第20話 ローラのメイド日記2

 私の名前はローラ=ウアル、年齢は秘密。

 親愛なるアベル様の専属メイドでございます。

 皆様のご要望にお応えして再登場致しました。


 えっ、誰も呼んでないって?

 そんな事を仰らずに、私の話を聞いて下さいませ。

 この物語は、私が鍵となっているのですから。



 アベル様は三年間の士官学校での教育課程を修了し卒業なされました。

 しかも成績優秀で主席となられ、褒賞ほうしょうの銀時計を魔王様から賜る栄誉にあずかられたのです。

 さすがアベル様!


 しかし、あのエレナとかいう貴族の小娘……

 事ある毎にアベル様に胸を押し付けて……

 アベル様! 気を付けて!

 その女は、巨乳で男を釣ろうとしている性悪女ですよ!




 アベル様の任地が決まりました。

 国境に近い街ギリウス――――

 アベル様なら、もっと安全な場所に赴任する事も可能なのに、何故か志願してまで最前線に……


 何をそんなに生き急いでいるのでしょうか……

 何を求めて……何の為に……


 ギリウスへは私も付いて行かなくては。

 アベル様お一人では、何処までも突き進んで戻って来れなくなりそう……

 私がアベル様の戻る場所でありたい……

 私がアベル様の安らぎでありたい……

 私がアベル様の悩みや苦しみを癒して差し上げたい……

 私が…………



「アベル様、今夜は私が添い寝して御奉仕致します」

「…………」


 ベッドに上がりアベル様に覆いかぶさる。

 そして、そのまま顔を近づけて行き、くちびるとくちびるが軽く触れるだけの優しいキスを……


「ローラ……俺は……」

「大丈夫です。アベル様は楽にしていて下さい。私に全て身を任せてくれれば良いのですよ」


 アベル様……緊張しているのね。

 いつも私の胸や腰を見ているのに、本当は興味がおありなのに、何故かアベル様の中の何かがブレーキをかけてしまっている。

 私が、その何かを取り除いてさしあげたい……


 私の細く綺麗な指がアベル様の胸を滑る。

 とても優しく……愛おしいものを撫でるように……

 やがて、その指をアベルの熱く猛った男性自身を包み込ませ、絶妙な圧を掛けながら上下させた。


「ローラ……何処でこんな……」

「安心して下さい。私も初めてですよ。もしかして、私が経験者だと思って嫉妬しちゃいました?」

「そ、それは……」

「私は勉強熱心なだけなのです。独学で夜伽よとぎの仕方を学びました。伊達だてに長く生きているわけではありませんのよ」

「長く生きているって、確か七歳くらいしか違わないだろ……」

「あっ、そうでしたわ。私としたことが……まあ、良いではありませんか」

「うっ、うううっ……」


 遂に、その時が来たのですね。

 私とアベル様が一つになる時が。


 アベル様……

 どうか、怖がらないで……

 貴方が何をそんなに恐れているのかは分からないけど……

 私は、アベル様の味方です……

 どんなに世界がアベル様に敵対しようと、私だけはアベル様の味方でいたい……

 だから……その身を任せて……


 ――――――――

 ――――――

 ――――




「アベル様、朝ですよ。おはようございます」


 ダメ……

 つい顔がにやけてしまう……

 昨夜の、私の指や舌やアソコで喘ぐアベル様を思い出してしまって……

 ふっ、ふふっ……ふふふっ……


「夢じゃ無かったのか……」

「はい、それはもう。アベル様は大きくて逞しくて素敵でした」

「ぶふぉ! おいローラ、何を言っているんだ!」

「うふふっ、アベル様ったら、あんなに激しく私を求めて来て、ふふっ、そんなに溜まっていらっしゃったのですね」


 もう、照れている顔も可愛らしい。

 私の大好物の“おねショタ系”にピッタリですわよ。

 まあ、アベル様は、あの頃と比べて成長し逞しくなられましたけれど。

 見た目は大人でも、中身はあの頃と変わっていらっしゃいませんのね。


「ローラ、もういいから出発の準備をしてくれ」

「はい、畏まりました」



 汽車に乗りギリウスへと向かう。

 国境に近く危険な場所へ……

 アベル様は先程から嬉しそうにしていらっしゃる。

 これから、一体何が起こるのだろう――――




 新聞の見出しには『救国の英雄アベル=アスモデウス少尉、驚異の戦術でアケロン城奪還成功』と大きく書かれている。

 最前線の重要拠点であるアケロン城が人族に侵略され、占領を続けられ何度攻撃しても取り返す事が出来ず苦渋を飲まされ続けてきたのです。

 アベル様が初陣でありながら奇策を用いて、あの難攻不落と呼ばれたアケロンを奪還したのです。

 もう、街中がお祭り騒ぎで、アベル様を『救国の英雄』とか『奇跡のアベル』と呼んで褒め称えている。

 私だけのアベル様だったのに、国民の英雄になってしまい遠い存在になってしまいそうなのは困るのですが、アベル様の名声が高まるのは私としても誇らしい気分です。


 えっ、一発やったら、もう自分のモノ宣言ですって?

 良いのです!

 アベル様は、私の色香に惑わされて、もう私無しではいられないようになっている……はず……たぶん。

 ふふっ、もうすぐアベル様が帰って来て、真っ先に私のカラダをお求めになるはずです。




「おかえりなさいませアベル様」


 アベル様……

 久しぶりに見るアベル様は、少しだけ逞しくなった気がして……

 こんなに離れていたのは初めてなので……

 何だか、カラダの奥が疼いてしまいますわ……


「ローラ、留守の間は何も無かったか?」

「はい、何事もございません。万時抜かりなく」


 ベッドメイキングもバッチリですわ!

 えっ……あれっ……

 アベル様が何もしてこない……

 普通、若き性欲の迸った殿方ならば、ここは『逢いたかった! もう我慢出来ない!』って来るシーンではありませんの?

 全く、どうなっていますの……




 王都に戻ったアベル様は、魔王陛下より勲章を賜り、四階級特進という史上類を見ない凄い昇進をなされました。

 何でも、アケロン奪還だけでなく、新兵器の開発にも成功したとかで。

 一体、アベル様の知識や能力はどうなっていらっしゃるのか?

 才能が湯水の如く溢れ出て来るようでありますわ。


 思い返せば、あの利発そうな少年のアベル様と出会った時から、私の物語は始まったのです。

 初めて会ったはずなのに、まるで昔から知っているような……

 それは、運命の出会いのような衝撃を受けたのです。

 私は……アベル様に仕え、アベル様の為に死ぬのです。


 そう……まるで、私が遠い過去に犯してしまった過ちを清算するかのように――――



 私はローラ=ウアル……

 アベル様の忠実なる専属メイド……

 これからどんな事が起きたとしても、命を懸けてアベル様を守る。

 それが私なのです――――

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