本気で「偽善者」はじめたら、たくさんの人に感謝され、なりゆきで巨大犯罪組織まで壊滅させ、いつの間にか世界70億人の命を救ってたんだが。

実時 彰良

第1章

第1話 偽善者はじめました

 陰惨たる分厚い雲が、泣き出しそうな9月の空を覆い尽くしていた。


 K県小喜田内市(こきたないし)は、ここ数年で土地開発が進み、田も畑もめっきり減っていた。かつての隘路は緩やかな舗装された道路に変わり、古ぼけた商店は取り壊され、数年のちにビルが建つという。


 県立・殷画(いんが)高等学校1年生の有働努(うどうつとむ)は、バスの右最前列の座席に座り、ポツポツと窓に付着した水滴を見つめながら、イヤホンから流れる地下アイドルグループ「スーサイド5Angels」の甘美な歌声に酔いしれていた。


人生はいつも「ひき逃げ救急車」

悲しい過去は「やり逃げ高級車」

あなたと未来は「勝ち逃げ霊柩車」

Yeah...Yeah...Right now.


 スーサイド―、いわゆる自殺。5人のメンバーは、首吊り、飛び降り、ガス、焼身、服毒、の自殺死体をモチーフにした、うっ血、損壊、腐乱、丸焦げ、白塗りメイクとボロボロの衣装を纏い、パフォーマンスを披露している。


 夏休みに電車で1時間40分揺られ、はるばる参加した東京・秋葉でのイベント。今聴いてるのは、リーダーであり服毒スーサイドを表現する白塗りのMANAMIから、手渡しで購入したミニアルバムだった。


 一部の評論家は、その過激な歌詞を揶揄したが、有働は歌詞に興味はなく、透き通るようなMANAMIのメインボーカルに、ただ、うっとりと聴き入っていた。鼻にかかった甘い声。それは、まるで…まるで…。そこまで考えたとき、「横嶋団地前」でバスが停車し、乗客が押し寄せてきた。


 乗客の中にクラスメイトの吉岡莉那(よしおかりな)を見つけ、赤面した。


 制服のブレザーとチェックのスカート越しに、わずかながらも要所の膨らみを強調する曲線、つい半年前まで中学生だったとは思えない大人びた黒髪のストレートロング、少し小柄な病弱美少女に相応しい陶器のように滑らかな白い肌に、つぶらな瞳に黒く縁取られた繊細な睫毛。細い鼻梁と、形の良い唇。さらには、彼女が気を許した女友達と談笑するときだけチラっと見せるほんの少しだけ長い前歯が、愛らしい小動物を思わせ、お気に入りのポイントだった。


 有働の落ち着かない気持ちをよそに、相変わらずMANAMIは、イヤホンの中で有働のためだけにサビを繰り返し歌っている。


人生はいつも「ひき逃げ救急車」

悲しい過去は「やり逃げ高級車」

あなたと未来は「勝ち逃げ霊柩車」

Yeah...Yeah...Right now.


 莉那と目が合い、慌てて有働はスマホを操作し、音楽を中断した。


 何度も繰り返し聴いた曲より、莉那の声が聞こえるかもしれない、と思ったのだ。莉那の鼻にかかった甘い声。それは世界中で1番、心地いい音だった。もちろん本人に、直接話しかける勇気などなかったが、彼女を身近に感じられる数少ない時間を満喫したかった。


 莉那は混雑したバスの中で、こちらに顔を向けた状態で手すりに掴まっていた。有働は彼女と視線が合わないように、そっと彼女の美しい顔を覗き見しようとした。


 しかしその瞬間、バスの車内は、市街地のゆるやかな坂道の上にある細い曲がり角に大きく揺れた。


「席を譲ってもらえたら…嬉しいんだけどね」


 有働に向かい、そう申し訳無さそうに言いながら眼前に迫ってきたのは、薄汚れた赤黒いシミだらけの老婆の顔だった。


 老婆は、頭に被った手ぬぐいが目のところまでずりさがってきても、それを直す事ができなかった。めいっぱい膨れ上がった藤色の風呂敷包みを背負い、両手はバスの車内にあるつかみ棒をしっかりと握っていたからだった。


「ちっ」


 覗き見を中断させられ、有働は反射的に舌打ちをしてしまった。


 乗客の視線が自分に集まったような気がした。車内に響き渡る大きな舌打ちだった。スマホの音楽は止まっていてもイヤホンが両耳を塞いでいたので、自分で思うより大きな音量で舌を鳴らしてしまったのだった。後悔の気持ちは羞恥に変わり、きっかけを作った老婆に対する憎悪へと変化した。


(他にも乗客がいるだろ。なんで俺に言うんだよ)


 有働は心の中で老婆に毒づいたあと、きょろきょろと前後の席に座っている連中を見回した。サラリーマン、OL、学生たち。彼らの殆どは、携帯や新聞に夢中になっているか、寝たふりをしていた。


 一方、老婆は、さらに手ぬぐいがずり下がり、薄くなった頭部が露出し、顔がほとんど隠れた状態にあっても、しっかりと、しっかりと、震えながらも両手でつかみ棒を握っていた。この先もいくつか曲がり角が続く。誰も席を譲らない現状、そのたび老婆はよろめくだろう。


「はぁ、分かったよ」


 有働は観念したように立ち上がり、溜息をつきながら老婆に席を譲った。


「ありがとうね。お兄ちゃん」


 老婆はペコリと頭を下げ、有働に声をかけてきたが、有働はそれを無視して、中断していたスマホの音楽を再生し、再び、莉那の方を見た。


 混雑の中で、彼女の鋭い視線が自分に向けられてるような気がした。それはまるで汚い物を見るような眼差しだった。


 すぐに莉那の顔は隠れてしまったが、有働は何だか落ち着かない気持ちで窓に視線を移した。雨は容赦なく窓に叩きつけられていた。憂鬱な授業を思うとため息が出た。きっとそれは、世界中に聞こえるほどの大きなため息だったかもしれない。


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 バスが校舎に辿り着く頃には霧雨に戻っていた。バスを降りた後、有働は折り畳み傘を取り出すのが面倒で、カバンで頭を覆った。莉那はというと、透明のビニール傘を開き、少し先を歩いていた。色の着いた傘でなくてよかった。ビニール越しに莉那のうなじを拝む事ができて有働は思わず、にやついていた。


 有働たちの通う県立・殷画高等学校は、県内でも一番か二番目に偏差値の低い高校だった。ガラの悪い連中と、成績に問題のある普通の生徒と、その他いろいろなワケありの生徒415名が、老朽化した灰色のコンクリート校舎に一緒くたに詰め込まれている。


 有働は運動はよくできたものの、成績に問題があったし、莉那に至ってはワケありの生徒に分類されていた。莉那は中学2年生の2学期半ばに、後天性の心臓の病を発症し、難しいと言われる手術を受けた。手術じたいは成功したが、体調に問題があり、3年生の卒業までほとんど授業にも出られなかった。


 手術の費用、そして授業の遅れを取り戻すための家庭教師の費用で、莉那の家庭は経済的に逼迫していったのだろう。元々、成績も良く、きちんとした進学校に行けたはずの彼女だが、それらの事情で市立の吹き溜まりのような高校に通うはめになってしまった。それともう一つ。 殷画高等学校は、校風として、底辺にありながらも、問題を抱える生徒を一人でも多く卒業させるのを矜持としていたので、もし、莉那が病を再発し、休みがちになっても、ある程度の便宜を図ってくれるという部分が、多少なりとも選択理由の中にあったかもしれない。


「おっはよう」


 母親から借りたであろう、薄紫に白い牡丹があしらわれた、使い古された傘を差しながら、何の悩み後も無さそうな顔の犬飼真知子が、莉那に駆け寄ってきた。彼女は自宅が学校の近所なので徒歩で通学しているのだ。高校ではクラスこそ違ったが、犬養真知子は莉那と、とりわけ仲が良かった。


 有働は中学1年生のとき、莉那、犬養真知子と同じクラスで、犬養真知子とは出席番号が近い理由から、理科の実験が一緒になって、少しだけ喋ったこともあった。


「有働君さ、莉那の方ばっか見てるよね」


 ぎくりとした、当時中学1年の有働は、アルコールランプを倒してしまい、慌てて立て直した。それ以上、犬養真知子は何も言わなかったが、時折、莉那と一緒に歩いてるとき、すれ違う有働に話しかけてくる事がたびたびあった。余計な気を回しやがって、と苦々しく感じたが、今思えば、有難い存在だった。


 莉那が退院して、高校で3人が再会した今、もう一度それをやってほしいと思ったが、入学から5ヶ月経過した現在、彼女が有働に話しかけてくるような事はなかった。中学1年生の時、話しかける犬養真知子を鬱陶しげに睨みつけたのが良くなかったのかもしれない。


 霧雨の中ぼんやりと浮かび上がった、灰色に薄汚れた校舎は、刑務所を思わせる陰惨たるムードがあった。その中へと吸い込まれていく生徒の頭髪は、半分以上が金、銀、赤、緑、茶色のカラフルなものだった。染めるのが面倒な有働は、見た目だけならマジメな生徒に見えたかもしれない。


 下駄箱付近で、有働と同じクラスの内木孝弘が、2年生の2人組に蹴り飛ばされていた。登校中の生徒たちは彼らを避けながら、各々の教室へ歩いていく。所かまわず内木を蹂躙してる彼らの名前は、春日と久住と言ったと思う。

