0話その2 『民宿ヤマガミ、いらっしゃいませ!』
いらっしゃいませ!
……あ、先ほどそれは言いましたよね。す、すみません……あはは。
それでは、改めまして……私、この民宿の娘の山賀美 柚子が、ご案内いたしますね。
どうぞ御靴を脱いでおあがりくださいませ!
――
この民宿『ヤマガミ』は、この
創業30年くらいですかね?意外と歴史は浅いんですけれど、あくまで民宿をはじめた年数ですので、お家としてはかなり昔ながらの造りになっています。
始めたのは私のおじいちゃんとおばあちゃん。広いお家の利用方法を考えた結果…と聞いています。
近くの駅まで車で20分!バスは2時間一本!……正真正銘のド田舎です。
近隣の観光名所としましては……。
えーと……。んーと。あのー、えーと……。
ま、まあとにかく!宿の説明をしますね!
お客様が今居られるのが、私達が『本館』と呼んでいる場所です。
本館、なんて旅館みたいな名前で呼んでいますけれど、要するにこの民宿で一番古い……ではなくて、む、昔からの情緒を持っている施設でございまーす……。
山賀美家の御先祖様は昔から
え?御蚕ってなにかって?
……苦手な方もいると思うので、調べる事はオススメしませんよ。
私も……あはは、ちょっと、ニガテ、かな。
この本館の一階は食堂になっています。
見てください!なんとなんと!
結構コレを見て懐かしいと言われるご年配のお客様も多いんです。
勿論、実際に使えますよ。薪に火をつけて、暖房よりもジンワリと温まるので、冬なんかはとっても過ごしやすい食堂になるんです。私も……お客さんがお部屋に戻ったらたまに居眠りしてたり……。
囲炉裏の周りには御座敷。こちらもとても広々としています。
40人は一度に食事が出来ると思いますよ!……旅館で考えると大した事ないかもしれませんけれど、民宿なので……一応、自慢させてください!
それでは階段で二階に上がりましょう。
あの、ちょっと古くてかなりギシギシいいますけど……頑丈に出来ているので全然!まったく!大丈夫ですからね!
――
本館の二階には客室が3つあります。
3つだけ、と思われるかもしれませんが……部屋の大きさが違うんです!
一番小さな部屋は1、2人用。とはいえ、六畳ありますので狭すぎるという事はないと思いますよ。
真ん中の部屋は十畳!ご家族様でも広々お使い出来ると思います。
そして一番大きな部屋は十五畳!!運動部の合宿で泊まりに来られる学生さんなんかがよく使われます。十人寝ても大丈夫です!!
各部屋、冷暖房完備です!テレビも全部屋にあります!シーツも枕カバーも毎日クリーニング済!そして部屋は丁寧に朝、私が掃除しておきましたっ!
但し……あの、ドアがないんです。
出入り口は
貴重品がありましたらこちらで責任をもってお預かり致しますのでどうかご安心を!
他のお客様の声が気になるようでしたら私達までお声がけください。……一応耳栓も準備してありますので。
……その、鍵がないのは気になったりします?
……あ、やっぱり?
まあ、こちらはあくまでご案内だけですので……主に大人数のお客様にご利用いただいています。
今日はお客様も少なくて色々なお部屋をご案内できますので、気に入ったお部屋に泊まってみてくださいっ!
それでは、新館の方にご案内しますね~。
――
渡り廊下を行ってすぐに、ウチの民宿は新館があるんです。
こちらはさっきの家より新しく建てた完全民宿用の家です。……とはいえ……えーと、私が生まれた年くらいに建てた施設だから……あはは。まあ、新館、という名前はちょっとアレですね。
で、でもまあ私達は新館と呼んでいる建物です!
それではお入りください。
一階には大きなお部屋があります。こちらも十五畳あるのですが、なんと襖でそれぞれの部屋を仕切る事が出来ます。
大きな部屋として使う事もでき、襖で仕切れば小さな部屋が4つ出来るんです。画期的でしょ?
……防音の面は期待しないでください。こちらもほとんど大人数のお客様にご使用いただいております。
さて、今までのお部屋は鍵がなくてセキュリティーや防音の面で不安に思われる方が多かったですが……。
新館にはなんと!
鍵のついているお部屋が3つもあるのです!!
……。それが普通、って感じますよね。
でもあくまで民宿なので……ご容赦ください……。
廊下を挟んで一階に鍵付きの部屋が1つ。
二階は構造上一階より小さくなっているのですが、階段を上がって鍵付きの部屋が2つ御座います。どのお部屋も八畳ほどあり、広々お使いいただけますよ。
観光でこられる方にはほとんどこの鍵付きのお部屋をご案内致しておりますので、是非ご利用くださいね。
……これがこの民宿の全てのお部屋です。お気にいりましたお部屋はござましたか?
トイレは本館と新館に2つずつ、共同です。頑張って毎日ピカピカにしてますよ!
……あ!
大事な事を紹介し忘れていました!
ちょっとまた外に出ていただいてよろしいですか?
是非紹介したい場所があるんです。
――
じゃじゃーん!
なんとなんとウチの民宿には!!
大浴場があるんです!!
しかもこの民宿では一番新しい施設ですよ!
