第12話 前略、道の上より-12


 しばらく走ると、工場地帯を抜けて田園風景に出た。大型のトラックも減り、交通量自体が少なくなったおかげで、空気が随分よくなった。見晴らしのいい風景に、少し気分は軽くなった。まだ、息は続く。足も軽い。時計を見ると、まだ一時間も走っていない。まだこんなものかと思って横を見ると直樹も平然と走っている。ただ、何も言わない。イチローも、これは勝負だと思って話し掛けずにおいた。

 沈黙は重かったが、見慣れない風景は心をわくわくさせた。少しずつ変わっていく見慣れない風景は、いつものジョギングと同じように楽しかった。こんなに楽しくて勝負になるのかと思ってしまうほどだった。

 風は心地いい。


 「情報が入ったよ」

中川の声に部室にいた全員が色めき立った。

「二年の女の子が、イチローが緑道を南の方へ走って行くのを見たって」

「それだけ?」

「それだけ」

「それだけじゃ、なんにもならないじゃない」

しのぶはがっかりしたように呟いた。

「でも、緑地公園のみんなを呼び戻す必要があることはわかったわ。誰か呼んできて」

由起子の声に新田が飛び出して行った。

 しのぶは肩を落としてイスに座っている。由起子はそっとしのぶの肩に手を置いて、顔を見つめながら言った。

「あんまり心配しなくてもいいわ」

「でも…、あたしのせいで」

「しのぶちゃんのせいというよりは、ミキちゃんね」

隅っこにいたミキはビクリとして、身を竦めた。

「よけいなこと言って」

「だって、こんなことになるなんて。ちょいちょいとイチローにビンタして終わり、かなって思ったんだけど」

「直樹君も、ちょっと厄介な性格してるわね」

呆れたように由起子は呟いた。

「でも、どこかで決闘なんてことになってたら」

しのぶが呟くと、由起子はしのぶの頭に手を載せながら言った。

「そんなことはしないわ。決闘はね、決闘罪っていう罪になるの。甲子園を目指してる直樹君がそんなバカなマネはしないわ」

「それなら…いいけど」

心配そうなしのぶを見ながら、由起子はため息をついた。

「ホント、どこ行ったのかしら」

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