 県内最強とも言われるこの学校の3年生、権堂辰哉および、彼の率いる権堂組を頂点とした不良グループに次ぐ中核的存在で、校内で堂々と恐喝、暴行、何でもありの素行に教師もほとほと手を焼いていた。


「おるぁ、内木ぃ。テメ、金持って来いっつっただろうがよぉ。だから、こうして朝早く来たっつーのに、これじゃ遊びにいけねーだろが」


 団子虫のように肥満体を丸め、内木は鼻水と涙で顔を汚しながら、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返していた。内木とは、高校からの知り合いだが、きっと昔からこうやって学校内で虐げられてきたのだろう。と、有働には理解できた。正座のまま腰を大きく折り曲げ、両腕は地面にピッタリつけ伸ばしたままだった。アラーに祈りを捧げる信奉者のように全てを捧げた姿勢。これは自分に危害を加える相手に対し、防御や逃走に適した体勢ではなく、一発でも多く蹴りやパンチを食らい、相手にただ、ただ許しを請う姿勢だった。


「泣いても許さねーぞぉ!」


 いつも春日と呼ばれてる方のリーゼントの長身の方が、内木の鳩尾を強く蹴った。内木は蹲り、肩で呼吸をしていた。


「やめなさいよ!上級生が下級生いじめて、みっともない」


 声の主は莉那だった。暴力の現場を見かねたのだろう。身長が155cmほどのか弱い少女は、勧進帳さらながらの、壮絶な折檻を繰り広げる男たちの前に立ちはだかった。莉那の顔は修羅のごとく怒りを顕していたが、それもまた美しい。


 慌てた表情で、一緒にいた犬養真知子が、莉那を止めた。そして、


「先生!早く来てくださ~い!警察呼んでくださ~い!」


 犬養真知子がそう叫ぶと、やれやれと言った表情で、タイミングよく恰幅の良い体育教師がやってきて、事態の収拾に乗り出してきた。薄汚れ、伸びきった白いジャージ。チャックが閉まらないほどに迫り出した太鼓腹。体育教師の名は「尾中(おなか)」と言ったが、冗談としては出来過ぎのネーミングに、陰では生徒たちからはバカにされていた。


「ちっ、クソが」


 春日と久住は、舌打ちをしてその場から立ち去り、そのまま校門を出て行った。尾中教諭に恐れを抱いたのではない。下級生の女子に怒鳴られバツが悪くなったのだ。内木はずるずると泣きじゃくったまま動かなかった。ホっと胸を撫で下ろしたのは尾中の方だろう。大人顔負けの体力を持つ生徒と、殴り合いになっても勝てる自信はないだろうし、連日報道される未成年者の残忍な事件も耳目に新しい。尾中だけではない、教師は皆、内心、いつ暴発するやも知れない狂気を潜めた世の少年たちを怖れていた。


 尾中の毛むくじゃらの野太い腕が、泣きじゃくる内木を抱きかかえる時、微かに震えてるのを有働は見逃さなかった。


「おお~、オナカ先生カッコいいー」


「うん」


 犬養真知子の軽口に、莉那が賛同したのには驚いた。ゴミ連中相手に心中で怯え、震える無様な体育教師に激しい嫉妬心を覚えながら、有働は上履きを履き替え教室へ向かった。


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 昼が近づいていた。有働は、空腹に耐えながら、数学Ⅰの笹川教諭の詩吟のような歌声を聴いていた。「今日は購買でパンか、学食か」母は弁当を持っていく事を勧めたが、高校生が昼飯を選ぶ権利を4時間に及び主張した結果、1日350円の食費を勝ち取る事ができた。公務員の父を持ち、家計はラクではなかったろう。しかし、江戸時代は十五歳で元服、といった話を絡めたり、選択の連続の中で経済観念が発育するのだ、と尤もらしい事を語る中、後ろのソファでナイターを呆けて観てたはずの父が「俺の小遣いから天引きで良いから、毎日、小銭を渡してやってくれ」と立ち上がったのだ。


「お前も言うようになったなぁ」と父の目に光るものがあったが、有働の持論ではなく、「スーサイド5Angels」の非公式ファンサイトで出会ったチャット仲間の助言どおりの論理を、たどたどしくも展開しただけであった。単純でちょろい父親だったが、なぜか母は、父を尊敬しているらしく「とりあえずは」という前置きつきでその提案を受諾した。


「すでに~2 次関数をy=a(x-p)^2+qの形へとぉ変形させてぇ、a の符号によって頂点で~最大、もしくは~最小をとると説明したが~、今回は~x の値の範囲に制限がある~、つまりぃ~、ん~あ~、「-1 ≦ x ≦ 2」のようにぃ~、だな~。x のとる値の範囲を指定して~、あ、その範囲内におけるぅ、あ、最大、最小のぉ~」


 笹井教諭の詩吟はとめどなく続いた。授業に耳を傾ける者は教室内でも数名だろう。有働は莉那の後姿を眺めながら、昼飯の事を考えていた。時折、聞こえる「エックス」という言葉に反応し、不真面目な生徒が「セックス、セックス」と連呼していた。きっと莉那の耳にも届いてるだろう。


(吉岡にそんな言葉を聞かせやがって、クソ野郎どもが!)


