第522話 心のありよう

「はぁ...はぁ...」


 私が確かにケロナの首筋を狙って包丁を振り下ろしました。


 しかし、包丁の軌道は僅かにずれて彼女の体に傷をつける事はありませんでした。


「うっ...!」


 私は【次元龍】を殺す事に失敗した反動からか急に気分が悪くなりその場を後にしてトイレに駆け込みました。


 〜トイレ〜


「うぇぇぇぇぇ!!」


 私は思いっきり昨日食べた物を吐いていました。


 食べた物がなくなった後も胃酸を吐き出していたので相当気持ち悪かった事が伺えます。


「はぁ...はぁ...」


 嫌な汗が全身から溢れ出し、呼吸が乱れる。


(私は一体何を考えていたの...! いくら【次元龍】を殺すチャンスだからって友人ケロナを殺すんなんて事できるわけが...ない!)


 いくら【次元龍】の力が恐ろしいからと言ってケロナが悪い訳ではありません。


 私は今一度自分の心のありようについて深く考えましょう。


(大丈夫...、さっきよりかは落ち着いている....)


 大きく息を吸って吐く。


 その行為を繰り返して自分を落ちつかせると、自分がどんでもない過ちを犯す一歩手前まで行ったのだという事に気がつき深く反省しました。


(ケロナと【次元龍】は別の存在です、ケロナの体内に思念体として【次元龍】が入ったとするならば、必ず体内にいる思念体をこちら側に呼び戻す魔術も世界のどこかにあるはず...)


 そう考える事でいつもの調子を取り戻し、なんとか【次元龍】に対する殺意を消し去る事に成功するのでした。

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