第274話 【生贄】

「時間だ」


 そう言われて牢屋から出されたのは昼過ぎくらいでした。


 昼食も軽く摂らせてくれたので気力は充分です。


 一応両手にだけ手枷をつけられていましたが、足枷はつけられていません。


 彼女曰く「ここは私達の国で逃げ場なんてないから本当は手枷も必要ないんだけど...、【雷鳴蝶】の待つ洞窟に貴女を送るまでは着けさせて貰う」と言っていました。


 その言葉にピーンとくる私。


「洞窟...ねぇ...」


 間違いなくそこは高レベルのダンジョンでしょう。


 今までの経緯から行ってその確率が高いのは明白です。


 しかも今回はそこを私1人で攻略しないといけないと言うハンデが大きすぎる気がしましたが、やるしかないでしょう。


 しばらく歩くと古びたダンジョンに出て私の拘束が解かれました。


「そのまま歩いて自分の意思で進むのだ」


 そうプラルは怖い顔で私を前に進ませようとしています。


「はいはい分かった分かった、自分から行きますよっと」


 軽いノリでダンジョンの中に進む私でしたが...。


 すぐさまその余裕は無くなりました。


 なぜなら、私の目の前にはすぐに強敵が現れたからです。


「うう〜ん? 新しい生贄は若い女の子かぁ...、良いねぇ♡ できるだけ良い声で泣きながら果てて頂戴ね♡」


 金色の髪を地面ギリギリまで伸ばした髪の印象も凄まじいのだけど、やはり一番目につくのはあの虹色の羽だろう。


 背中かた生えている2つの巨大な羽は美しくもどこか恐ろしさを感じられる。


 私がダンジョンの中に入ると扉が閉められてしまい逃げ場を失う私。


 しかし...、このダンジョンはダンジョンというよりもまるで闘技場のリングのように整備されているようでした。


 洞窟だった部分はほんの一部で、自然の岩山を強引な力でくり抜きリングのようにしたのだと思われます。


(こんな事ができるのはおそらく目の前にいる【雷鳴蝶】くらいだろうね...)


 彼女がどんな能力を持っているかは知りませんが、今まで戦った【大帝の眷属】達に弱者はいなかったのが何よりの答えでしょう。


 私は一呼吸を置いて身構えると【雷鳴蝶】はクスクスと笑いながらこう言いました。


「構えてるって事は私と戦う気? そう言う無駄な抵抗は好きだからできるだけ長く楽しませてね?」


【雷鳴蝶】はそう呟くと羽を広げて空中に浮かび上がるのでした。

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