【3-3】




 もちろん今回は同じ名前だけど、正々堂々と私の本名として書くことができた。


 でも、あの時も結果的に同じ部屋にして良かった。


 誰の目も気にしなくてもいいと「お兄ちゃんといる幼なじみの女の子」という私たち本来のスタートラインの関係に戻らせてもらえたから。


 その合宿の間に、私たちが離れていたときにした足の怪我のことも全部話した。啓太さんはそれを黙って聞いてくれて、足だけでなく、全身マッサージをしてくれた。


 最初はこんな体を見せるなんて恥ずかしいと思っていたのに、ずっと疼いていた痛みを取ってくれるうちに、もっととねだってしまう自分に驚いた。


 あの日から、啓太さんは私の疲れが溜まっているのを見計らって、お風呂上がりに体を解してくれる。


 そんな思い出のつまったこの旅館。初めて連れてこられた時のことはまだはっきり覚えている。




 私が学校や部活の生徒ではなく、幼なじみの、それも思いが通じる歳になった年頃の女の子として抱きしめてもらえた。この場所に戻ってきたんだ。


「花菜はどうする? 先に温まってくるか?」


「うん、結花先生と約束したから」


 きっと、結花先生にはまだスッキリしていないところがあるだろう。


 お風呂の中でそれも話してしまおう。結花先生と私の間に隠し事は不要だから。


「そうか、俺は陽人さんと少し打ち合わせしてから風呂に行くから。鍵は渡しておくな? 声聞こえるから俺たちがどこにいるかは分かるだろ?」


「うん。こんな夜遅くだし、ここかお隣にしかいないもんね」


 確か前に来たときも、こんな時間帯に夜にお風呂に入りに行ったっけ。当時と変わらなければ大浴場は12時まで開いているはずだから。


「啓太さん……」


「うん?」


「陽人先生とお話するのもいいんだけど……、早めに戻ってきてくれると、嬉しいな……。私も早めに切り上げてくるつもりだから」


「もちろんだ。花菜も先に寝ちゃうんじゃないぞ?」


「はい」


 最後に啓太さんが頷いたのを確認して、私は扉を閉めた。

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