取り合われても困る

西園寺 亜裕太

第1話

とある高校の野球部の部室で昨夏部を引退した遠藤陽平とその後輩の杉本侑斗が話していた。


「つまり要約すると俺を取るために複数のサークルからわざわざ高校まで勧誘が来てるということでいいんだな?」


陽平は、侑斗からスカウトが来ていたという話を聞いて、もしかして大学の野球部からスカウトが来てるんじゃないかとワクワクしながら来たのだった。


すでに推薦でA大学の野球部に入部することが決まっていたので断らないといけないのだが、それでも野球の実力が認められて各所から声がかかっているのは嬉しい。


しかし侑斗が言うにはどうやら野球部ではなく、進学の決まっているA大学の学内のサークルから勧誘が来ているということのようだった。


「遠藤先輩の頑張りが認められて入学前からA大学のサークルの人たちが連日是非遠藤先輩にうちのサークルに入って欲しいって言ってるんですよ」


「そりゃあまあ嬉しいよ。うん。いくつものサークルから誘いが来るってさ。でもさ、俺今何部か知ってるよね?」


「当たり前じゃないっすか。先輩は僕と同じ野球部じゃないですか」


「そうだよね。俺野球部だよね」


「2年間一緒にやってるんだからそんなこと忘れないでくださいよ」


「忘れてるんじゃないよ。確認だよ」


「そんな当たり前の事実確認する必要ないですよ」


「じゃあさ、俺に入って欲しいって言ってるのってなんのサークルだっけ?」


「まず一つ目が……」


「うん」


「秋田県利きふ菓子協会大分県人会ですよ」


「そうだよね。俺そもそも大学に野球推薦で入ってるのになんでふ菓子協会のスカウト来てんの?ふ菓子なんて小学校のとき学活の『昔のお菓子を食べよう』の授業で食べたくらいだよ?」


「きっとその時の活躍が目に止まったんですよ」


「杉本くんさ、聞いたことある? 小学校のときの授業にスカウトがやってきてそのときに見つけためぼしい子を10年くらいしてスカウトしに行くって」


「僕は聞いたことないですね」


「そもそもふ菓子の味の評論もしたことないし俺は何をスカウトされたの?」


「きっと人一倍美味しそうに食べてたんですよ」


「まあそれは一旦いいよ。でもさ、秋田県の協会の大分県人会って言ってたけどさ、わざわざ支部を秋田県内で47都道府県に分割する必要あるの? 絶対一つにまとめた方が組織として効率いいと思うよ?」


「それは僕に言われても……」


「ちなみにここ何県かわかるよね?」


「遠藤先輩、さすがに僕がテストで赤点とりまくってても自分のいる都道府県くらいはわかりますよここは宮崎県ですよ」


「そうだよね? スカウトの人俺の出身県ちょっと間違ってるよね?」


「同じ日本なんですからそんなに大きな違いではないですよ。一つの国なんですから一つにまとまっていきましょうよ」


「秋田県内ですでに47の支部に分かれてるっぽいけどね! まあそれはいいんだけどさ、他のスカウトに来てくれてるチームどこだかわかるよね?」


「ガム早飲みコンテストの主催団体ですよ」


「ダメだよ、そんなコンテスト存在してたら。喉につまっちゃうよ」


「遠藤先輩はよくガム噛んでるからスカウトがきたんでしょうね」


「飲み込んだことないんだから意味ないでしょうよ」


「他にも雨水を口に貯める会、梱包用のプチプチを数えるサークル。あとは……」


「もういいよ! なんでマイナーにもほどがありそうなサークルばっかり勧誘しにくるんだよ!」


陽平は無理矢理話を切り上げるようにして「もう帰るからな」と部室を後にした。

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