


 カインの片眉がピクリと動いたが反対する気は無いようだ。


「グランツ、兄上のご体調はいかがかな。もしよろしければご一緒にどうだろう?」


 アシェルがグランツに尋ねるのに、カインは今度は眉を潜めたが、何も言わない所を見るとこれにも反対する気はないらしい。


 グランツは穏やかに目を細めて、

「承知致しました、使いを向かわせましょう」

 そう言ってうやうやしく礼を取った。







 侍女さんたちに無理やりドレスに着替えさせられてから、やたら長い廊下を食堂に向かって3人と歩きながらもアシェルは色々と気遣って話しかけてくれる。

 それにしても、こんなだらだら長い裾の服なんて着慣れないから歩きづらいったら…。

 しかもこんな可愛いデザインが三十路に似合うはずもないのに。

 薄いピンク色のドレスに正直気恥ずかしくてしかたがないが、侍女さん達のお似合いです攻撃に悪い気はしていない。


「ユイカは何歳?同じくらいの年かな?あ、僕は17才なんですが」


 不意にアシェルが聞いてきた。

 さっきから思ってたんだけど、どう見てもキミ達よりおばさんでしょうが。

 内心むくれて、ふと、窓の方を向いた。

 窓の外は夜の闇で、少し暗い鏡のようになった窓ガラスに映った自分の顔に思わず、


「えぇっ!?」


すっとんきょうな声を上げた。

 それは高校生の頃の結歌の顔だった。

 両手で頬を包み込んで、信じられない、と目をぱちぱちとして、歩きながらのことだったので、ドレスの裾を踏んでつんのめって転びそうになる。


「!!!」


 転ぶはずが何かに顔からぶつかって支えられた。


「痛……くない?」

「大丈夫か?」


 どうやら、黒い騎士装束の胸に顔を埋める形で止まった結歌の肩を軽く支えて起こし、カインは聞いた。


「は……い、ありがとうございます」


 普通の女子ならここで胸キュンするところだけど、




 ああ、このシチュエーションがアシェルだったなら!





『殿下、大丈夫ですか?』

『ありがとうカイン』

 カインはそっとアシェルの肩を抱き、見上げるその瞳を見つめた。

『あ……』

『申し訳ございません』

 離れようとするカインのその手を、思わず腕を掴んでアシェルはとどめた。

『殿下……』

『……カイン』

 前を歩く侍女に憚るように、けれど名残惜しげに、二人の腕は離れた。





 なんちゃって。

 いやん、見たかった!目の前で萌えるそのシチュエーション。


 そんな妄想を脳内で繰り広げて、結歌はカインから離れる。


「ドレスが着なれていなくて、すみません」

「そう?でしたらお手をどうぞ、お嬢さん」


 横からグランツが手のひらをすっと差し出した。


「あ…りがとうございます」


 その手を結歌が取ると、カインがさっとその場を退いて顔を背けた。


 ちょっと何よ今の反応。

 グランツが気になるの?ねえ!ねえったら!





『何か文句でもあるのか?』

 グランツはカインの物言いたげな視線に片眉をピクリと跳ね低く聞いた。

『そんなものはない』

『だったらそんな物言いたげに見るなよ』

 グランツの低くけれど通る呟きに、カインは苛立ったように、けれどグランツを見ないで視線を逸らしたまま言った。

『……お前は女なら誰でも良いのか』

『は?』

 意味がわからないとグランツはカインを見遣る。

『だから、お前は誰でも良いのかと…』

 カインが全てを言い終わらないうちにグランツの腕がカインの肩を掴んで引き寄せた。

『妬いているのか?』

『違…!』

『違うと言えば良い。俺が勝手にそう思いたいだけだ』

 グランツの腕はカインを離さず、強引に頭を引き寄せ、何かを言おうとするその言葉ごと奪った。


 



 とかね!

 ふふふ、やっぱり私はグラカイの方が好みだわ(ハート)。

 そんな具合に結歌の妄想が進んでいる間に、食堂に到着するのであった。

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