9話「森での出会い」
―深夜、俺は物音に起こされた。
何者かが草をかき分ける音だ。
起き上がって辺りを見回してみるが、どの草むらも動いていない。
音をたてないようにそっと立ち上がり、ストレージから聖剣を取り出す。
......音が近づいてきた。
「......か」
......?
今、何か声みたいな音がしたような。
「......れか、......?」
......人だ!人の声がする!
誰なのかはわからないが、この異世界に来て初めての人だ!
何を言っているのか聞き取るために、耳を澄まして全神経を鼓膜に集中する。
「だれか、いませんか......?」
声の主は、少し幼げを感じる女性の声でそう繰り返していた。
......迷子だろうか。
まぁ、それ以外考えられないが。
ここは足を踏み入れた者の方向感覚を狂わせる迷いの森。
子供なら迷子になって当然だろう。
......仕方ない、助けてやるか。
「俺ならここにいるぞ~。」
何を言ったらいいのかわからなかったので、とりあえず「俺」がいることを伝えてみる。
「......!? ど、どこですか!?」
「こっちだ、こっち!」
できるだけ大きな声を出し、こちらからも声がする方に近づいていく。
そして草をかき分けて見えたのは......!
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「「......!」」
俺と少女は互いに驚いた表情で見つめ合う。
少女は人を見つけて驚き、
俺はその少女の美貌、そして......その茶色の頭の上に乗っているモノに目を奪われ、驚いていた。
その少女の頭には、三角形の耳がついていたのだ。
そう、その少女は......
「じ、獣人!?」
俺のその言葉に、少女はなぜか目を見開き、怯えた表情になる。
どうしたのだろうか。
......そうか。
俺が日本にいた時に読んでいたラノベの一部では、獣人が差別され、奴隷として扱われていた。
この異世界は獣人が差別されるタイプの異世界なのだろう。
それなら、まずは安心させた方がいいな。
「あ、あの......えっと......」
まずいまずい!急に真顔になって考え込んだから不安にさせてしまった!
えっと、こういう時はなんて言えばいいんだ.......
「君、猫の獣人なのか?」
「は、はい......」
「耳、触ってもいいかな?」
「えっ......」
何言ってんだ俺ええええええ!!!
会ったばかりの子に「耳、触ってもいいかな?」ってただの変態じゃないか!!!
まずいどうしよう。
さっきより距離が開いた気がする。
自分を殴りたいっ!
「......ふふっ」
俺が心の中で自分に腹パンを決めていると、突然少女が笑い出した。
「へ???」
「あなた、面白い人ですね。」
「出会ったばかりの人に『耳触らせて』なんて、すごく失礼ですよ?」
「はは、そうだろ?」
どうやら不安は取り払えたみたいだ。
過程はどうあれ、よかったよかった。
「ところで、どうしてこんな所で彷徨ってたんだ?近くに集落はないはずだが......」
「......え?町なら森を出たらすぐにありますよ?」
......は?
おいおい嘘だろ。
この森はそんなに大きな森ではなく、遠くから見れば両端が見えるほどのサイズだ。
そんな森の近くに町があるのに道一つ見当たらないなんてことがあっていいのだろうか。
案内してもらうにしてもこんな森の中じゃまっすぐ歩こうとしてもまっすぐには歩けない。
......いったん森を出て、そこから迂回するか。
「とりあえず、その町に行こうか。森から出て、迂回していこう。」
「えっ、この森から出られるんですか!?」
えっ。
これはどういうことだろう。
この子が入ったくらいだからてっきり脱出する魔道具か何かあるのかと思ったが。
「ああ、まあ。でもこの方法は多分というか絶対普通じゃないから秘密な?」
「は、はい......」
「それじゃ、『ゲート』」
一応念を押してからゲートという名のストレージを開く。
行き先はもちろん、スライムを潰した岩の場所だ。
「これは......?」
「スキルのちょっとした応用だよ。ここに入ってくれ。」
「は、はい......」
とりあえず俺が先に入り、手を伸ばしてゲートに入る手助けをする。
「わぁ......すごい......というかこんなスキル、 一般の人が使えるものじゃない気が......」
「すごいだろ?まぁ気にしないでくれ。じゃ、森はこっちだ。」
岩の下に張り付いたスライムの残骸で方向を確認し、森の方へと歩き始める。
森についてから目印として何本か木を切って並べ、また歩き出す。
そして、森を迂回しながら進んでいき、多分三時間ほどたったのだが......
「これ......初めに作った目印だよな......?」
俺たちの目の前には、きれいに並べられた倒木があった。
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