第139話 加賀征伐 1
──前田利長に反心あり。
その報せを金沢で聞いた利長は、己の軽率さを恥じた。
「父上が3年は国元に戻るなと言っていたのは、このためだったのか……」
家康の口車に乗せられ、まんまと帰国してしまった自分が恨めしい。
かくなる上は、家康と一戦交えるのみである。
利長は急ぎ家臣を集めると、徴兵と城の改築を進めた。
また、この事態に対し、味方を募ることにした。
やがて、上方で工作をしていた家臣から連絡が来た。
「石田三成ら奉行は徳川につくとのこと。宇喜多様、細川様、蒲生様は秀頼様にかけあい、援軍を募ると同時に和睦の仲介を進めているとのことにございます」
「おお、そうか! ……して、他の大名はどうじゃ」
「それが……主立った大名はみな静観か……徳川につくとのことにございます」
「なんということじゃ……」
大名同士の婚姻を勝手に進めていた家康を糾弾する際は、あれだけ多くの大名が前田に味方していたというのに、利家が亡くなったとたんにこれか。
あらためて利家の大きさに驚かされると同時に、自分で自分が情けなくなってくる。
「……父上が生きておられたら、こうはならなかっただろうにな……」
利長が自嘲する。
ふと、前田の盟友でまだ名前の挙がっていない者に気がついた。
「……そうじゃ、木村じゃ。木村殿はどうした?」
「それが、加賀征伐が決まったとたん、大坂から姿を消してしまったと……」
「そうか……」
今は和解したとはいえ、元々、木村吉清には反感を持っていたのだ。
木村吉清も、内心どこかで自分のことを疎んでいたのかもしれない。
吉清と仲良くしていると思っていたのは、自分だけだったのか……。
弱気が顔を出し、胸の奥がずきりと痛む。
「も、申し上げます。北庄の木村領に続々と軍が集結しております」
「……そうか」
まさかとは思ったが、加賀征伐の先鋒は木村家なのか。
木村家とのわだかまりは無くなったと思っていたが、陰では恨まれていたのかもしれない……。
「……我らも腹を括らねばな」
「そ、それが……木村家より、木村清久殿がいらしてます」
「なに!?」
金沢までやってきた木村清久を通すと、利長が強張った顔で迎えた。
「…………いかがされた」
「微力ながら、北庄に置いていた軍を率い、援軍に参じました」
「……敵、ではないのか?」
「は!? なぜそのような話になっているのですか!?」
利長は家臣からもたらされた話に木村家の情報がなかったことを挙げた。
清久はははあ、といった様子で頷いた。
「父上からの命令で、木村の動きはなるべく気取られないようにせよと仰せつかっておりましたゆえ」
「そういうことじゃったか……」
安心したと同時に、どっと汗が吹き出る。
情報が入ってこなかっただけで木村家が動いてくれているというのなら、まだ望みはある。
「とにかく、清久殿の援軍、まことに心強い」
「前田殿は当家の大切な盟友なれば、力を尽くすのは当然のこと……。断じてこの地に徳川の者を入れさせますまい」
心強い言葉に、利長がうんうんと頷いた。
「……して、肝心の木村殿はいかがされたのじゃ?」
「父上はやることがあると言い、どこかへ行ってしまったのです。こんな大事な時に、いったいどこへ行ってしまったのか……」
息子にさえ明かせない用事に不可解なものを感じつつ、ともあれ、木村が前田側についてくれたのは心強い。
利長は密かに胸を撫でおろすのだった。
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