シェアルームのふたりの話

はははのは

05:00

「……凛くん」

「何」

「暇」

「五回目」

「うん」

 三時四十七分。

 ふと窓の外を見ると、ベランダに鳥が二匹いた。

「何かしようよ」

「勉強でもしてれば」

「やだ、めんどい」

「じゃあ動画みてれば」

「飽きた」

「こまち」

「違う、そうじゃない」

 凛くんのボケに軽くツッコミつつテーブルに置いてあるスマホに手を伸ばす。

 届かない。

「もういっその事寝れば?」

「それも、なんかやだ」

「ならどうしろと」

 もう少しで届きそうなのでソファから身を乗り出してみる。

「うがっ」

 すぐ手が届きそうなところでソファから落ちた。そんで変な声出た。

「……うがっ、て」

 凛くんが笑いを堪えるように笑っている。

 顎が痛い。

 ここでふと思いついた。なんか面白くなりそうだ。

 ということで、仰向けになって私はこう言う。

「じゃあさ、襲ってよ」

「え?」

「襲ってよ」

「……どうした急に」

「暇だし」

「え、いや……え?」

 凛くん戸惑ってる。面白い。

「ほら、無防備だよ」

「そう言われても」

「同じ部屋に男女がふたり、何も起きないはずもなく……」

「起こりません」

「ホントかなぁ」

「いや、本当に……」

 ここで何故か言葉が途切れた。

 しばらくして、俯いた凛くんが言った。

「……襲って、ほしいの?」

「まあ、そうだね」

「じゃあ襲うね」

 真顔だった。

 顔を上げた凛くんは真顔だった。

 さっきまで顔を赤らめて戸惑っていたのにそれらを思わせる要素は全く感じ取れなかった。

「あ、やっぱ襲わなくていいかも〜」

 危機感を感じた私は咄嗟に言った。

「いや、そう言われても」

 そう言いつつ私の上に乗られた。

 え、これマジでやるパターン?

「いや、ちょっと待って心の準備が」

「同じ部屋に男女がふたり、何も起きないはずもなく……」

 彼は笑いながら、いや嗤いながら先程私が言ったことを繰り返した。

「あの、ホントに」

「……」

 彼は無言で私の頬に触れる。

「……やめてよ」

「……なに」

「やめてよぉ」

「……」

「……」

 何故か、彼の手が止まった。

「……フフ」

 笑った……?

「アハハ」

 笑った。

「ちょ、どうしたの急に」

「いやー、マジで面白かった」

「え?」

「さっきの、演技」

「え?」

「なんかからかわれたから、からかい返してみた」

「……」

「最初は普通に戸惑ったけどね」

 急に安堵感が訪れて、体の力が抜けた。

「ていうかなにあの顔」

「……」

「めっちゃ可愛かった」

 そして途端に恥ずかしくなった。

「なんかエロい感じもあったよね」

「もうやめて」

「やだ」

「なんでぇ」

 あっという間に立場が逆転してしまった。

「ひどいよ凛くん」

「そうだね」

「否定しないんだ」

「正直、ひどいことしたなって。ごめん」

「……私もごめん」

 そして、ふたりで笑った。

 マンガとかでよくあるやつみたいに。

「さて、これでいいかな」

「何が?」

「だって暇だったんでしょ?」

「そういえば」

 ほぼ同時に時計に目をやる。

 三時五十二分。

 五分しか経ってなかった。

「……ねえ凛くん」

「何」

「暇」

 今日も、シェアルームでの一時は過ぎていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シェアルームのふたりの話 はははのは @ha3no-ha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