嫌い

エリー.ファー

嫌い

 夕焼けが遠い。

 思い出が遠い。

 君のことが嫌いだ。

 そうやって、過ぎ去った時間である。

 何もかも、自分の中に残らなかった日々である。

 一年という期間は短かった。

 愛があったのだ。君のことを想っていたのだ。

 忘れてしまえばなんということのない、ただのバグである。しかし、忘れることができなければそれは記憶である。

 記憶にはきっと良いものと悪いものがある。

 悪い記憶には、悪い思い出しか詰まっていない。

 良い記憶には、良い思い出と悪い思い出が詰まっている。

 それを教えてくれた相手のことを忘れずにいる。

 今、僕は妻の出産に立ち会っている。君は、もう何もかも忘れてしまっているかもしれないし、憶えているかもしれない。君と僕の共通の友達だった彼女と結婚した。

 君は、彼女の悪口を言ったかもしれない。でも、僕にとって彼女はとても特別だった。

 君は僕のことが好きだったはずだ。

 まぁ、僕の見立てでは、というところでしかないが。

 でも、僕も君のことが好きだった。これは本当だ。

 同じ期間に同じ思いを二人以上の人に持つことはなかったけれど。

 でも、君にとっては嫌な話であったと思う。

 僕は、君に別れを告げた。

 君は泣いていた。

 僕も泣きそうだった。

 僕はいつだって自分勝手で、君のことをいいように振り回していたと思う。

 でも、そんな時だって笑顔だった君のことを僕は忘れたりしない。

 僕から君を取り除いてしまったら、何も残らないような時間だって確かにあったし、それは君だって知っていることだ。

 君はそれから、すぐに病気になったね。

 治らない病気だったらしいね。

 僕はもうその時には、君と関係を持っていなかったから、詳しくは知らなかったけれど。

 これからのことを考えれば、僕は一生に一度の時間をそこで使ってしまったのだと思う。

 僕と君は恋人の関係ではないけれど。

 僕にとって一番大切な人は君だ。

 分からないと思う。

 何を言っているんだ、と思うかもしれない。

 でも、本当だ。

 だから、できれば僕はこれからも君と会いたいし。

 君とキスをしたい。

 君と愛し合いたい。

 本当だ。

 嘘じゃない。

 子どもも生まれて、父親になるけれど。

 自分の気持ちに嘘はつけない。僕は自分の子どもに嘘をつく方法を教えたくないし、嘘をついて生きていく自分の姿を絶対に見せたくはない。

 それは、教育上、良くないことだと思う。

 もし、君が子どもを欲しいというなら、僕はこの体を捧げるよ。

 もちろん、僕が君の子どもを抱きかかえることはできないし、支えてあげることもできない。でも、君の近くには必ず僕という分身がいるということになる。

 幸せだろう。

 幸福だろう。

 それって、君にとっては天国だろう。

 だって君はまだ、僕のことが好きだろう。

 僕は分かっている。君がたとえ、僕のことを嫌いだと口にしても、まだ僕のことが好きであることを。

 僕は、君のことが大切だから。

 君の気持が分かるよ。

 これって通じ合っているってことだろう。

 君の体は病のせいで、凄く醜くなってしまったけど、僕はそういう体でも愛することができるくらいに、ちゃんとした心を持っているから心配しなくていい。

 僕は、他の人には見せないような表情を、君だけには見せてきたつもりだよ。

 君のおかげで、僕は今日まで生きてきたんだ。

 君のおかげで、僕は今日まで幸せなんだ。

 君のおかでげ、僕は今日まで頑張れたんだ。

 だから、これからも僕を支えて欲しい。

 愛しているよ。

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