第3話 VTuberデビューしちゃいました
それから、数ヶ月が経過した。
相変わらず俺は惨めな不登校だ。
だけど、こんなこと言ったら不思議に思われるかもしれないが、俺は別に草加くんのことを恨んではいなかった。
学校には行けなくなったというのに、俺はむしろ、その様な環境に追い込んでくれたことに感謝していた。
なぜかって?
彼のおかげで俺は、ある真理に辿り着いたからだ。
いや、真理というのは少し盛った。
まあともかく、今回のことで気付いたことというのは、俺たち学生にとって学校だけが世界の全てではないということだ。
学校なんて行かなくても世界は回るし、実は大学にだって行ける。
それに学校に居場所がなくても、他に作ればなにも問題は無いのだ。
そう、今の俺には、学校では決して得られない居場所があるのだ。
「陰キャ!! このタイミングで攻めてくるのは陰キャ、陰キャ、うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
敵に囲まれ、無残にも蜂の巣にされてしまう。
もちろん、ガンシューティングゲーム内の話だ。
俺は今、AREXという三人一チームでバトルロワイヤルを行うFPSをプレイしている。
敵パーティと遭遇して何とかこれを撃破したものの、直後に別パーティが弱った俺たちを襲撃。
呆気なく俺たちはゲームオーバーとなった。いわゆる「漁夫」というやつだ
人並み以上のゲームスキルはあると自負していたが、それでも今の死に際はなかなか情けないものだった。
【コメント】
:陰キャw
:お前が陰キャ言うなwww
:無駄にいい叫び声で草
:どうしてそこで武器持ちかえるんだ???
:これそういうゲームだからw
:戦犯で草
:もっとイケボで悲鳴上げてくれ \500
:これは三下小者陰キャマフィアww
その情けなさが好評だったのか、画面の中のコメント欄はリスナーのコメントでにぎわっていた。
一部指示コメも湧いているが、まあそれは放っておこう。
「うっせ、俺は陰キャじゃねぇ!!」
もちろん、言われっぱなしでは終わらない。
俺は必死に反論してコメントとバトルする。
【コメント】
:嘘乙
:それは無理がある
:友達何人いますか?
:友達料です \500
「ゼロだよ!! 分かってて聞くな!! それと友達料ありがとうな!!」
しかし、誰も聞く耳を持たず、俺はリスナー達にいじられていく。
だが、この殴り殴られる関係が、俺には心地好かった。
これも一つの気付きだが、普段は陰鬱な喋り方の俺も、ちゃんと声を張ってはきはきと喋れば、それなりのイケボに聞こえるらしい。
そのことに気付いた俺は、iTubeと呼ばれる動画配信サイトで、アルフォンソというVTuberとしてデビューすることにした。
バーチャルシチリアの裏社会を牛耳るマフィアのボスという設定だ。
見た目こそクールで強キャラ感溢れるマフィアのボス(イケメン)だが、その中身はヘタレで小者な三下キャラ。
リスナーはそんなアルフォンソをいじり倒し、俺も発狂芸を披露しながらリスナーと殴り合うというのが配信の雰囲気だ。
特定の企業に所属しない個人ではあるが、そんなスタイルが受けたのか、それなりの人気を得て、チャンネル登録者数もたった今、四万人を超えた。
----------------------------------------------------------------
ゆず猫
¥50,000
四万人突破記念と今月の陰キャ手当です。全財産です☆
----------------------------------------------------------------
「グラッチェ、スーパチャット……って、陰キャ手当 is なんだよ!! ゆず猫さん、いつもありがとう!!」
【コメント】
:陰キャ手当www \3,000
:俺にもください
:みんなのスパチャは社会保障費だった……? \6,000
:みかじめ料です \1,440
こうしてスパチャと呼ばれる、投げ銭をしてくれるリスナーも増えてきて、個人としては順風満帆といった様子だ。
でも、お金は大事だからもっと計画的に投げて欲しいとも思う。
特にゆず猫さんは時々心配になる。
初期からアルフォンソの配信を見てくれる最古参のリスナーだけど、基本的に投げるのは最高額を示す赤スパで、頻度も高いから生活が成り立ってるのかこっちが不安になってしまう。
「みんないつもスパチャありがとう。でも、スパチャは計画的にね。俺にとってはみんな大事なリスナーだから、自分のことも大事にして欲しいんだ」
:は?泣いた? \4,000
:無理のない課金なので実質無課金だが? \12,000
:これが高度な集金ムーブか。やるな…… \30,000
:スパチャ贈りたいのに上限額になってて贈れないんですけど
「い、いや、違えよ!! 集金ムーブじゃねえから、ほんと!!」
それから、しばらく大小様々な投げ銭が入り乱れた。
スパチャは少し、いやかなり嬉しいけど、俺は本当にみんなのことを心配して言っただけなのに……
「みんな本当にありがとうな。まだデビューしたてだけど、これからもよろしく!!」
さて、そろそろいい時間だ。
今日の配信はここまでにしようか。
:もう一戦、いや百戦やる?
そんなふうに考えてたら、狂ったようなコメントが投げられた。
「いや、やらねえよ!! というわけで、今日の配信はここまでだ。最近寒くなってきたからみんなも温かくして寝ろよ。おつアリーヴェデルチ」
【コメント】
:おつ~
:おつアリー
:アリーヴェデルチ!!
こうして俺は配信を終了する。
時間も既に深夜二時になっていた。
二十一時開始だから五時間は配信し通しだったようだ。
「さて、風呂入ったら勉強でもしようか」
とっくに学生の寝る時間は過ぎてるけど、俺には関係ない。
なにせ俺はもう学校に行かないと決めてる。
俺を縛るものは何も無いのだから。
ただ、勉強だけは今でも続けていた。
学校には行けなくなったけど、大学には絶対に行きたい。
高卒認定をとって大学受験をするつもりだ。
「あ、そうだ。明日はアクキーの発売日だっけ。ちょっと見てみようかな」
個人勢のアルフォンソだが、嬉しいことに某企業からグッズ化の誘いを受けていた。
人気のある個人勢八人を集めたアクリルキーホルダー企画、それに名を連ねることが出来たのだ。
「ささやかだけど初めてのグッズ化かあ……」
視聴者数一桁、登録者数十数人の頃を思うと、とても感慨深い。
企業から見本の品をもらってはいるけど、折角だし店頭で買ってみるのもいいかもしれない。
「あわよくば、アルのアクキーを手に取るファンの姿も見られるかも」
アルというのはアルフォンソの愛称だ。
俺はアルのファンのことを夢想しながら夜を明かしていく。
いわゆる不登校だけど、今の生活はそれなりに充実していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます