12話「突発ダンジョン」
彷徨い続けて十数分が経った。
あの後
迷いの森の外周を歩いたときに比べれば相当短い時間だが、先が見えないこともあって既にしんどい。
せめて目標が何なのか知りたい。
ラトの町が見えるところを目指しているのはそうなんだが、ラトが言うにその場所はこの森の中にはないらしい。
そう考えるとやはり目標が見えない。
「なぁラト、歩いてる途中で気配を感じたりとかしなかったか?」
「いえ、しませんでしたね......すみません。」
「いやいいんだ。俺はそもそも気配を感じることもできないからな。」
「え......? 気配を感じ取るのって簡単ですよ?」
「そうなのか?」
「はい、私が使うのは隠密行動をする人達がするものとは違って簡単なものですが。」
「良かったら教えてくれないか?」
「わかりました。では。」
そう言ってから大きく息を吸い、謎に早口で言い出した。
「まず体内の魔力を全身に均等に巡らせて、それを少しずつ放出します。そうすることで魔力がコウモリの超音波と同じような役割を果たして、魔素が濃い場所や周囲の魔力を気配として感じることができるんです。」
「教える」ということに慣れていないのだろうか。
俺も友人に勉強を教える時は少し緊張する。
「なるほど、やってみよう。」
そう言って俺は体内の魔力に意識を向けた。
心臓の辺りに集まっている魔力を、徐々に体全体に広げていく。
そしてそれを体外に......
「あっでも、魔力の排出量コントロールが難しいので、まずは末端から出して徐々に広げていく感じの方がいいと思います」
全身から出した。
「そういうことは始める前に言ってくれ!?」
初っ端から全身を使って放出し始めたので、本当にコントロールがきかない。
体内からどんどん魔力が漏れていく感覚がする。
「ちなみに、勢いよく出しすぎるとどうなるんだ......?」
「......周囲の魔素が一気に濃くなって、魔物が出現します。」
ああもうわかったよ、戦えばいいんだろ!?
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あれから数時間が経った。
『超魔力』で常人の三倍の魔力量を持つ俺が魔力をダダ漏れにしたせいで、この一帯はダンジョンかというくらいに魔物だらけになった。
ここまででざっと数十体は倒したが、まだまだ魔物は湧いてくる。
こんなモノローグを挟んでいる間にもまた空気中に暗い煙が渦巻き、オオカミの形を成して襲い掛かってくる。
幸か不幸か、湧いてくるのはずっとオオカミ型の魔物だけだ。
飛び掛かってくるオオカミを躱して頭に刃を叩きつけ、別方向から突進してくるオオカミの顔面目掛けてまた剣を振る。
ラトも少し離れた場所で魔法を使って応戦してくれているが、そろそろ体力なり魔力なりが尽きてしまいそうだ。
そういう俺も大分体力を持っていかれているのだが。
「アルラスさん、辺りの、魔素が......だんだん、薄くなってきました!あと少しです!」
「わかった!すまんな、巻き込んじまって!」
「大丈夫です!アルラスさんこそ頑張ってください!」
「おう、こんな所で死ぬわけにはいかないからな!」
「縁起でもないこと言わないでください!」
さすがラト、綺麗なツッコミだ。
しかし、本当にこんな所で死ぬわけにはいかない。
チート詰め合わせパックをもらって転生したのに、魔力の操作ミスで魔物が大量発生して殺されましたなんて言えるわけがない。
とは言ってもそろそろ体力が限界だ。
全身が痛い。脚も腕も動かしづらい。
物質操作で壁を作れないかとも考えたが、もしそれで魔力が尽きてしまったら終わりだ。
『ストレージ』を利用したワープゲートで一旦退避......はしたところでオオカミが増えた状態で再戦することになる。
つまり、まだ戦い続けるしかない。
結局、ダンジョン化した一帯が元に戻るまで戦い続け、終わった頃には俺はボロボロになっていた。
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