光を運ぶ少女

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は、自分の手に持っている火を見つめた。


 火は確かに燃えている。


 煌々と輝き、温もりをはらみながら、燃え続けている。


 私は故郷の為に、この火をまもらなければならない。


 この光の国から暗闇の国まで。


 風が吹いた。


 私は火が消えないように、手が焼ける事もかまわず包み込んだ。


 雨が降った。


 私は、自分の体が焼ける事もいとわずに、火を抱えてこんだ。


 でも、いつまでこんな事を続ければいいのだろう。





 川を渡る時は水にぬれないように手を高くして。


 山を登る時は、片手で落とさないように火を掴みながら。


 そうして、ずっと歩き続けてきた。

 だから。

 もう疲れてしまった。


 いい加減諦めて、休んでしまいたい。

 でも、きっとそれはできない。


 ここで立ち止まってしまったら。

 絶体に後で、後悔してしまうんだろうから。


 この世界にやってきた意味がない。


 託された願いがある。

 受け継いだ想いを、次へつなげなければならない。


 私は歩き続けた。





 故郷は深い闇に閉ざされている。


 ずっと昔に暗黒神の怒りに触れてしまったから、その怒りが解けるまで、光のない世界でいなければならなかった。


 他の神々は我関せず。


 一番強い暗黒真に逆らう事はできないから、私達を助けてくれない。


 最初はそれでも私達は何とか生きていた。


 けれど、人は闇の中でずっとは生きられない。


 人々は次第に心を病んでいった。


 だから私は、光を灯したいと思い、光の国を目指して故郷を出たのだ。


 きっと暗闇の世界は、今も光を待ち望んでいる。


 私は火を掲げて、歩き続けた。


 この手にしている日は、光の国に灯る太陽の火を分けてもらったもの。


 強くて長持ちするけれど、無限に続くものではない。


 早く暗闇の空へ解放してやらなければ、消えてしまうだろう。


 私は急いで歩き続けた。





 気が遠くなるくらい歩き続けた私は、ようやく故郷へたどり着いた。


 焼けてボロボロになった手のひらから火を解放する。


 すると、天高くに昇ったその光が、ぱっと輝いて暗闇の世界を照らす。


 それは、新たな太陽になった。


 私はその最後を見届けて倒れた。


 風雨や険しい旅路で、何度も火を守ってきた私の体は限界だった。


 だから、命が尽きてしまったのだろう。


 私はそこで、朽ち、大地の一部となった。


 けれど、そんな私を哀れに思った神々達が、私の命を蘇らせた。


 暗闇の神に逆らい、人々に手を差し伸べてくれたのだ。


 神達は、光を得た世界が良く見えるようにと、私を空の神に任命したのだった。


 それからの私はずっと、空の神として長い間、光の下で生きる人々達を見守り続けていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光を運ぶ少女 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