第50話 行き詰まるトイレ
調理時間と食事時間を2回繰り返した上に満腹となってしまった我ら3人は夜の探索を諦め、翌朝にみんなで行く流れとなった。9層のゴーレムは盾役が揃っていれば誘導することで背後の急所を狙うのは難しくない。みんなで行けば盾役も持ち回りで安全にレベルアップを狙える。
そして、9層まで行くのにも帰るのにもかなり時間がかかるのだ。どうせなら10層ボスを目指して、倒した上にショートカットで帰ってこようというドリームプランだ。
下層へ行くほど広くなっていく迷宮を思い浮かべながら現実はそんなに甘くはないと思いつつも、満腹感で動きたくなかったので適当にノリに合わせて就寝。
「がはっ!」
敵襲?!
みぞおちを強打され息が詰まる。目を開けると薄暗い中、寝袋に包まれて顔だけだしてぐっすりと熟睡しているマイさんが目に入る。近い。
視線を下げると膝と思われる部分が腹に突き刺さっていた。
身体を起こすと寝る前より雑魚寝のミノムシが増えている。うら若き乙女達がこれでいいのだろうか? ついでに狭いのは分かるがベッドに同衾するのはやめていただきたい。
ようやく戻ってきた呼吸には酒と香水の匂いが混ざっており、いつの間にやらマイさんとアイリさんが仕事帰りにそのままやってきたようだ。家の鍵って誰が持っているんだっけ……。
「先生どうしたっすか?」
「ああ、おはようございます。マイさんに膝蹴りをくらったみたいで」
「おはよっす。はは、災難でしたね」
むくりと起き上がった寝袋はノアさんのようだ。おはようと言いながらも問題ないことを確認して安心したのかまたぱたりと横になってしまった。まだ薄暗い早朝なので自分ももう一眠りしてもいいのだが、敵襲かと思って頭が妙に覚醒してしまった。
外に出るのも1人はボディガードとして付いていくと言われているので誰か起こすことになる。それもなんだか申し訳ないので迷宮街の市場にでも行ってこようと思う。異世界食材なら食費に日本円がかからないし市場ももうやっているはずだ。そしてトイレに行きたい。
コソコソと向こうの服装である装備を付けていると横になっているアユミさんと目が合った。
「先生、どちらへ?」
「ちょっと迷宮街の市場に買い出しに行ってきます」
「お一人で?」
「はい、ちょっと食材買うだけなので」
「だめです。私も行きます」
「異世界食材!見たいっす!」
結局、ノアさんも起きてきて3人で行くことになった。異世界も1人はだめらしい。
迷宮かどこかで立ちションで済まそうと思ってたのに世の中は中々上手くいかないものだ。
「すっぴんでもいいすか?」
「兜被るからいいの」
女性は準備に時間がかかるのはしょうがないのだが膀胱のタイムリミットも近付いている。
「ちょっとトイレ行ってきます」
思えばここはトイレなのだ。みんなトイレとして使っているマイハウスのレストルームなのだ。トイレに行くと堂々と宣言すればいい。
迷宮に飛び込み1番近い行き止まりに蜘蛛を蹴散らしながら直行する。
「……ふう」
この行き止まりはもうトイレ専用行き止まりに決定だ。命の危険があるので大きい方はちょっと無理だが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます