第110話 遠征会議 2

 清久が朝鮮遠征軍に加わることが決まると、吉清は清久軍を招集した。


「南蛮遠征は終わりじゃ。すぐに高山国へ戻れ」


 細かな編成を決めるべく、大坂城の一角に総大将の宇喜多秀家や、兵站や水軍を担う亀井茲矩ほか、高山国から明へ遠征する軍団長たちが集まった。


 集まった諸将を見渡し、宇喜多秀家が声を張り上げた。


「聞いての通り、此度の遠征は太閤殿下の悲願である、明を征服するための戦じゃ。それゆえ、後々太閤殿下の領地となる明や朝鮮では略奪は禁止されておる。各々、重々心得てくれ」


 宇喜多秀家の話に、吉清が首を傾げた。


 聞いていた話とは違う。


 先の戦での赤字を補填するため、高山国から明本土へ略奪ツアーに行くという話ではなかったのか。


 いぶかしむ吉清に、宇喜多家の家老である戸川達安が密かに耳打ちした。


「……殿は清廉潔白なお方ゆえ、此度の謀議はご存知ないのです」


「では、まさかお主らが勝手に進めたということか……!?」


「……恥ずかしながら、殿はこれまで太閤殿下の元で苦労せずに育ってきましたからなぁ……。

 先の遠征で当家の財政が火の車となっていることも、殿の放蕩三昧で領民に重い年貢を課していることもご存知のはずなのですが、その、いささか楽観的というか……」


 話によれば、今回の計画は財政が傾いたことを危惧した宇喜多家家老たちと、それに同調した大名たちによって計画されたものだということがわかった。


(どうりで石田殿が渋い顔をしていたわけだ……)


 宇喜多秀家の言うとおり、三成も秀吉の領地となる明での略奪には反対なのかもしれない。


 だが、現状三成は反徳川として宇喜多家と親しくしており、その反徳川の防波堤たる宇喜多の弱体化を望んでいないということなのだろうか。


「二番隊には前田利長殿をつけよう」


「では、三番隊には細川忠興殿を……」


 そうして軍の編成を進めていく中で、文禄の役で名を挙げた者の名前がないことに気がついた。


「……加藤清正殿や福島正則殿は、こちらではないのですか?」


 彼らの名前を出すと、宇喜多秀家が顔を曇らせた。


「奴らもこちらへ入れるつもりだったのだが、朝鮮は奴らが血と汗を流して得た土地だからな……。やはり、この手に収めるまでは引き下がれぬのだろう」


 加藤清正らと同じように、文禄の役と同じように朝鮮で戦うことを望む大名は多いという。


 やはり、自分たちが苦労して戦い、占領した土地は、そう簡単に離れられないということか……。


 そこら辺を割り切れないのも仕方ないと思いつつ、吉清は軍の編成を進めた。






 吉清は蒲生屋敷に参上すると、蒲生秀行が高山国遠征組に加わったことを知らせた。


 秀行は蒲生家を継いでからまだ日も浅く、蒲生郷安の専横を許すなど、家臣団の統率に苦労していた。


 そのため、今回の遠征で秀行が蒲生家を纏められているのだとアピールする狙いがあったのだ。


「秀行殿には後詰めのために高山国に残ってもらうやもしれぬ」


「そうですか……。武功を稼ぐ機会を失うのは残念ですが、義父上がそう仰るのならば仕方ありませんね……」


 他にも、後詰めの軍として、津軽為信を始めとする奥州の与力大名たちがつけられた。


 本来であれば名護屋城に留まり後詰めの役にあたるはずだったところを、吉清の要望で高山国遠征組に引き入れたのだ。


(奴らには、後で別の仕事をしてもらうとしよう)


 吉清は密かにほくそ笑むのだった。

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