第3話 前略、道の上より-3
放課後、練習のためにグラウンドに出たイチローは、もう何人かが練習を始めているのを見つけた。ベンチに荷物を置くと帽子をかぶり、向きを決めると、
「さぁ、オレもやるかぁ!」と叫んだ。
「なんだ、イチロー、気合入ってるな」
近くにいた江川がイチローに声を掛けた。
「あったりまえだろぉ。こないだの雪辱戦をやらなきゃな」
「あれか、女子チームとの試合?」
「そう。オマエも悔しいだろう」
「まぁな。だけど、あれは、バケモンだぞ」
「あいつらだろ。だけど、朝夢見と未来だけ抑え込めりゃあ、あとはたいしたことはないさ」
「まぁ、それはそうだけど」
「頼んますよ、エースさん」
「まいったな…」
江川はイチローに背中を叩かれて困ってしまった。その後ろからジローが近づいた。
「兄さん、元気だね」
「おう、ジローも来たか。アップするからちょっと手伝ってくれ」
「うんいいよ」
イチローとジローは柔軟体操を始めた。
「なぁ、ジロー」
「なに?」
「どうしたら、あんなにボールが飛ぶんだろう」
「あんなにって、こないだのあゆみちゃん?」
「あぁ」
「それは僕にもわかんないよ」
「あいつら、バケモンだな。軽くオレの頭の上を越えて行っちまうんだから」
「守備もいいしね」
「なんで、女であんなにできるんだろ」
「きっと、ファントム・レディだからだろ」
「オレもファントム・レディになりたいよ」
「男で、レディ、はおかしいよ」
「ま、そりゃそうだけどな」
「ところで、兄さん」
「なんだ?」
「しのぶちゃんに、昨日ひどいこと言ったんだって?」
「…ぁあ。まぁな……」
「ダメだよ、あんまりひどいこと言っちゃあ」
「ちょっとした、はずみだよ…。でも、どうして、知ってるんだ?」
「今日、しのぶちゃんが言ってたから」
「あ、そうか。あいつ、お前とおんなじクラスだったな」
「随分怒ってたよ。あんなヤツ、って。ボクも文句言われた」
「あのヤロウ」
「兄さん、ダメだよ。しのぶちゃん、女の子なんだから。女の子には優しいのが兄さんのポリシーじゃないの?」
「だっけどよぉ、あいつ生意気なんだ」
「でも、兄さんらしくないよ。女の子とケンカするなんて」
「そんなことはねえだろ。ミエコのヤツとはいつもケンカしてるじゃないか」
「ミエちゃんとは、昔っからずっとじゃない。子供のケンカみたいなもんじゃない。今回のは、なんか、もっと全然違ってるみたいだから」
「まぁ…。虫が好かない、っていうのかな、あいつ。ちょっと、気に食わないんだ」
「でも、あんまりいじめると、あゆみちゃんや仙貴さんが文句言ってくるよ。仲いいらしいから」
「それも気に食わねえな。バックがいるからと思って、いい気になりやがって」
「しのぶちゃんはそんな子じゃないよ。いい子だよ」
「なんだかなぁー。やなんだよ、あいつ」
「でも…」
「わかった、わかった。まぁ、なるべくちょっかい出さないようにします」
「それならいいけど」
集合の号令が掛かり、二人は柔軟体操をやめてみんなのいる場所へ向かった。
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