銀河皇帝の希望

青目猫

銀河皇帝の希望

エルミナ銀河エルミナ星を統治する8本足の皇帝は、遂に自分の思い通りになんでも作り出せるコンピュータを手に入れた。長い時を栄えたエルミナ人の文明は、星を超え、銀河を超えた。知識と技術は叡智となって、遂にはなんでも作り出せるコンピュータを生み出したのだ!


「おい、なんでも手に入るのだな?」


ゴロゴロゴロと、エルミナの宇宙艇が発進するその丁度10秒前みたいな低音が響いた。


「左様にございます、陛下。そこなキーボードになんでも打ち込んでごらんなされ。どのようなものでも瞬く間に作り出されましょうぞ」


コロコロコロと、星にふる雨が地を打つような軽音が響いた。

皇帝は「うむ、では」と言ってキーボードに【最強の兵器】と打ち込むと、タッーンとEnterキーに1本足を叩きつけた。ガチャガチャガチャとキーボードが音を立てながら百色にも万色に光を放ち、プシューっとなった。すると、目の前に手のひらサイズの鉄砲が生まれた。


「なんだこれは。まるでおもちゃではないか」


「いえいえ、陛下。どうぞその銃をお取りくださいませ。そして、憎き怨敵が住まうあの星へ向けて引き金を引くのです」


「そうさなぁ」と言って渋々に銃を空に掲げると、引き金を引いた。最強の兵器は最強なので特に銃声はしなかったが、代わりに怨敵の星は消し飛んだ。


「なに! なんだこれは!」


「えぇ、えぇ。そうでしょうとも。驚かれるのもわかります、陛下。しかし、空を見なされ。万年にも及ぶ因縁のダルリラ星人どもはたった今滅びましたぞ」


「——つ、次だ!」


【宇宙】と打ち込んだ。

ガチャガチャガチャ、プシュー。

手のひらサイズのガラス玉が現れた。


「これは……」


「陛下。ガラス玉を中を覗き込んでみなされ」


すると、ガラス玉の中で大爆発が起き瞬く間に明々の輝きが走り出した。


「素晴らしい」


「左様でございましょう」


「なんでも作り出せるのだな?」


「無論でございます。この宇宙に存在するものであれば星でさえ陛下の手中でございます。さぁ陛下。その手に望むものを打ち込んでくだされ」


皇帝は、8本足をそれぞれワナワナと震わせ、キーボードに打ち込んだ。


——【正義】


ガチャガチャガチャ——

プシュープシュープシュー——


しかし、何も起きない。


「ん? 故障か?」


「いえ、陛下」


「なんでも作り出せると言ったではないか!」


「この宇宙に存在するものでしたら。しかし、【正義】などと、この宇宙のどこにもありはしないものでありますれば」


ゴロゴロゴロと鳴らしながら「そうか」と言った。皇帝は二度とキーボードに望みを打ち込むことはなかった。

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