第20話 焼失で消失??
「オイオイ、あれがリーダーって、大丈夫かよ。」
メルシィさんと一緒に来た3人の男女の中で、唯一の男が何か言ってる。
だけど、今の私には関係ない……なんて言っても、クーちゃんを溺愛するのに忙しいんだからね。
「クーちゃん、ハイあーん。」
「あーん……美味しぃ。……うぅ……仕方がないとはいえ、恥ずかしぃよぉ……。」
くぅ~、クッキーをチマチマ食べる姿は癒されるぅ。
「メルシィさん……?」
「し、仕方が無いのよ。彼はBランクハンターのドズールさん。『夜更けの魔熊ナイトベア』のリーダーで、今回の依頼に関係してるから外せないのよ。」
「……はぁ、余計なこと喋らせないようにしてね……忠告はしましたからね。で、依頼って?」
何か言いたそうにしているドズールって人を隣にいた赤毛の女の人が止める。
「実はここから少し行ったところにあるシランの村の近くに、ゴブリンが多数目撃されていて、その調査をお願いしたいのよ。」
「それはいいけど、それと、そこのBランクハンターと何の関係があるの?」
「えーとね、その……言いにくい事なんだけど……。」
いつもハッキリと物事を言うメルシィさんが珍しく言い淀む。
「最近似たようなことがあったからな。ついでに言えばその件は追跡不能で未解決案件だって言えば分かるだろ?」
ここぞとばかりに、ドズールとかいう男が身を乗り出してくる。
「ふーん、つまり私達が手掛けたあの依頼が、実は未解決で虚偽の報告をした。そして元凶のゴブリン達が移動して活動を再開した……って言いたいわけ?」
「その通りだよ、獣人のお嬢ちゃんにしては中々頭が回るなぁ。要は、俺達はお目付け役ってわけだ。」
「あ、あの、ミュウさん、気を悪くしないでくださいね。私達は別に疑ってるわけじゃなくて、その……そういう目で見る人もいるって事で、嫌疑を晴らす為にはと……。」
険悪なムードになりかけたミュウとドズールの間に、メルシィさんが割って入る。
別にどう思われても関係ないし、どうでもいいんだけどなぁ……。
それより、今、私の腕の中にクーちゃんがいて甘えている、それだけで私は満足よ。
私はクーちゃんの頭を撫でる……あ、顔が緩むの止められないや……ま、いっか。
「フンっ、どうだかな。話ではゴブリンキングもいたそうじゃないか。それを小剣使いにシスターと……そこのニマニマしたのは何か知らないがどうせ初級職だろ?そんな奴らがゴブリンとはいえ50匹以上を相手にしたというだけでも眉唾物なのに、それに加えてキングを倒した?信じろって言う方が無理ってもんだ。大体、バニッシャーとか言わっ……。」
ドズールの頬をミュウが投げたナイフが掠め、いつの間にか背後回ったマリアちゃんのメイスが振り下ろされる……もっともそのメイスはドズールの頭に当たるギリギリのところで、赤毛の女の人の剣によって止められたが。
「わわわ……お姉ちゃん、飴欲しいなぁ。」
「ん?ハニードロップでいい?」
「うんうん、何でもいいから頂戴、アーン……。ほっ、何とか誤魔化せたみたい……今その話題はマズいよぉ。」
「ん?クーちゃんなんか言った?よく聞こえなくて。」
「ううん、何でもない、何でもない……これ、ハニードロップ?美味しぃね。」
ドズールが発した言葉で気になった事があったけど、それが何かと思う前に、クーちゃんがおねだりしてくるのでどうでも良くなる……クーちゃんの可愛さに比べればすべては些末事なのよ。
私は聞かれるままに、ハニードロップについて説明を始める。
ハニードロップはミツバチ型の魔獣が集める蜂蜜の中でも、女王蜂に献上される『王の蜂蜜ハニークラウン』と呼ばれる、特別な蜂蜜をベースに作った飴なのよ。
『王の蜂蜜ハニークラウン』は特に栄養価が高く、濃縮されているので、普通は20倍ぐらい希釈して使うのね、この飴の大きさだと、ほんの一滴を混ぜただけですごく濃厚な味わいになるのよ。
それに『王の蜂蜜ハニークラウン』には魔力回復効果と、状態異常回復効果が少しだけあって、さらに飴を作るとき水の代わりにポーションを使っているから、これをなめていると徐々に体力と魔力が回復するし、なめている間は状態異常にかかりにくくなる、れっきとした回復アイテムだったりするんだけどね。
以前その事をミュウに話したら呆れかえっていたから、クーちゃんには教えてなかったりする……クーちゃんにも呆れた目で見られたらいやだからね。
「言葉に気を付けなよ、ウチのリーダーは今その件で非常にナイーブで不安定になってるんだよ。怪我したくなかったら、二度とその口を開かないで。」
……っと、私がクーちゃんと和やかに話し込んでいる間に、何故か殺伐とした雰囲気になってるね。
ミュウがナイフを構えていつでも投げられる体勢で、ドズールがそれを正面から受け止めている。
赤毛さんはマリアちゃんを牽制しつつ、ミュウの動きにも気を配っていて、もう一人の女性は……何だろ?取りあえず、ただ見守ってるだけみたい。
「ハンッ!獣臭い獣人風情がどの口……っつ!」
ドズールの頬に一筋の傷ができ、そこから赤い血が滲む。
「……今、何て言ったの?」
今の言葉は聞き捨てならないわよ。
シュッ!!