 有働の中で火花を散らす、抗いがたい暴力衝動。下品なこの連中の胸倉を掴んで、足腰立てなくなるほどに、何度も、何度も、何度も、この拳を顔面に叩きつけてやりたかった。


「暴力はダメだ!他人を暴力で支配するために、お前を鍛えたんじゃないぞ!」


 暴力的な妄想の中、下賎どもの返り血を浴びて笑う自分に対し、普段は温和な父が、鬼の形相で叱責するのが脳裏に浮かんだ。


 それは中学時代に自分が問題を起こした際、何度か見た顔だった。


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 昼がやってきた。有働は購買に群がる生徒たちと距離を置いてポツンと突っ立ってた。おかしなもので、ついさっきまで腹が空いてたのに、自由に飯を食える環境下におかれると、そこまで急ぎで食事に執着しない自分がいた。「外に出て弁当でも買うか」校門そばのコンビニだと予算よりも200円オーバーの弁当代がかかるが、そこは小遣いで補おう。何より、この飢えた動物の群れに混ざるのが躊躇われた。


 コンビニで幕の内弁当を温めてもらい、校舎に戻る途中、外付けの非常階段から真知子の声が聞こえた。真知子の話し相手。莉那に違いない。有働は身を潜め、非常階段下の陰に身を潜めた。


「有働君、ずっと莉那のこと、見てるよ。莉那はどうなの?」


 あのバカ、と思ったが、その質問に対する莉那の回答が気になった。自分なんか相手にされてないだろう。そう思いながらも心臓が派手に脈打ち、顔面が紅潮していくのが自分でも分かった。


「ちょっと苦手かな」


「なんで?」


(なんで?)


 真知子の声と、有働の心の声が、寸分違わぬハーモニーを奏でた。興味ない、とか、考えた事もない、という回答を予期していたが、苦手と評されるには、それ相応の理由があるに違いなかった。


「あの人さ、通学のバスが一緒になるんだけどね。今日なんかもそうだったけど、大きな荷物を持ってるお婆さんに、なかなか席を譲らなかったの。人として最低でしょ?それどころか」


 許されるなら、狂ったように悲鳴をあげながら、耳を塞いでしまいたい。有働が声を出したくても出せない状況にあっても、莉那の言葉は堰を切ったように止まらなかった。


「それどころかね、あろう事か舌打ちしたのよ。最悪でしょ。ああいう人、大嫌いなの」


 莉那がここまで他人に対し、嫌悪を顕にするのは珍しかった。ずっと観察してきた有働が思うのだから間違いない。中1の時、莉那に好意をもっている同級生から、性的な単語を用いてからかわれた事があったが、感情そのものを制御し、押し殺し、表面に出さないように振る舞っていた。挙句、周囲から、感情がないアンドロイド美少女と噂されるほどだった。


 もちろん、有働は意中の人の微細な表情も、逐一チェックしてたので「感情がない」という世論には異議申し立てをしたかったが。瞬間、はっとした。


「自分がそうだったように、莉那も自分を観察していたのだ」


 なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。だがしかし、その評価の残念さに目も当てられない。そんな気持ちになっていた。莉那と真知子は非常階段を降りて、それぞれ持参の弁当を持って多目的クラブハウスへと歩いていった。


 有働は彼女らの後姿を見送ると、よろめきながら、コンビニの袋を右手にぶら下げ、1年E組の教室へと帰った。


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「おう、ウドー」


 席に鎮座し、決して柔らかいとは言えない紅鮭に箸を入れ、黙々と啄ばむ有働に、戸倉孝史が話しかけてきた。女のように、細くしなやかな右手には食いかけのサンドイッチが握られている。どちらかと言うと人気者タイプの戸倉だが、クラスメイト達から若干の距離を置いてる有働になぜか興味を示し、事あるごとに話しかけてきた。


「今日も死んだような目をしてるな、ウドー」


「うるせぇよ。お前だって授業中は死んだように居眠りしてるじゃねぇか」


 このお調子者な級友の軽口に付き合う余裕がまだ自分にあったのか。それとも意中の女子に全面否定されたばかりで、人恋しかったのか。有働には分からなかったか(たまにはこいつの話に付き合うのもいいだろう)と、ろくに味もしない鮭を放り出し、箸を止めた。


