第28話 ルックバック


 たくましい女性2人は何事もなかったかのように夜の戦場仕事に向かい、俺は1人銭湯に向かう。


 先ほどは完全に失態だった。


 恐怖に身が竦んでいた。


 無謀にもあっさりと戦端を開いた2人を咎めたものの、なし崩し的に戦っていなければ先制攻撃を受けていた。その場合、無傷では済まないし人質でも取られた日には全滅もしくは性奴隷エンドだっただろう。


 結果的に助かった。それだけだ。


 喧嘩は先手必勝。


 そうなのだろう。戦意をくじけば終わりだ。


 そういう意味で俺は完全に負けていた。



 あの時、奥底に忘れていた忌まわしい記憶がフラッシュバックしていた。



 小6の俺は浮かれていた。


 半年間、貯めた小遣いがようやくゲームを買える金額に達したのだ。周りに乗り遅れる事3ヶ月。もうとっくにクリアしている奴もいたがこの手でクリアしたかった。


 頭の中はそのRPGでいっぱいだった。もう脳内でプレイしていたといっていい。


 ゲーム屋までを最短距離を突っ走り、角のゲームセンターを曲がった時だ。何かにぶつかった。


「痛ってー。これ骨折れてない?」


 今考えると三文芝居の当たり屋だが、当時の自分は気が動転して何がなんだかわからないうちに路地裏に連れ込まれ、殴られ、蹴られ、金を奪われた。




 迷宮で盗賊に相対した時、あの時の絶望感、無力感、虚無感、恐怖が生々しく甦ってきたのだ。


 思い返せば俺が積み上げてきたものを奪うのはいつも他人だった。


 専門学校でできたたった1ヶ月間の彼女にも別れ際に有る事無い事言い触らされ誰も信用できなくなっていた。二股かけていたのはあちらだというのに。


 悪評のせいで就職にも困った。それでも何とか就けたマッサージ屋はブラックなのに潰れて給料未払いだ。何店舗も出したオーナーは先日まで豪遊していたのにだ。



 人が嫌いだ。感情を押し付けるのも押し付けられるのも嫌いだ。人を人だと思わない奴が嫌いだ。



 しかし、もう理不尽を捻じ伏せれるだけの力は得ていた。実感した。実感してしまった。


 あとは実戦で怯まないように慣れればいいだけだ。


「精神力向上って俺向きだったのでは……」


 気付くのが対人戦の思わぬ落とし穴にハマる前でよかった。1人だったら間違いなくハマっていただろう。あの2人には感謝だ。



 力を得ても理不尽な振る舞いをする醜い人間にはなりたくない。あんな連中は反面教師として有効活用していこう。


 風呂上がりのフルーツ牛乳を飲み干し、俺は決意する。


「次は負けない」


 あの2人にも負けてはいられないのだ。


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