10 ノーブレーキ経験値稼ぎ
オレは不東剛石。高校二年生だったが半年くらい前にこの世界に召喚されて以来、勇者と言われてる。
なぜならオレが超強いから。
召喚された理由は「魔王を倒すため」っていうありきたりな話。
ぶっちゃけ、もう倒せると思うよ? オレ一人で。
なのにオレを召喚した連中は、本来なら五人揃ってないと危険だとか言ってその日を先延ばしにしやがる。
五人必要なら最初に言っといてほしいよなぁ。そしたら横伏を森にポイ捨てなんてしないで、無理やりにでも魔物倒させてレベル上げてやったのに。
横伏がいなくなってから、微妙に調子が悪くなった。
土之井はオレたちに協力しなくなったし、オレの次に強い亜院はなんと生きていた横伏に再起不能にされちまった。
土之井に「横伏に謝れば亜院を治してもらえるかもしれない」とか言われたけど、お断りだ。
この異世界ってところは強さが物を言う。
だから、オレさえ強くなれば、横伏に土下座させて亜院を元通りにさせられる。
横伏が戻ってきたら、土之井もやる気を出すだろう。
ところが亜院と土之井は、横伏がオレより強いとか言いやがる。
土之井が調べている横伏の動向レポートをチラ見したら、冒険者ランクAだとか、オレたちが手こずった魔物の巣をひとりで攻略しただとか、信じられないようなことが書いてあった。
まあ、土之井は人に聞いただけでそれが本当に横伏かどうかはわからないし、レポートにもその後の動向がぷつりと途絶えて不明ってなってたし。
でも念の為、ほらライオンはウサギ狩るにも全力でってことわざがあるし、オレはもうちょっとだけ努力してやることにした。
んで、やらかした。あれは不幸な事故だった。
相手してくれた椿木を殺しちゃったんだよ。
魔物を倒しても経験値の入りが悪いから、レベルより剣の腕を磨こうと思って椿木を練習台にしてた。
「ふ、不東、ボクじゃもう相手にならないからっ!」
「いーから、全力で闇の結界ってやつやってよ」
椿木には魔法で結界を張ってもらって、それを切り裂くっていう練習。
まあぶっちゃけ思い切り剣を振っても結界以外が壊れにくいから、オレの練習台って椿木のコレしか無いんだよね。
そんで椿木に必死になってもらうために、自分自身を守らせてた。
万が一結界が破れたら椿木が死ぬから、頑張れってね。椿木も魔法の練習ができて一石二鳥じゃん?
ところがオレの剣技が凄かったのか椿木の魔法が不完全だったのか、一撃で結界を切り裂いちまった。
衝撃波が椿木にモロにぶちあたり、椿木は派手に血を吐いて倒れて、そのまま動かなくなった。
「おい、ツバッキー! マジかよ、どうしよう……」
「どけ不東!」
オレがオロオロしていると、たまたま通りかかった土之井がダッシュでこっちに寄ってきて、オレを押しのけた。
神官その2が土之井の横について「魔力を渡します」「術式は生命ではなく結合の」とかなんとか言ってる。
十分くらい、土之井は椿木に治癒魔法のときより眩しい光を当てていた。
「う……うぉえっ! げほっ、げっ!」
椿木が目を開けて、咳き込んで……吐いた。下半身も漏らしてる。上も下もぐちゃぐちゃだけど、生き返った!
「うわー! よかった、ごめんツバッキー!」
ゲロとかを踏まないようにして、ツバッキーに近づく。すぐに起こそうとしたら、土之井に止められた。
「起こすな。担架とってきてくれ」
「お、おう」
しかし担架は別の兵士が既に持ってきてくれてた。有能じゃん。
担架で運ばれる椿木を眺めていたら、頭の中で声が聞こえた。
<レベルアップしました>
久しぶりに聞いたなぁ。って、なんで今?
ステータスを見たら確かにレベルは46になってる。
「不東、どういうことだ」
土之井は神官その2に肩を借りて立っていた。顔色も悪い。
「ドノっちどうした? 疲れてるの?」
「俺のことはいい。何故、椿木を」
「あー、その、やりすぎちゃって……まさか死ぬとは……で、でも生き返ったし? ツバッキーには後で謝っておくよ!」
土之井の目が怖い。横伏の目つきは素で怖いけど、土之井は怒ったときだけものすごく怖い。
オレは逃げるように自分の部屋へ戻った。
レベルアップの声って、結構タイムラグがある。
でも、せいぜい五分とかそのくらいだ。
オレが直前に殺したものといえば……。
[経験値上昇×10]がなくなってからというもの、オレのレベルはずっと停滞していた。
亜院は魔物をありえないほどの数倒して頑張ってたけど、オレそういう地道な作業キライだし。
それが、椿木を倒しただけでレベルがあがった。
あと四回倒せば50になるんじゃないか?
生き返らせるのって、神官その2だけでもできるかな。
その前に、椿木以外でもレベルあがるかな。
オレの言うことを何でも聞いてくれる兵士が何人かいる。
どうして聞いてくれるかっていうと、オレが呼んでもらった女の子を後で使ってた現場を見ちゃったんだよね。っつか、いつも同じやつが引き取りにくるし、怪しい目つきで女の子を舐めるように見てたからピンときて後をつけたら、ビンゴ。オレより酷いプレイしてた。オレ、わりと酷いことしてる自覚はあったんだけど、それ以上。アレ見たらオレのほうが何万倍も紳士だよ。
そいつらに声かけて、死刑囚を連れてきてもらった。
どうせ死ぬなら、オレの経験値になってくれやとその場で叩き切った。
三人はまさかオレが殺すとは思わなかったみたいでドン引きしてたけど、知るか。尻拭いは丸投げしたよ。
<レベルアップしました>
よし、レベル47だ。
やっぱり人間を殺すことでも経験値が貰えるんだな。
オレは兵士に、死刑囚が出たら連れてこいと命令しておいた。
人として間違ってる、だとさ。オレたちを勝手に召喚した奴らが言うことか? と凄んだら、やつらは何も言い返さなくなった。
そっちが手段を選ばなかったんだから、こっちだって手段を選んでいられるか。
早く強くなって魔王をぶちのめして、オレは悠々自適の人生を手に入れるんだ。
しかしその後、死刑囚を十人くらい殺してもレベルアップしなかった。
死刑囚どものレベルを訊いたら、最初のひとりが10ちょっとで、他は2とか3だったらしい。
雑魚じゃん。雑魚なんか倒しても経験値もらえない気がする。
……やっぱり、椿木がいちばん手っ取り早い。
椿木の見舞いがてら様子を見に行ったら、もう元気そうだった。
あとは、土之井の手を借りずに椿木を生き返らせる方法だな。
何でも聞いてくれる兵士たちに、神官その2か生き返らせる魔法が使える奴の弱み握ってこいって命令した。
神官その2、嫁さんと子供がいた。
嫁さんと子供の居場所を突き止めて、そのネタを持って神官その2に話をつけた。睨まれたけど、横伏や土之井に比べたら大して怖くない。何より、オレが早く強くなる方が都合がいいはずだ。
「ただし、七日に一度だけです。それ以上は私の魔力と闇魔道士殿の身体が持ちません」
神官その2はともかく椿木が壊れたら元も子もないから、仕方ないか。
前に椿木を殺してから七日経った。
真夜中に眠ってる椿木を起こして「神官2が呼んでる」っつって、死刑囚を殺しまくってた地下牢へ連れて行った。
「こんなところで、何の話?」
神官その2が呼んだと思ってるから、椿木は神官その2に話しかける。
だけど神官その2には「余計なことはしゃべるな」って言ってあるから、下を向いたまま無言だ。
「ところで椿木、レベルいくつ? 生き返ってから下がったりした?」
「ううん、38のままだけど……え?」
椿木の寝ぼけた頭が起きたっぽい。完全に覚めきる前に、やっとくか。
「またね、ツバッキー」
闇魔法を使わせる隙も与えず、前と同じように剣を振った時の衝撃波だけで椿木の命を奪った。
<レベルアップしました>
これで48。順調順調。
オレがステータスを確認している間に、神官その2が椿木に蘇生魔法を使ってる。途中で魔力回復ポーションを何本も飲んでるけど、大丈夫かな。ちゃんと起きるかな? ……おお、起きた。よし。
「ふ、あずま、また……う、うえっ」
あー、汚いなぁ。またゲロとお漏らしだよ。これ毎回するのかな。
「ごめんごめん。でもお陰でレベル上がったよ。んじゃ、先戻るわ」
「人を、呼んで、ください……このままでは……」
神官その2が真っ青な顔で訴えるから、地下牢を出てから近くにいたやつに「助けてあげて」って声をかけといた。
レベルアップイベントは週に一回。あと二回やれば、レベル50になれるはずだ。
ちょっと待ち時間長いけど、楽勝じゃん。
魔物をちまちま倒してないで、はじめからこうすればよかった。
いや、最初の頃はみんなレベル1だったか。
でももう今更、殺意むき出しでちょっと油断したらオレを傷つけてくる魔物なんて相手にしたくないな。
椿木を再び殺してから三日後の朝、オレがまだ眠ってるところへ扉をドンドン叩かれた。っつーか扉をぶち壊された。
入ってきたのは、今までで一番怒ってる土之井だ。
「うっわ、おはよう!?」
寝起きのオレは頭が回らない。思わず挨拶すると、土之井はオレの胸ぐらをつかんで持ち上げた。魔法使いなのに力持ちだなぁ。
「椿木が消えた。書き置きを残していた。……貴様、なんてことしやがった!」
殴られたけど、痛くない。逆に土之井の拳が痛そうなことになってる。
が、そんなことはお構いなしに土之井は俺を壁に押し付けた。男からの壁ドンはないわー。
「なんだよ、レベルアップに使っただけじゃん。それに生き返るし……」
「じゃあ俺がおまえを殺してレベルアップしても良いんだな?」
「いや、ドノっちにオレは殺せないでしょ」
あたりまえのことを言ってやると、土之井は再びオレを殴ろうとして、やめた。拳痛いんだろうな。
胸ぐらを掴んでた手も離れていった。
「もう、おまえにはうんざりだ」
土之井は捨て台詞を吐いて、部屋から出ていった。
朝っぱらから元気だなぁ。オレはそのまま二度寝した。
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