「きっついな。まぁ、居眠りしてたのはホントだけどよ」


 戸倉は手元に残ったサンドイッチの欠片を頬張りながら、話を続けた。


「ところでよぉ、内木のやつのブログ見たか?あいつ、あんな事が朝あったのに、昼にはケロっと昼飯の写真載せてるぜ」


 有働と戸倉は、窓側の前の席に座る内木のずんぐりとした背中を見た。


 内木は校内でも有名なブロガーだった。日常の話題がほとんどだったが、たまにどこから仕入れた情報かは分からないが、芸能人のスキャンダルや噂話を書き込むことがあった。6月のある日、とあるアイドルの秘密の恋愛を週刊誌よりも先に書いたことがあった。相手となった俳優の実名も一致した事から、週刊誌の記者の方が内木のブログから情報からヒントを得たのではないかとまで騒がれた。


 不良連中は、内木が注目を浴びるのを快く思わず、その日の翌日、いつもより凄惨な暴力の応酬が、内木を襲った。


 だが、内木はブログを止めなかった。それがいじめを長引かせる原因でもあったのかもしれないが、当の本人は気にしてないのか、無言の抗議なのか、こうして今も、昼休み中にコンビニの握り飯を齧りながらスマホを持ち、つぶやきや自身のSNSチェックを怠らない。


「ああいう奴なんだろ」


 有働は、興味なさげに言い終えると弁当の白米の残りを箸で寄せ集めて一気に口に入れた。


「俺、思うんだけどさ。内木っていじめられっ子じゃなくて、人気者なんじゃないか?」


 戸倉は本気で羨ましそうに、肩をゆっさゆっさ揺らしながら握り飯を咀嚼する内木の背中を見つめ、言った。


「人気者が、誰にも助けられず下駄箱でカツアゲされんのか」


「いいか。人ってのは思ってるより複雑なんだよ」


 戸倉は視線を有働に戻し、続けた。かろうじて右手に残った一辺2cmほどのサンドイッチの切れ端には、もう興味がないらしい。


「好きの反対は無関心。嫌い、大嫌い、憎い、キモイって感情は、ある意味、相手の価値を認めてるもんなんだな」


 有働は、その言葉に反応したように、戸倉の目を見つめ返した。瞬きもせず、戸倉の切れ長の黒い瞳は、静かに熱を帯びていた。


「プラスにしろ、マイナスにしろ。その相手が評価の対象って事はさ、その相手に潜在的に興味があったり、恐怖をもってたり、一見バカにしてるようで羨ましかったりっていうのがある」


 戸倉は得意そうに講義を続ける。


「なんだ、そりゃ」


 有働の本音。戸倉は笑って鼻をこすった。


「プラスとかマイナスとか数学っぽかったな。難しい話で、すまんすまん」


(偉そうに。数学の授業は、お前にとって仮眠タイムじゃないのかよ)


 有働は、そう戸倉に毒づきたくなった。


「すまんついでに、今度は数学の確率論の話だ。実に興味深いデータがあるんだぜ。自分に無関心な異性を振り向かせるのと、自分に苦手意識を持ってる異性を振り向かせるのだと…やり方さえ間違わなきゃ、後者の方が圧倒的に成功する確立が高い、ってデータ」


「はぁ?」


「まぁ、聞けよ。ギャップ萌え、って言葉があるだろ?アニメとかで普段、粗暴で自己中なヤツが、雨の中、捨て猫に傘を差しながら話しかけたりするじゃん?そういうの見たとき、そいつの評価がマイナスからプラスに跳ね上がる。相手が異性だと、その心のふり幅の大きさがトキメキになったりもするのさ」


「映画版なんとか、ってヤツか」


 有働は某国民的テレビアニメのいじめっこが映画版では勇敢でイイヤツに見える法則を思い出した。


「ああ。そうだ、それそれ。普段100点満点のいいヤツが100点分の善行をするより、20点のヤツが80点、90点を採るから、破壊力がある。惚れない方がおかしい」


(なるほど。最低最悪の自分がギャップを見せれば吉岡の評価も変わるだろうか。せめて、普通、くらいには)


「戸倉。お前は自分で、自分自身をどう評価してんだよ?普段100点か」


「俺か?まぁ、80点じゃね?いや、85点ってとこか」


 にべもなくお調子者は笑いながら答えた。


「んじゃ、俺は?何点だよ」


 普段、切り替えしてこないような有働の問いかけに、多少、面食らった表情をしたが、すぐさま戸倉は口をとがらせると、得意の饒舌なアドリブを返してきた。


「正直15点かな。ウソウソ、20点てところか。お前は無愛想すぎなんだよ。普通、自分の損になるような不都合な部分は隠してさ、周りによく思われるように取り繕うだろ?協調性ってやつな。でも、お前にはそれがないんだわ」


「めんどくさいだろう」


 有働は本音を言った。必要以上に周囲と馴れ合うのが苦手だった。


「自己完結してるなら、それでいいけどさ。人生、損してるんじゃないか?」


 戸倉の指摘に、今朝のバスでの出来事を思い出した。あの時、舌打ちなどせずさっさと老婆に席を譲っていれば、莉那に嫌われることもなかった。


(もっと早くに聞いときゃよかったぜ)


