つまらない

エリー.ファー

つまらない

 飽きた。

 飽きてしまった。

 自分の中の自分に飽きてしまった。

 同じことばかりやっていることに飽きてしまった。

 暇になってしまう前に死ななければならない。

 嘘をつくな、と思うだろうか。

 本当に自分に飽きてしまったのだ。

 状況は悪くなるばかりである。自分でもこんな場所にいて気が狂いそうになる。

 牛を殺した。

 豚を殺した。

 鶏を殺した。

 人を殺した。

 それからゆっくりと自分の命を確かめた。 

 そんなこともしたのだ。

 だというのに、飽きるのである。

 何を間違えてしまった、というのか。

 私の知る限り、私は非常に聡明な存在である。大抵のことはできるし、そのために多くを犠牲とすることも厭わない。特に何の感情の揺れもなく行える。非常に優秀である。モラル的なロックが存在しないということは、常に自分を最優先にできるということであり、無駄な行為を限りなく排除して、間違いのない決定的な道を歩めるということである。これほどまでに多くの人を出し抜けるだけの能力があるだろうか。これほどまでに高い数値をたたき出す、人間がいるだろうか。そして、かつていただろうか。

 早口になってしまうのは素晴らしく頭が良いためだ。

 重要なことではない。

 私が私であるということ以上に、私の価値を示すものが他にあるだろうか。

 こんなにも大切に作り出したものを、何故壊すのだ、などという下らない質問に答えることはしない。

 私がここにいる。

 私以外の者の価値がそこに存在するだろうか。

 あり得ない。

 私がここにいることですべてが完結するのだ。

 多くの人とは違う。生き方はまるで違う。

 人生など、言葉が貧しい。まず、人ではない。生きているというのも怪しい。

 私は神に等しいのである。

 多くの人の上に立ってこその存在なのである。

 口をはさみたがる能書きどもを殺せるだけの能力を持っているのである。

 あふれ出る心の力。

 誰にも渡すことができないのが歯がゆいが、それゆえに、多くの人から羨望の眼差しを感じることができる。

 拍手だ。

 拍手喝采だ。

 耳を壊してしまうほどの、大きな歓声が聞こえてくる。

 このステージの上に立たせてもらえているということに感謝しながら、私がここに立つことで、このステージがようやく完成するということを理解している。

 これを見ている、あなたにも、そう、そこのあなたにも理解して欲しいのだ。

 ありふれた人間だけでは到底、たどり着けないこの頂点。極み。極上。極致。

 私は知ってしまったのだ。

 私が尊いことを。

 私は知ってしまったのだ。

 私が完全なる存在であることを。

 状況が示しているのではない。神が示している。そして、その神が私自身なのである。

 嘘ではない。本当だ。

 何度も疑い、何度も考え、何度も悩んだ結果がこれなのだ。

 誰にも渡すことのできない、勝者の哲学。

 あぁ、嘘が遠く消えていく。

 耳鳴りだけが残る。

 ここから先の人生に異論のある者などいるわけがない。なぜなら、私が作り出した世界でしか生きていけない、有象無象しかいないのだから。白い脳みそを小さく捨て去って状況に合わせて生きていく者に権利などあるわけもない。

 生きている意味があるか。

 分かるか。

 分かるだろう。

 お前が、生まれた時には当たり前のようにできていたことのすべてだよ。

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