第31話 法人会員


 帰宅すると勝田さんからメッセージがきていた。


 昼間にメッセージとは珍しいなと思いつつ開いてみると「アユミが魔法使ってるんだけどなんで?」と俺もなんで?と思う質問だった。


 アユミさんにメッセージで確認してみると「先生の代わりに売上上げておきました。昨日は10,000円です。MP的に2人が限度でした。結構きついですね」と返ってきた。どうやら勝手にヒーリングマッサージ営業していたようだ。マッサージ要素が既に皆無だけど。


 これはどうしたもんか。弟子を自称するアユミさんが気を利かせてくれたのかもしれないが魔法が覚えられることもバレてしまう。いや、会員制でやろうとしているんだからいいのか?


「あと、冒険者会員希望も2名確保です」


 新しいメッセージがやってきたがなるほど。下手に説明するより実益を見せた方が早いか。しかし、報酬の取り決めも何もしていない状態で事態が進んでしまうと困ってしまう。どうするべきか。半分を報酬で渡すとかでいいのだろうか。


 報酬どうするかのやりとりをしたところ、アユミさんは弟子枠として迷宮に入る1時間1万円の料金を無料にすることを報酬にヒーリングマッサージの売上を上げることに落ち着いた。


 まんまと嵌められた感じもなくはない。が損をするわけでもないのでよしとした。そのうち回復士が増えて売上なくなりそうな気もするが。


 さて、問題は勝田さんだ。メッセージではなく直接話したほうがいいだろうとアポイントをとって会うことになった。






「それで魔法は誰でも使えるん?」


「今のところは多分としか言えないですね」


 結局、勝田さんには突拍子もない異世界の話からレベルアップや冒険者会員の話を説明した。回復士はレベル10で教会で神様に祈ればとりあえず解放される。魔道士は今のところはっきりとした解放条件は分かっていない。分かっていても殺傷能力が高すぎるので秘匿したほうがいいような気もするが。


「なるほどなぁ。で、アユミとマイが経験者か」


「マイさんはメンタル治療のために精神力向上スキルを取ってもらっていますね」


「もしかして、もう結構強い?」


「そうですね。レベルアップで身体能力が上がっている上に、盗賊の敏捷向上スキルとかも取っているのでその辺の人では太刀打ちできないと思います」


「法人契約で黒服回すか……。でも辞められ飛ばれてもなぁ……。ちなみに回復魔法使えるようになるのは何時間くらいかかる?」


 やっぱりそうきますよねー。レベル10までと迷宮街の教会までだと急いでパワーレベリングすればそれほどかからない。


「早くて3時間くらいですかね。昼間にあちらの教会に行かないとならないですけど」


「1人3万円か。そんな安くてヒーリングマッサージの商売大丈夫かいな」


「そうなんですよね。ちょっと値上げも検討しています」


「じゃ値上げ前に会員登録よろしく」


 厚めの封筒がどさりと置かれる。法人会員の入会金30万円だった。


「規約とかまだできてないんですけど大丈夫ですか?」


「最悪、金返してもらえば大丈夫やで」


「……わかりました。領収書作りますね」


 お札を数え、領収書を発行する。なんだか後手後手だ。こんなんでやっていけるのだろうか。


 手にした30万円は預り金と念仏を唱え、儲かったと勘違いしないようにと思いつつ、流されて進んでいく先行きに不安のようなものを感じていた。

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