第25話 グレーな税理士


 朝というには遅い時間に起きた。


 最近、少し働きすぎじゃないだろうか。


 無職なのに。


 今日は午後からアユミさんに紹介してもらった税理士と会うことになっていた。


 少し早めの昼飯をとり、銭湯でカラスの行水だ。


 待ち合わせの喫茶店で湯上がりのアイスココアを飲んでいると妙に光沢のあるスーツの男性がやってきた。


「税理士の佐久間です。お待たせしました」


「いえ、早めに来たものですから」


 受け取った厚めの名刺にはデカデカと佐久間の文字。ちらりと見えた腕時計は薄く、腕輪のようにピタリとしている。なんというか金持っている男オーラが凄い。


 こちらも差し出したヒーリングマッサージの名刺に訝しげな顔を一瞬見せたが、まぁさもありなん。


「起業されると聞いていましたがもうされているんですね」


「前職の個人事業主をそのまま引き継ぎな感じですね。自分で所得税払えというマッサージ屋でしたので」


「独立してマッサージ店をされる感じですか?」


「そうですね。無店舗ですけど。それと……」


 何と説明したらいいだろうか。


「会員制のサービスもしたいなと……」


「会員制のサービス」


 怪しい。言ってて凄く怪しい。


「入会金というか預り金10万円で、後は1時間1万円で」


「1時間1万円」


「風俗ではないです」


 先に言ってしまった。自分で言ってて怪しさに耐えきれなかった。魔法とか異世界も説明したところで怪しげだが、説明しなければしないでただの胡散臭い話だ。


「まぁ、どう稼ぐかは経営者のやり方なので。税に関わる者としての助言するのであれば……独立してやっていくなら2つの道があると言う事ですね」


「2つの道ですか」


「はい。税金を払うか払わないか、です」


「払わないとかできるんですか?」


「全部とは言いませんが、個人向けのサービスなんかだとほとんどの零細企業は税金をまともに払ってないですね。やり方も節税から脱税までありますが。飲食店なんかも売上をなかったことにしたりとか日常茶飯事ですよ。売上の1部をポケットに入れちゃえばほとんど証拠も残らないですしね」


「そんな事して税務署来ないんですか?」


「行列できているとか儲かっているとかじゃない限りほぼ来ませんね。あちらも人員が限られているので。確定申告って受理早いと思いませんでしたか?」


「そう言われると形式のチェックだけで経費とかもあっさり認められましたね」


「あれは自己申告であって、受理されたからといって経費も認められたわけではないんです。税務監査が来て接待交際費や備品購入費がほとんど否認されたケースもありました。でも個人にわざわざ来るなんて売れてるキャバ嬢くらいですよ。大して取れないところにはわざわざ来ません」


「キャバ嬢に来るんですか」


「まともに確定申告して所得税払ってる人少ない上に売れっ子は稼ぎがありますからね。税金を払わないといけない事を知らない嬢の方が多いくらいです」


「はぁ……なるほど」


「それでどのくらい儲かりそうですか?」


「どのくらい……なんでしょうね」


「経費で収支トントンにして税金を払わないようにこぢんまりといくか、税金を払って大きくしていくかの2パターンになると思います。ようは利益を出すか出さないかですね」


「それでいうとこぢんまりですね」


「では最大限どれを経費に入れれるかと税務署がきても経費だと言い切れるように対策を取っていきましょう」


「お、お願いします!」


 清濁併せ呑んでもややグレーな佐久間さんだが頼りになりそうだった。今の自宅の家賃の経費の入れ方や、別の部屋を借りるときに法人化していれば社宅扱いにして自分は半分だけ会社に払うなど色々な話を聞けた。


「利益です。利益がどのくらい出るかの予測で節税対策が決まってきます。始めたばかりで難しいかもしれませんが利益予測をしていきましょう。次からは相談料もいただきますからね」


「わかりました!」




 テンション高くそう応えて考えながら帰宅したが、そんな簡単に利益予測なんて立つわけがなかった。売上もなにも全ては砂上の楼閣なのだ。


「安定収入が欲しい」


 切実にそう思った。


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