モードレッド編

モードレッド編第1話 巫女試験

「モードレッドさんモードレッドさん、どうしてあなたは巫女になったのですか?」


 あの日少女が与えた問いに、私は答えることができなかった。

 どれだけやり直したいと願っても、過去が変わることはないのだから。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 そこは和の島。

 その島には女王がいる。


「ヒミコ様、ただいまより、巫女聖モードレッド様による浄霊の儀式が行われますが、見に行かれないのですか」


「別に良い。私が行ったところで別に何か変わるわけでもあるまいし」


「分かりました。では失礼させていただきます」


 和の島の英雄、ヤマトはヒミコへ一礼し、振り返ってその場を後にする。座に腰かけるヒミコは手鏡を手にし、自らの顔を覗いた。


「相変わらず、私は怖い表情しかできぬようになってしまったな」


「ヒミコ、そろそろ休んだらどう?」


 ヒミコの体から光の粒子のように現れた精霊、トーカは背中の羽根を羽ばたかせ、ヒミコの肩に腰かけて心配そうに言った。


「休みたいが、名士四十一魔法師になったのだから、その使命を全うしないとな。だからその仕事を終えるまで、眠れんよ」


「そう。何かと大変だね」


 ヒミコは座から立ち上がり、名士四十一魔法師としての仕事をするために聖域へ赴く。

 その頃、浄霊の儀式の最中のモードレッド。彼女の舞いに、その儀式を見ている多くの者が見入っていた。

 太鼓や鈴の音が響き渡り、その中でモードレッドは踊る。


 その様子を見に来ていた英雄、ヤマトもモードレッドの舞いに感動していた。


「相変わらずモードレッドは美しいな」


 美しい彼女の舞いに、ヤマトですらも感動していた。

 ヤマトですらも感動したモードレッドの躍りを見ていたある者は、その踊りを見て呟く。


「モードレッド、それがお前の選んだ選択なんだな。よくもまあたった十年で、あの過去を乗り越えられたものだな」


 モードレッドの踊りを眺め、その者はそこを後にする。


 深夜零時、モードレッドが踊る中、青白い炎のようなものが粒となり、モードレッドの周囲を漂い始めた。


(眠れ、我が愛しき同胞たちよ)


 モードレッドの踊りとともに、青白い炎の粒は空へと散っていく。

 モードレッドは涙を流し、踊っている。その表情はさぞ悲しそうであり、空しそうであった。

 全ての炎が消失すると、儀式は終了し、モードレッドの踊りは終わった。


「皆、安らかに眠れ。真実の光とともに」


 モードレッドが見せた涙、それは彼女が抱える後悔からからであった。

 何故彼女が涙を見せたのかーー


 それは十年前の話。



 モードレッドは和の島で生まれ、和の島で育った。そして彼女は若くして巫女を志していた。

 モードレッドは最年少にして和の島の巫女となった。とはいってもまだ見習い。これから多くの経験を積み、立派な一人前の巫女になる。

 そんな彼女には、リュウメイという大親友がいた。彼女もモードレッドと同じ年齢で巫女見習いとなった。


「モードレッドさん、明日、いよいよ一人前の巫女としての試験があるから。頑張ろうね」


「うん。お互いに悔いがないように頑張ろ」


 後日、二人の他に八名の巫女見習いが和の島の側にあるとある孤島に連れてこられた。


「私は巫女、ユウキ=アシアスだ。これよりお前たちはこの島で一日隔離されることとなる。その間、誰からの助けもない。この島で一日生き残れたのなら、その時は私のような一人前の巫女となる」


 ユウキの説明を聞き、ある疑問を抱いたリュウメイは彼女へ問う。


「ユウキさん、生き残るっていうことは……死ぬ可能性があるのですか」


「否定はしない。確かにこの島には、霊が済んでいる。だが巫女である以上、霊は祓えなければいけない。この島で生き抜く覚悟が、お前らにはあるか」


 誰もが震え、脅えていた。

 誰もユウキに返事を返さなかった。そんな中で、少し遅れてリュウメイは震えながらも返事をする。


「あ、あります」


「そうか。では行くがいい。また明日の零時に君たちを迎えに行くから」


 そう言って、ユウキは船を漕いでその島から遠ざかる。

 島に取り残された十人の巫女見習い。彼女らが島に到着したのを知り、その島で隠れていたある少年は呟いた。


「生け贄が十人、実験するにはとても良い風習だな。和の島は」

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