 有働は本音を飲みこんだ。


「お前もさ、もうちょっとは自分に得になるようなキャラを演じてみたらどうだ?今は学生だからいいけどさ。社会に出たら色々と不都合もあんだろ。割り切って善意を偽る部分も大事だぜ?」


「例えば購買で、同時に来たヤツに、先に並んでいいですよ、と譲るとかか」


 以前の昼休み。有働が購買でパンを買おうと並んだとき、同時に列についた他クラスの男子生徒がいた。有働は、すまなそうな顔もせず、ズイと押しのけるように、おまけに不快そうな顔までして、その生徒の前に並んだことがある。戸倉は教室で「ああいうのトラブルになるから良くないぜ」と言ってきた。


「そんな事もあったけな。お前さ、傲慢でデリカシーない割りに自分の悪行をよく覚えてるじゃん」


 戸倉は笑った。


「お前が説教してきたから覚えてんだよ」


 有働は不機嫌な顔をして言葉を続けた。


「偽善、か。偽善ねぇ」


(今からでも必死で偽善者になれば、吉岡に、せめて普通くらいには思い直してもらえるだろうか)


 有働は単純な思考で、問題解決の方法を導き出した。


 昼休みもあと残り数分という事で、比較的真面目な一部の生徒たちがパラパラと教室に戻ってきた。不真面目な生徒たちが教室に戻るのは、あと2、3時間後だろうが。


「お前さ、顔だけはいいんだから、もっと爽やかに振舞ったら違う人生になるんじゃないか?」


 俺の人生をお前に語られたくない、と有働は戸倉に毒づきたくなった。しかしどういうわけか、そこまで不愉快な気持ちにならなかった。これから目指すべき「偽善」という指針を与えてくれたこの級友は、どうやら彼なりに、自分を観察し理解しようとしてくれていたらしい。


「まずは笑顔だな」戸倉はそう言うと、サンドイッチの最後の切れ端をすべて口に入れ終えた。


「まずは笑顔か」


 有働は意味もなく言葉を復唱した。飲み込みながら、戸倉はウンと言った。


 その時だった。


 そろそろ教室に戻ろうとドアの前で往生してた黒縁メガネの女生徒、白橋美紀がペットボトルのお茶を持ちつつ、そのお釣りを財布に仕舞おうとしていたところ、教室になだれ込む男子生徒の一人に、ドアの前でぶつかられて、手に握っていた何枚かの小銭が転げ落ちてしまった。


「わ」


 ぶつかった男子生徒はイヤホンを耳に入れていたため、それに気づくこともなく、背を向けそのまま自分の席へ歩いていく。刹那の瞬間、ドア側に座る有働は無意識に、その硬貨を目で追っていた。


「一円玉一枚、十円玉二枚、百円玉三枚」


 有働が、転がり落ちる硬貨の種類と枚数を瞬時に確認できたのは、幼い頃から父に手ほどきを受けた武術による動体視力の賜物か、潜在的に持っていたものかは分からない。そして…


 たった1秒足らずの出来事だった。


 白橋美紀の「わ」という声に気を取られてる戸倉をよそに、有働は、反射的に席を立ち、小銭がそれぞれ転げ落ちる軌道と、最短の収拾ルートを見極めた。まずは一定速度で同一の落下軌道にあった硬貨、百円玉二枚、十円玉二枚、を手のひらで受け止める。そして少し遅れて手から落下した一円玉を待ち構えるように、さらに低い姿勢でお椀のように丸めた手のひらを差し出す。落ちてきた一円玉のアルミの感触を、親指の付け根で確認すると、一枚だけ、他の硬貨から軌道を逸れた百円玉に視線を移す。その百円玉は、有働が初期段階で受け取れないと見限ったせいで、離れた場所で二、三度ほど跳ね返ったが、やがて、受け皿である有働の両手に飛び込んできた。


 時間にして0.58秒。三百二十一円。白橋美紀と有働の距離が近かったという事もあり、一瞬のうちに全ての硬貨が有働の手のひらに収まった。

(まずは笑顔だよな)有働は笑顔を浮かべ、その口を開いた。


「三百二十一円。落ちたぞ。ほらよ」


 普段、無愛想だった男子の笑顔に戸惑っているのか。その彼が、手品のように、あっという間に硬貨を受け止めた事態に動揺してるのか。どこかぎこちない笑顔の有働と目が合い、白橋美紀はどうしていいか分からないような表情で固まっていた。


「ほら、受け取れよ。もらっちゃうぞ」


 それが冗談だと気づいた瞬間、白橋美紀はあどけない微笑を浮かべ「ありがとう」と受け取った。踵を返し、慣れない笑顔を貼り付けたまま席に戻る有働を、3秒おくれて小銭の落下に対応しようと中腰になったままの戸倉が、ぽかんと見上げていた。


