第6話 鬼の仮面の裏側 No1

ここはさとしさんの意識の中なんだ。


記憶を辿っていく。


ビルの出入り口に会社名が見える。


”三田産業ディベロップ”。


さとしさんの商品開発部に入る。


この人が、さとしさんを苦しめた上司の新庄部長だな。


髪の毛はくせ毛で白髪混じりの少し乱れた髪が顔に垂れ下がっている。


体系は中肉中背でスーツにはしわが結構目立っていた。


体つきの割には顔がむくみ目が血走った感じだった。


異様な雰囲気が感じ取られた。


なんだかいつもぶつぶつと独り言の様に文句を呟いている。


目の前の自分のノートパソコンを見ながら右手にはコーヒーに手をかけ、左手はピアノを引くように指を丸くして、せわしなく机の上を小刻みに叩いていたが、指の爪が伸びていたせいでカチカチと不快な音を立てていた。


眉間のしわは深く、日常の苦悩を物語っている様でもあった。


この人も苦しいのだ。


部屋の奥の席には前沢さんらしき女性もいた。


時々こちらを向いてさとしさんと目が合うようだった。


黒髪と白い肌のせいか一段と色白の顔を引き立たせ、眉毛やまつ毛も黒々と前沢さんの顔を凛とした雰囲気に仕立て上げていた。


髪型はショートヘアで、大きく切れ長の目でこちらを見て少し笑っている。


まだ仲が良かった時の記憶らしい。


今回の一件で、この前沢さんの心も傷ついたんだと思うと心が傷んだ。


取り敢えずこれで、新庄部長が誰だか分かったよ。




ぼくは、さとしさんの記憶から戻って顔を上げると、さとしさんが心配そうにぼくを見ていた。


「大丈夫?気分でも悪いの?」


「ううん、考え事をしていたんだ。」


ぼくは、さとしさんに心配させない様に笑顔で答えた。


ごめんね、さとしさん。勝手にさとしさんの記憶に入ってしまった。


最低限の記憶しか見ていないから許して欲しい。


ぼくは心の中で謝った。


今、さとしさんに部長の名前を聞いたりして、また気持ちが落ち込み、精神状態が悪化するかもしれないから、そんな質問はできなかった。


ぼくは、さとしさんに治療に専念して欲しかった。


だけど、この一連の原因である、新庄部長に早くたどり着いて、根本的な問題を解決し、これ以上多くの犠牲者を出さない様にしないと、悪循環の歯車があちこちで回りだすんだ。


そして、それは今の世の中のあちこちで頻発している。


その膨大な現実的な数をもし直視することができたら、ぼくはきっと、自分の無力さに押し潰されていたかも知れない。


泣き崩れ、立ち上がれなかっただろう。


それくらい、世の中には、相手の心をズタズタにしたり、されたりを続けている人が溢れているんだ。


もう誰かが解決するだろうとか、他人事の様に装う段階ではないんだ。


多くの人が、憎しみや悲しみで自分や他人を殺したがっているんだ。


こんな世界から消えてなくなりたいと思う人が増えているんだ。


そんなことは絶対におかしいし、そんな世界のままにしておいたらだめなんだ。


ぼくは、さとしさんを見守りつつ、新庄部長に会いに行くことに決めた。


会って新庄部長が何を背負っているのか、何に苦しんでいるのか、まずは知ることから始めることにした。

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