第114話 裏バイト
遠征軍の総大将、宇喜多秀家の指揮の元、一番隊、二番隊、三番隊が続々と渡海していく。
とはいえ、用意したすべての軍を大陸に送ることはできない。
吉清の用意した船は有限であり、兵糧輸送と戦利品の輸送を同時に行わなくてはならず、港は着岸を待つ船でごった返していた。
そのため、すべての軍が渡航できるわけではなく、後詰めと称して高山国に多くの軍を残していた。
吉清の配下として配属された津軽為信は内心辟易していた。
吉清からの話によれば、今回は征服というより略奪に重きが置かれている軍であるため、先の文禄の役での負債を抱える大名を中心に出兵させるとのことだ。
領土獲得の望みは薄く、略奪も負債を抱えた西国の大名に優先的に行われるのだという。
さらに、高山国まで軍を送るのにかかった費用は自腹であり、農兵を動員しているため領地の収穫は低下してしまう。
これでは、軍を動員した分赤字ではないか。
不機嫌さを滲ませながら兵たちを見回していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「津軽殿」
「おお、これはこれは木村殿。いかがされましたかな」
「実は、おりいって津軽殿に頼みたいことがありましてな」
吉清の頼みとは、手の空いた軍を利用して、高山国の開拓を進めてほしいとのことだ。
また、通常この遠征は大名の自腹で行われるが、手伝ってくれるのであれば、それに見合った給金も支給するとのことだ。
赤字の遠征が黒字に変わる、まさに渡りに船な提案であった。
吉清の話に、津軽為信は快く頷くのだった。
同じく開拓を手伝うこととなった松前、南部、秋田も合わせ簡単な軍議が行われた。
吉清の用意した地図を広げ、各々の担当区域を決めている最中、ふと南部信直が溢した。
「しかし、木村殿も人使いの荒いことよ……。賊の掃討や街道の整備くらい、自分でやればよいものを……」
不満を述べる南部信直に、津軽為信が鼻で笑った。
「ふん……そんなことだから儂に足元をすくわれるのだ」
「なんだと!」
「木村殿は名より実を取る方よ。なればこそ、我らに侮られることを承知の上で実を取り、此度の遠征で負担のかかる我らに利益を配ったのよ」
為信の演説に、松前慶広が頷いた。
「名はあれど力を持たぬ者が役に立たぬことは、歴史が証明しておりますからな」
松前慶広が秋田実季を見ながら言う。
秋田家はかつて松前家の主家にあたる家柄だが、蝦夷における影響力が低下したことで、松前家の事実上の独立を許した経緯がある。
そのため、慶広の言葉は秋田実季にとって挑発に他ならなかった。
「貴様……儂のことを言っておるのか!」
「はて……それがしは足利将軍家のことを申しておるのだがな」
秋田実季が松前慶広を睨みつけた。
こんな状況では協力して事に当たれるはずもなく、なるべく顔を合わせないように分担する箇所を決めると、開発を行なうのだった。
そうして、西国の大名たちが明の略奪に勤しむ間、津軽、松前、南部、秋田は原住民である首狩り族の掃討と東西を横断する街道の敷設に勤しんだ。
また、それらが終わった後は、開発した土地の3年分の年貢を引き渡すという条件付きで、山岳部や東部の開墾をさせることにした。
開墾しても自分の領地とならないため旨味は少ないが、少なくともただ遠征軍を遊ばせておくより、この方がよほど実になるというものだ。
こうして彼らの開墾した土地は、それぞれ津軽郡、松前郡、南部郡、秋田郡として、その地に名を残すこととなるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます