魔法使いの空飛ぶ学園~サイドストーリー~

総督琉

サイドストーリー

アリシア編

アリシア編第1話 アリシアは旅立った

 紅碧島、ある日そこに右目には碧瞳を、左目には紅眼を持つ赤子が産まれました。彼女は産まれながらに異端児とされ、その島では前を向いて生きていくことはできなかった。

 それでも彼女の父と母は彼女を愛していた。


「アリシア。すまないな。こんな俺たちのもとに産んでしまって」


 愛されるが故、彼女は父と母から同情を受けた。

 故に、少女は思った。

 ーーどうしてお父さんとお母さんはそんなにも苦しんでいるの?


 そう言ったアリシアに、父と母は何も言い返すことはできなかった。

 ただ愛情を込めた腕でアリシアを抱き締めることしかできなかった。

「本当にごめん、本当にごめんな」と、そんな悲しみに包まれた愛情を受けて。


 その島には紅眼族と碧眼族が存在する。

 その二種族は先祖のせいもあり、代々争い続けていた。だから紅眼族と碧眼族の混血はその島では迫害されるべき対象であった。


 その島にいる間、アリシアは偽り続けた。

 自分が碧眼族であると、決して紅眼族の血は混じっていないと。紅眼族に対し、碧眼族の方が比較的温厚であったため、バレても罪は軽いとたかをくくっていたからだ。


 紅眼族の父は碧眼族の土地で暮らし、自らを碧眼族を偽り続けた。いつバレてもおかしくはなかった。けれど十年もの間バレることはなかった。

 だが、相変わらずアリシアは同情から生まれる愛情以外を受けたことはなかった。それ故、彼女は愛情を知らずに育ってしまった。


 わずか十歳で彼女は一人立ちし、島を出ていった。

 これ以上父と母に迷惑をかけないためにも。


「アリシア、本当に行くのか」


「今までありがとね。私を育ててくれて」


 そう彼女は笑ってみせた。

 その笑顔に父と母は覚悟を決めた様子であった。

 父は背中に隠し持っていた物を手に取り、アリシアへ渡した。それは赤と青が混じったような鮮やかな色合いをした頑丈な剣。


「これは?」


「やがては紅眼族と碧眼族が分かり合える。そんな思いが込められた剣だ。これをアリシアに託すよ」


「元気でね。アリシア」


 アリシアは父と母から笑顔を向けられた。

 その時、初めてアリシアは受けたのだ。同情のない、優しくて温かい親の愛情を。


「ありがとう。行ってくるね。父さん、母さん」


 そう言い、アリシアは紅碧島の外へ出た。

 魔法に関しては優秀であった彼女は、颯爽と海を走って島を目指した。最後の最後に愛情を向けられ、彼女は虚しくなったけれど、それでも彼女は島から離れることを決意した。

 もう、引き返すことはしなかった。


「楽しかったよ……」


 自信満々で彼女は島を飛び出した彼女は、一時間かけてようやく見知らぬ島についた。

 しかし彼女は外の世界で生きる術もなかった。路地裏でうずくまり、しばらく考え込んでいた。

 アリシアは腰には高貴な剣を下げていたため、盗賊に狙われていた。


「ねえお嬢ちゃん、その剣、俺たちにくれないか」


 十人ほどの悪そうな顔をした大人たちがアリシアへと近づいた。


「嫌だ」


 アリシアは強く言った。

 その言葉にため息を吐くと、男は腰に下げていた剣に手を置いた。


「まあ分かっていたよ。だから殺してあげる」


 盗賊の一人が剣を抜き、アリシアへと向ける。


「殺されたくなかったら剣をよこせ」


 脅され、アリシアは剣を抜いた。それを男へ渡す、と想われたその時ーー男の首が宙を舞い、そして地を転がった。

 瞬間、盗賊たちは動揺し、恐怖が走る。


「ねえ、私さ、お金ないんだよね。でもお兄ちゃんたちはお金を持っている人でしょ。それにいい人そうだし、私にくれるんだよね。お兄ちゃんが持っているお金全部」


 次の瞬間、血の惨劇が路地裏で繰り広げられた。

 その後、血まみれの少女は盗賊たちから金を奪っていた。

 そこへやって来たのは、名士四十一魔法師と呼ばれている正義の魔法使いの一人ーーエクス=プロージョンであった。

 彼は血に染まる惨劇を見るや、言葉も出ずに固まっていた。


「お兄さん、誰?」


 漆黒に染まった瞳をしているアリシアは、驚いて固まっているエクスを見ていた。


「君が……君が彼らを殺したのか?」


「そうだよ。だってこの人たちが私を殺そうとしたから、仕方なく殺してあげただけだよ」


 そこへまだ血まみれになりながらも生きていた盗賊の一人は剣を握り、アリシアへと襲いかかった。

 アリシアは気付くのが遅れ、避けられない。しかしその盗賊の腹は爆発を受け、地面に転がった。


「お兄さん、助けてくれたの?」


 エクスはそれに答えることなく、アリシアへ近づいて言った。


「君、父や母は?」


「今は一人だよ」


「そうか……。ならしばらく君は俺が預かる。それでも構わないか?」


「良いの?お兄さん」


「ああ。だが殺しはなしだ。まだ君にはその世界は早すぎる」


「でも殺されそうになったらどうすれば良いの?」


「だから俺のもとにいる間に教えてやる。殺さない戦い方を」


 そしてその日から、アリシアはエクスのもとで暮らすこととなった。

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