「ほら、席に戻れよ」


 有働は戸倉の肩を叩き、微笑んだ。今度は先ほどよりも自然な笑みだったに違いない。あっけにとられていた戸倉も笑顔で返してきた。


「ウドーお前、笑うと八重歯があるんだ」


 嬉しそうに言うと戸倉は、持参した椅子を抱え、窓側の席に戻っていった。


(それがイヤで笑わないようにしてたんだがな)有働は小さく独り言を呟き着席した。その時、ドア付近、右後方から視線を感じた。


 視線の主は、莉那だった。何か恐ろしいものを見るような凍りついた表情だった。(やれやれ。笑顔の練習もしなきゃダメか?)有働は思った。


 席に戻った莉那は、午後の授業が始まるまでの間、何度かこちらを振り返り、何度か目が合いそうになると背けた。


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「hello everyone」


 ほどなくして中年女性の英語教師・宮崎が教室に入ってきて、イギリス仕込の流暢かつ気品溢れる(と他の英語教師に賞賛されているらしい)ネイティブ・イングリッシュで生徒にはじまりの挨拶を述べた。


「Listen to me!今日は、とてもとても大事な、5W1H…、whoやwhat、when、where、why…それに、howを使って色々な例文を学びますよ。皆さんが海外に行ったり、外国の方に質問したりするとき、これらの例文は、とっても大事になってきます。It's allright?」


 退屈な授業が始まると、有働は机の下、スマホで「偽善者」という単語を、意味もなく翻訳変換した。


 "hypocrite"と表示された。発音記号の勉強をしていないので読み方は分からなかった。授業にちゃちゃを入れたいのか、不真面目な何人かの生徒が、宮崎教諭に、三文字の「ある卑猥な単語」を、ネイティブ・イングリッシュで発音してくれと言っていた。当然、彼らの発言は無視された。


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「今日から本気で偽善者になりたいんだが」


 帰宅後、夕食と風呂を済ませた有働は、早々に二階の自室にこもり、某巨大掲示板に、そのタイトルでスレッドを立てた。簡単に顛末を書いた。反応は散々だった。(好きな女子を振り向かせるため、善人ぶる方法を一緒に考えてほしい)など賛同されるはずがない。1時間でレスは20ちょっとついたが、罵倒の言葉がほとんどだった。


 有働はスレッドを削除すると、「スーサイド5Angels」非公式ファンサイトを通して、かれこれ2年の付き合いになるチャット仲間たち6名にコンタクトを取った。誰一人として、オフラインで顔を合わせた事はない。だが、彼らとはお互いの心の暗部まで打ち明けた仲だった。有働のねじれた性格を当然、把握している。話は早い。


 ある者(休学中の大学生らしい)は自殺未遂の経験を告白し、ある者(30代サラリーマン)は会社の金の着服を懺悔した。また、ある者(40代主婦)は娘が通うアイドル養成所のダンス講師と男女関係になった事を延々と語った。ある者(よく分からないが変態)なんて、女性のスカート内の盗撮が趣味だと、嬉々として話したが、誰もそれを非難しなかった。おそらく自分自身が抱えた闇や罪に比べて、さほどの問題でもないと感じたのか。それとも他人にさほど興味がないだけか。理由はどうであれ、他人のあれこれを聞いて、不快を顕にする者はいなかった。


 有働は思った。(俺よりも遥かに最低な人間たちがいてくれて良かった)と。有働に招集され、チャット会議室に皆が揃ったのは22時過ぎだった。まずは「スーサイド5Angels」の新譜ミニアルバム「勝ち逃げ霊柩車~あなたと逝きたい~」の感想、意見交換から始まり、近況報告を各々に語らせた後、実に自然な流れで今回の本題を持ち出した。


「今日から本気で偽善者になりたいんだが」


 もちろん、誰も有働を非難はしなかった。有働のハンドルネームである「ワーク(働くの意)くんはさぁ」と前置きをつけ各々が考える戦略を語ってくれた。

「その子にだけ特別に優しくするのがいいよ」と、最初の書き込みがあがった。


 続いて、

「誰かチンピラを雇ってその子を襲わせて、助ける演技をすれば」


「その子の前でだけいい人をやってもダメ。第三者の口から"ワークくんはいい人"だと彼女の耳に入れば効果絶大」


「その子そんなに可愛いの?撮影したいな」


「冷たくしたり、優しくしたり、ツンデレにしなよ」


「毎日、校舎を掃除すればいい」


「お年寄りには毎回、席を譲りなよ」


「今年になってから隣国と争いが激化している、梅島の領土問題を解決すべく平和デモを起こすとか」


「その子の下着を撮影したいから通学路を教えて」


「毎日さ、弁当をつくってあげなよ」


「いじめられっ子を助けるとかすればいいんじゃないかな」


「目の前で一万円、募金箱に入れるとか」


「っていうか、まずは社長目指しな。男は金でしょ」


「好きな食べ物チェックしときなよ」


「この際、善人(よしひと)って改名するしかない」


「世界平和のために戦え」


 などなど、有働の反応を待たずして、他にも沢山、書き込まれていった。

 いくつか複数アイディアを出してくる者もいれば、荒唐無稽なアイディア、本題と関係ないふざけた発言もあったが、参考になるものもあった。


「お年寄りには毎回、席を譲りなよ」これは有働も考えていた。というより苦い経験から来る反省と言うべきか。


「毎日、校舎を掃除すればいい」これはいかにも偽善的である。こんな事をする奴がいたら、数少ない大学の推薦枠を狙った下心丸出しの輩を思い浮かべる。(実際、推薦枠狙いで、教諭の授業の準備を自ら請け負う生徒もいた。しかし、彼らは往々にして授業も真面目、きちんと勉学にも励んでいた)だが、校舎の掃除。悪くはないアイディアだろう。


「今年になってから隣国と争いが激化している、梅島の領土問題を解決すべく平和デモを起こすとか」これはいくらなんでも面倒くさいだろう、と思いつつも、有働は一連の報道を思い出した。あれは春先だったか、梅島に隣国が研究所か何かを立てたとかで、日本政府は抗議申し立てをしていた。あの島に地下資源もなく漁業水域としての価値しかないにも関わらず、隣国は何を始めたのだろうとネットでも噂になった事がある。「きっと軍事基地だ」「悪の研究をしているんだ」「遠い親戚が官僚なんだけど、今年の1月に落下した隕石が原因で、あの島には、永遠の命の源がうまれたらしいよ。それを奪い合って第三次世界大戦が起きるかもね」などアホな書き込みもされていた。これら荒唐無稽な内容に、ただ、ただ有働は苦笑いするだけだった。


「その子の前でだけいい人をやってもダメ。第三者の口から"ワークくんはいい人"だと彼女の耳に入れば効果絶大」

「いじめられっ子を助けるとかすればいいんじゃないかな」


 有働は、この2つの書き込みに着目した。「吉岡莉那の耳に、自然な形で"有働の善行"の情報が届く、いわゆる第三者からの口コミ」そして「いじめられっ子」この条件を一度に満たす人材に心当たりがあった。


 校内きっての有名ブロガーにして、全校生徒の前でほぼ毎日、壮絶ないじめを受けている内木孝弘。彼だ。彼を利用させてもらおう。


 閃きを与えてくれた2人にだけ感謝を述べたかったが、今日から偽善者だ。これまでの有働ならば、くだらない発言には一切、無反応、スルーが鉄則だったが、本音を包み隠し、「チンピラ雇って助けたふりをすれば」と言った発想貧困者(会社の金を横領してる犯罪者らしい浅はかな発言だった)、「パンツを見たい」と言った愚者(許されるならこの発言者を気がすむまで殴ってやりたかった)、まるで役に立たないアドバイスを投げかけた者たちを含む、6名全員に、名指しでそれぞれ感謝の意を述べた。


 今回、珍しく有働の丁寧な対応に(さっそく偽善か?)(変わったな)と指摘するものはいなかった。素直な感謝の言葉だと受け取ったのだろう。


「いつか7人で集まろうよ」

 決して顔など出せるはずのない「犯罪者」数名を含む6名に、最後、いつもの社交辞令を書き、有働のチャットは終わった。


 時計の針は23時48分をさしていた。布団に入る前に、窓を開けた。闇夜に浮かぶのは濃淡な灰色の雲だった。「明日も雨か」ひとり呟くと有働は電気を消した。


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 深夜、1時13分。着信音が鳴り有働はふいに目覚めた。液晶画面にはインスタントメッセンジャーのメッセージ受信マークが「1」と表示されている。(こんな時間に誰だよ)舌打ちしながら、有働は内容を確認した。


「おはよう。昨夜、言い忘れたことがあるよ。本気で"偽善者"やるからには、周囲にそれが"偽善"だと気づかれちゃダメだよ。いかにもって感じの下心丸出しの善行じゃなくて、さりげなくやること。なぜ"人を助けたいのか""役に立ちたいのか"その動機もきちんと言えるようにね。そうすれば、皆が心を許すし、本物の善人だと思われる。そこまでくれば、本物の偽善者になったと言える!頑張ってね!ワークくん!」


 発信者名は"午前肥満時(ごぜんひまんじ)"


 それは、さきほどのチャット会議で「毎日さ、弁当をつくってあげなよ」「好きな食べ物チェックしときなよ」などとズレた発言が多かった、自称"大食いニート男"からの追加の励ましメッセージだった。

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