脱衣所完備、洗い場4つ!お風呂は広々、10人くらいは入れます。
なんでこんな施設があるのかって、ウチの民宿は結構学生さんの合宿のお客様が多いんです。特に春休みや夏休み、冬休みの長期休みのシーズンですかね。
私の通っていた中学校や小学校の対外試合を泊まり込みで来たりするんですって。
何故かというとグラウンドがとにかく広くって、近くには大型の村民体育館や村民グラウンドもあるんです。
……え?なんでそんなに広いものばっかりって?
……ド田舎、だからですかね?
……。話が逸れました!
この大きなお風呂、開けておきますのでご滞在中いつでも入って大丈夫です。女性のお客様もいらっしゃいますので、お入りになられる際は男性使用中の札をかけておいてください。
本館にはファミリーサイズの小さなお風呂もありますので、もし使用中でそちらでもよろしければ是非お使いくださいね。
残念ながら温泉ではなくて沸かし湯なんですけれど…。
……さてさて。
お部屋はお決まりになられましたか?
まだ時間は早いのでお部屋でお寛ぎください。夕食は18時くらいにはご用意しますけれど、ご希望がありましたら言ってくださいね。
夕食は誰が作るのか、って?
私です……と言いたいんですけれど私もまだまだ修行中でして……。
基本的には私のお母さんとお父さんが作ります。でも私も前菜くらいは料理するんですよっ!腕によりをかけて!
では、お時間になられましたら本館の一階までお越しくださいませ。
食べられないものがあったら教えてくださいね。
それでは、失礼します!
――
はーい!いらっしゃいませー!
それでは、今日の夕食になります!
こちら、まずは菜の花のお浸し!お醤油で食べてください。
コンニャク田楽のコンニャクはウチのお婆ちゃんの手作りですよ~。ちょっと硬いんですけど、そこがいいんです!えへへ、田楽味噌は私が作ってみたんです!……甘すぎたら、ごめんなさい。
キャベツのサラダは南桑村の農家さんが作った産直のものですよ!ウチに少ない野菜とかはこうやって近くの農家さんのものを出すようにしています。地物、ってヤツですね。
メインは肉じゃが!ジャガイモはウチで採れたヤツです!御爺ちゃんが丹精込めて作ってますよ。
ほくほくで美味いでしょ?ウチのお母さんの料理、この民宿の評判なんですっ!豚肉もこの県の名産ですからねっ。
ご飯も炊き立てのものをお
ネギと豆腐のお味噌汁、おかわりいかがですか?
あ、コレ食べてみてください!私が作ったんですけれど、こごみ、っていう山菜をゴマ味噌で和えてみたんです。苦味なく食べれると思うんですけれど…。
……どうですか?美味しいですか?
……よかった~。じゃあコレ、メニューに加えておこっと…。
べ、別にお客さんで実験したワケではないですからね!!ホントですよ!!
……お腹いっぱいになりました?
あはは、ウチの民宿、こんな風に料理はなるべく沢山、なるべく地物を使うようにしてるんです。
都会の方には食べ慣れない食材も多いかもしれませんけれど……美味しいと言っていただけるととても嬉しいです。
足りなかったら言ってください。お部屋の方に簡単なものでよければお持ちします。
……なにせ近くのコンビニまで徒歩で一時間あるので……。
お飲み物は別料金ですけれど瓶のジュースがあります。お酒も、近くの酒屋さんから仕入れているので飲めるご年齢でありましたら是非!
地物の冷酒は美味しいですよ~。山菜のおつまみにもぴったりです!
……繰り返しますけれど、私、女子高生ですからね。
……だから友達に青春捨ててる、ってよく言われるんですけど……ね。あはははは……。
――
おはようございます。
よくお眠りになられましたか?
え?静かすぎて怖かった?
あはは……他にお客さんがいない時だと、ホントにここ、山の中腹の村なので……。
もうちょっとすれば夜も賑やかになるんですけどね。
……カエルの鳴き声で。
朝ごはんもなるべく地物で揃えているんですよ。養鶏場も近くにあるので、生みたて卵の卵かけごはんはサイコーです!!
お腹いっぱい食べていってくださいね。
お疲れ様でした。お帰りですね。
お客様は観光でこちらに……?
ウチのお客様は学生さんの合宿以外にもおられるんです。
工事関係や大工さんなどの職人さんや、ゴルフ場も山の中にあるのでそこに来られる方もウチに泊まるんです。
観光のお客様も多いんですよ。もう少し山を車で上れば湖や、温泉街の方にも出られますから。
え?この村の観光名所?
……えーと、うーんと、えーと……。
み、緑色がたくさん見れるから目に優しい……のが、名所……とか……?
あはは……ごめんなさい。やっぱり思い浮かびませんでした。
どうでしたか?民宿、ヤマガミ。
色々不便なところはありますけれど、それを補えるように私達精一杯お客さんに喜んでもらえるようにがんばっています!
もし、よろしければ……また泊まりにきてください!お待ちしています!
……え?私の名前?
それではもう一度……。
私、山賀美 柚子です! 高校三年生、この民宿の娘です! どうかよろしくお願い致します!
……っと。
私もそろそろ、学校に行かなくちゃ。
片道自転車で30分の旅が今日も始まりますよ… あははは。
お客さんもどうか気をつけていってらっしゃいませ。
それでは、失礼します~!
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます