第88話 ゲームとトーク

「ふたりには、いまからOpaxをやってもらう」


 詩楽が新人ふたりに告げる。


「ゲームは遊びじゃないから、心してやるように」


 ネトゲ廃人的な名言が飛び出した。


「ゲームは仕事なんですか?……厳しい世界なんですね」


 神崎さんの顔が引きつっていた。


「いえ、アイドルもバラエティ番組では、真剣にふざけてました。似たようなものって理解であってますか?」

「うん。見ている人を楽しませるという目的では近いかな」


 神崎さんは僕の担当なので、僕が答える。

 回りくどい言い方になってしまった。どう説明しようか悩んでいたら。


「だからといって、全員が珍プレイに走ればいいわけじゃない。プロゲーマーみたいにガチで良いプレイを見せる必要もある」


 詩楽が補足してくれた。


「あたし、2種類の意味でゲームは仕事だと言ったの」


 すっかりの先輩らしい雰囲気だった。


「仕事として人を楽しませることが目的。そのうえで、真剣にプレイをする。そうじゃないと、ファンが離れるから」

「わかりました。本気でやります」


 神崎さんは神妙な顔でうなずいている。

 厳しいアイドルの世界に関わったから身に染みているのかも。


 ところで、ふと思った。

 神崎さんは、なんでアイドルをやめてしまったのか?

 まだ15歳だし、引退するには早すぎる。真面目な子だし、練習次第でチャンスは開ける可能性もあったはず。


(いや、詮索はよくないよな)


「べつに、ゲームはゲームじゃん」


 話がまとまったと思ったら、もうひとりの後輩が反論した。


「ゲームなんだし、自分が楽しまなきゃ意味ない」

「結城さんの考え方も正解だよ。つまらないゲームを無理やりやっても、どっかで態度に出るから」

「さすが、柚たそ」


 結城さんは自画自賛する。


「ふたりともゲームは理屈じゃない。まずはプレイしてから言って」


 詩楽がコントローラを神崎さんに渡しながら言う。


「まずは、未来から」

「あ、あの、わたし、初めてのゲームなんですが」

「ん。あたしが教える。わからないなりにがんばってるアピールしてみ」

「なにをすればよろしいですか?」

「最初はキャラ選択……初心者ならブラックハウンドとかどう?」

「ブラックハウンド?」

「索敵が得意な後衛キャラ。操作もしやすいから、オススメ」

「やってみます」


 キャラ選択が終わり、簡単にチュートリアルを済ませる。

 いよいよ、本プレイへ。


「今回は3期生にフレンドを頼んだ。失敗してもいいから安心して」


 Opaxはチーム戦のバトルロイヤルFPS。他のプレイヤーとチームを組む。チーム分けはランダムのマッチング。

 知らない人とチームになるのを、神崎さんが怖がるかも知れない。詩楽の配慮がすばらしい。


「がんばります」


 アイドルらしい元気あふれる声だった。

 いざゲームが始まってみたら。


「えっ、弾が変なところに飛んじゃいます」


 マシンガンを天に向けて撃っていた。

 アドバイスをしたくなるが、僕も詩楽も黙っていた。

 配信だったら、自分でなんとかしないといけないから。


「ほわっ、痛っ!」


 キャラが転ぶと、自分が転倒したみたいに叫んで。


「あれ? 弾が出ないんですけど」


 弾切れを知らなくて、首をかしげ。


「弾丸を充填しました。これで勝つる」


 時間とともに操作を覚えていき、意気揚々と敵チームに突撃していくも。


「わたし、なんで後ろから撃たれてるんですか?」


 味方の射線上に出てしまい、同士撃ちされて。

 これでもかというほど、ボケ倒す。

 しばらくして、チームが負けてしまったが。


「す、すいません。なにもできませんでした」

「神崎さん、僕もゲームは得意じゃないし、最初は仕方ないよ」

「ん。悪くはなかった」

「えっ?」


 僕と詩楽の反応に対して、神崎さんは目を見開く。


「ん。珍プレイの連続がウケる」


 詩楽が単刀直入に言ったので。


「真面目にボケてるから応援したくなるかな」


 僕はお茶を濁した。


「わたし、ネタ枠なんですね」


 後輩が肩を落としたので、メンターとしては。


「少しずつ上達していけばいいから。それに、配信でするゲームは自分で選べばいいし」


 慰めるしかなかった。


「甘音ちゃん、あたしにも優しくして」


 嫉妬する詩楽もかわいい。

 詩楽の髪を撫でていたら。


「爆発」


 結城さんに睨まれた。


「じゃあ、今度は結城さんの番ね」

「だりぃ」

「柚、もう配信が始まってると思いなさい」

「ちぇっ」


 態度とは裏腹に、慣れた手つきでコントローラを操作している。

 キャラ選択も自分でやった。


「結城さん、このゲームはやってるの?」

「もち」


 素っ気なく答える結城さんは、やる気がまったく感じられない。

 なにはともあれ、ゲームが始まる。


「柚。3期生がチームを組んでるんだから、迷惑をかけないようにね」


 詩楽がクギを刺すも。


「柚たその邪魔しないでほしいんだけど」


 結城さんは反抗期の中学生みたいだった。

 ソファに寝っ転がり、ダルそうにプレイしている。


 ながらでスマホゲーする調子で、FPSをしようとするのは……。

 すぐにやられると思っていたのだが。


「ちっ、邪魔すんなし」


 敵に遭遇するや、ヘッドショットを決め、相手を戦闘不能に追い込み。


「『秘技・乱れ撃ち』とか、かっけぇかなって思ったけど、疲れた」


 適当に銃撃して、複数の敵を一気にやっつけ。


「3期生のパイセンたちはいいなあ、サボってて。柚たそも昼寝決めるぞ」


 味方のプレイに揶揄していたら、敵に背後から襲われるも。


「サボらせろっての」


 後ろの敵を簡単に片づける。

 気づけば――。


「はあ、優勝したけど、つまんなかった」


 結城さんはダルそうにため息を吐いていた。


「なっ、なっ、なっ」


 詩楽が口をパクパクさせている。


「あたしと同じレベルかも。あたしの苦労はなんなのよぉ」

「まあまあ、詩楽さん」

「でも、トークは失格。やる気なさすぎ。1周回ってウケるかもしれないけどさ」


 詩楽が頭を抱える。


「べつに、トークはどうでもいいし」


 言い切られてしまった。

 まあ、結城さんぐらいゲームが上手ければ、トークは下手でも通用するかもしれないけれど。


(許してしまっていいのかな?)


「結城さん、さっきも言ったけど、配信中も多少は演技をしないとだよ」


 優しく諭すも。


「演技なにそれ、おいしいの?」


 まったく伝わってなかった。

 僕まで頭が痛くなる。


 詩楽は唖然としている。

 僕の出番だ。


「じゃあ、今日の最後は演技論にしよっか」


 元俳優志望の意地を見せてやろう。

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