ドズールの頬に更に一筋の赤い傷跡が出来る。
「わわっ……お姉ちゃん、押さえて、落ち着いて……。」
「クーちゃん、大丈夫よ。私は冷静よ。それより、そこの筋肉!私のミュウに何って言った!」
見えない風がドズールの脇をすり抜ける度、細かい切り傷が増えていく。
「ミカ姉、ダメだってばっ!」
「大丈夫、皮膚一枚しか切ってないからダメージは無いわ。」
あれ?呼び方が戻ちゃった。
必死になって止めようとするクーちゃんの頭を撫でながら少しばかりショックを覚える。
「そういう問題じゃないんだってばぁ。」
クーちゃんが困っているけど、全部あの筋肉が悪い!
「あー、こういう状況で悪いんだけどさ、アンタ、あのバカ連れて帰ってくれないかな?ウチのリーダー、キレかけてるから、もう一言でも何か口走ったら取り返しがつかなくなる。」
ミュウが、赤毛さんを牽制しながらそう声をかけている。
キレかけてるって失礼ね、私は冷静よ。
「ミュウ、私は冷静だからね、ただ、そこの失礼な筋肉が私の大事なミュウちゃんに何を言ったのか聞いてるだけなんだからね。」
「それはいいから、抑えて……ほら、クーにおやつをあげないと。」
「そうそう、ミカゲお姉ちゃん、私甘いの欲しいなぁ。」
「うーん、あげたいけどねぇ、さっき沢山あげたから、これ以上はクーちゃんの健康に良くないよ?」
「クッ……ミカゲのくせに、こう言う所だけ冷静なんだから。……そこの赤毛さん、早く連れ出して!」
「あ、あぁ……しかし……。」
「クッ、黙って下手に出てればいい気になりやがって!大体獣人風情に何を言ったかなんてどうでもいいだろうがっ!」
ドズールが剣を抜いてこっちを威嚇してくる。
「獣人風情って、また言ったね……獣人をバカにするんだぁ、そして剣も抜いちゃうんだぁ……って事はやられる覚悟があるって事だよね?」
「あっ、ばかっ……マリア、結界を……クーこっちへっ!」
ミュウがメルシィさんとクーちゃんを連れて部屋の隅へ移動する。
そしてその前にマリアちゃんが立って防護結界の呪文を唱え始める。
「ファイアーボール!」
私の出した火球がドズールに向かうが、ドズールさんはそれを剣の一振りで斬り裂く。
流石はB……Cだっけ?……まぁいいや、高ランクの冒険者なんだよね。
安心して魔法が使えるわ。
「ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!……。」
私は次々と火球を投げつけ、ドズールはそれを斬り裂いていく。
赤毛さんともう一人の女の人はどうしていいか分からず、メルシィさんの方を見るが、メルシィさんもどうしていいか分からず首を振るだけだった。
「あの、ミュウさん、何とかなりませんか?」
「ムリ!最初に忠告したはずだよ。折角、クーがミカゲを押さえていたのに台無しにして。」
「うん……恥ずかしかったけど頑張ったのに……。」
ミュウがクーちゃんの頭を良し良しと撫でる。
「まぁ、あの人たちもBランクって言うからには死にはしないでしょ……ミカゲも手加減してるし。」
「手加減……ですか?」
とてもそうは見えませんが?とメルシィさんが首をかしげる。
「あぁ、今のミカゲは初級魔法しか使えないからね。……初級魔法で死ぬようならギルドのランク選考の方法を見直した方がいいでしょ……まぁ、建物は諦めて貰った方がいいけど……。」
「テメェ、チマチマ、チマチマと、何を考えてやがる!」
何発目かのファイアーボールを切り裂いたドズールが吠える。
「別にぃ……なにもかんがえてないよぉ?……ファイアーボール!」
「こんなのでやれるって思ってるのかよ!」
「思ってないよ?それにクーちゃん達が見てる前で私が人殺しなんてするわけないじゃん。そんな事も分らないから筋肉って言われるんだよ、放火魔さん。」
「放火魔ぁ?放火してるのはお前だろうがっ!」
「えー、部屋のあっちこっちに火をバラまいて燃やしてるのは筋肉だよ?……そうだよね、メルシィさん?」
私はメルシィさんに同意を求める。
「えっ、えぇっ……。」
「私はただ、大事な人を侮辱したことを謝罪させるために、魔法……しかも大したダメージもない初級魔法を放っただけ……簡単に言えば威嚇しただけよ?それを謝罪もせず、威嚇の炎を消さずに部屋中にばら撒いているのはどう見てもそこの筋肉だよね?こんな弱い火の玉、斬らなくてもいくらでも止める方法はあるのにね。」
そう言って私は手の平にある火球を握りつぶす。
火の玉はあっという間に消え去る。
「ねっ?」
私が同意を求めると、メルシィさんは「言われてみればそうですよね……」と肯く。
「あぁん?だったら他の魔法使えばいいだろうが!」
「……複数の属性魔法を使える者は稀。そんなことも知らないから筋肉バカって言われる。彼女は初級とはいえ、風と火の2属性の魔法を使っているのはすごい事……だけど他の属性が使えるとは思えない。」
ドズールの言葉を、彼の仲間である白い髪をした女性が否定する。
……本当は他の属性も使えるんだけど、話が旨い方に転がっているから黙っておこっと。
「だったら風魔法を使えばいいだろうが!」
「どの魔法を使うのかは私の勝手。それに放火魔さんが火をばら撒いた所為で、今風魔法使ったら大変なことになっちゃうよ?それでもいいなら使ってあげるけど? あ、モチロン責任は全て筋肉でね。」
「やめてくださいっ!」
私が呪文を唱えかけるとメルシィさんが必死になって止めに入る。
「えー、でもそこの筋肉が風魔法を使えって言うしぃ。」
「ハンッ、使えるものなら使ってみやがれっ!」
「メルシィさん、責任は全てあの筋肉達磨だからね。……エア・ブロー!」
風の魔法により、あたり一面が風に煽られる。
「こんな魔法痛くも痒くもないぜっ!」
ガハハハと高笑いするドズール。
別に痛めつけるために放った魔法じゃ無いしね。
「おっ、わっ、な、何だっ……。」
体感的には、そよ風より少し強いだけの、突風とまでは言えないただの風だけど、部屋の各所の炎を激しくするには丁度よく、一気に燃えさかる。
ドズールの周りの炎も例外ではなく、ドズールを巻き込むようにして燃え上がる。
一度勢いがつくとすでに止めようがなく、瞬く間に燃え上がり建物が崩れ落ちていく……。
◇
「ギルド消失……また噂話に箔がつきますわね。」
何故か嬉しそうに言うマリアちゃん。
『ついでに言うなら、責任とらされて、メルシィの給料も消失ダナ。』
レフィーアの言葉に崩れ落ちるメルシィさん。
「なぁ、そろそろ勘弁してやってくれないか?」
ドズールの仲間の赤毛さんがそんなことを言ってくる。
今いいところなんだけどな………。
「まだ泣いて謝ってないよ。」
私はそう言って、追加のファイアーボールを放つ。
ドズールは身体中で燃えさかる炎を消そうと必死に転げ回っているのだが、私が追加の火の玉を投げているため、中々消えない……というか消しても新たな炎がくるためキリがないのだ。
「これ、タイミングが難しいのよね。」
消えた、とホッとした瞬間に燃え上がることによって、今までやったことが無駄だと思わせ、永久に終わりがこない、と心が折れるまで続ければさすがに反省するだろう。
「いい加減にしやがれっ!」
ドズールは火を消すことを諦めて、炎を纏ったまま、剣先をこちらに向ける。
あちゃー、本気で怒ってるねぇ。
でも、私だって怒ってるんだからね。
「本気でやる気なら手加減しないよ?」
私は杖を取り出して魔力をチャージし始める。
「ドズールいい加減にするのはアンタだよ。……嬢ちゃんも、もう気が済んだだろ?」
赤毛さんがドズールの剣を跳ね上げると同時に私を牽制する。
「まだミュウに謝っていないよ。」
「そうだね……獣人の嬢ちゃん、うちのリーダーが不快な思いをさせて申し訳なかった。許して欲しい。」
そう言って頭を下げる赤毛さん。
「えっと、あなたに謝ってもらうほどのことでも……。」
ミュウが恐縮そうにそういう。
「イヤ、リーダーのやったことはパーティ全体の責任だ。リーダーを止められなかった私達にも大きな責任がある。」
そういって再度深々と頭を下げる。
「もういいですよ。頭をあげて下さい。リーダーを止められなかったのは、こちらも同じですから。」
「そういってもらえると助かる。今回の件は本当に申し訳なかった。依頼については一度お互いに頭をひやしてから改めて。」
赤毛さんは、そう言うとドズールさんの治療をしている白毛さんのところに向かい、なにやら話をした後去っていった。
「止める気もなかったですけどねぇ。」
マリアちゃんがミュウのそばに来てそう言う。
「まぁね、でもマジに暴走した時は誰かが止めないとね。」
「えー、私も成長してるんだよ、そう簡単に暴走しないよ?」
今回だって私は冷静だったしね。
「お姉ちゃん達は、暴走してる自覚がないから困るんですっ!」
クーちゃんがおこになってる。
その後クーちゃんを宥める方が、筋肉を相手にするより大変だったと言うことを記しておく。
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