第15話 恋する幼馴染からの置手紙
夢を見た。
灯璃と二人、一緒に花火を見てる。そんな夢だ。
辺りは暗く、周囲を照らすのは眼下に灯る屋台の光と、頭上に咲く大きな華だけ。
灯璃の顔もちゃんとハッキリ見えてたわけじゃないが、俺は曖昧な夢の中でも幼馴染のことを素直に可愛いと思っていた。
「なりくん」
そんな灯璃が俺の名前を呼んでくれる。
夢の中だからか、返事は出来なかった。
だけど、まるで俺が何か返したかのように、彼女はつらつらと楽しそうに語りかけてくれる。
最初は違和感しかなかったものの、徐々にこんなものなんだろうと諦めがついた。とにかく灯璃が楽しそうだからこれでいい。
そして、俺たちは最終的に手をつなぐ。
何でもない。
灯璃と手をつなぐことなんて、小さい頃から何回もしたことだ。今さらときめきも何もない。
……そんなはずだったのに。
俺はあり得ないくらいに胸をドキドキさせ、距離の近い幼馴染から目が離せなくなっていた。
「あ……あっ……」
声が出そうだ。
そんで、顔と顔が本当に近くなって、これは完全に――
「あっ、灯璃!」
――グラサンのスキンヘッド。
目を覚ませば、そこには恐ろしいくらいに顔を近付けてきてたグラサンスキンヘッドの男の顔があった。
「どへぇぇぇぇぇ!?」
心臓が口から飛び出たんじゃないかと思うほどにびっくりする。
俺は仰向けになってた状態からすぐさま飛び起き、結構な勢いで後退した。誰だこのおっさん!
「ど、どなたですか!? 俺、今この部屋女の子と一緒に使ってるんですけど!?」
「……お客さん。寝ぼけてないで早くお会計お願いします」
「……え……?」
「ご利用予定の二時間、もうとっくの昔に過ぎてます。延滞料いただきますよ」
「――!?」
ハッとして、すぐさまズボンのポケットに入れてたスマホを取り出し、時間確認。
示されてた時刻を見て、俺は一瞬で青ざめる。
「にっ、二十一時ィ!?」
「一時間半分の料金、プラスしていただきますからね。会計へ行きますよ」
「なっ! えっ、う、嘘でしょ!? 冗談ですよね!?」
「冗談ではないです。時間は正直ですし、お客さんは何度我々スタッフが起こそうとしても起きませんでした。ので、仕方ありません。延滞料は支払っていただきます」
最悪だった。
これ以上喚くと武力行使も辞さないとばかりに拳を掲げ出すグラサンを前に、俺は素直に言うことを聞くしかなかった。
しかし、マジか……。
そこにいたはずの灯璃の姿はなかった。
どうやら、先に帰ったみたいだ。
「ちくしょう……。やられた……。あいつ、また俺に薬盛りやがったんだ……」
「薬……? お客さん、まさかあなた、この部屋でいかがわしいものを使用したりは――」
「してません。してないですから、大丈夫。ご安心を」
顔を近付けて言ってくるグラサンへなんとか返し、俺はその場をやり過ごした。
――が、財布はおおよそ1500円ほどの余計な出費のせいでかなり痛手を負った。
ほんと、嘘だろ……? って感じだ。
灯璃、あいつなんで俺に何度も……。
もしかして、本当に好きとかなんじゃないか?
中津川先輩は思考コントロールだ何だと言ってたけど、何度も惚れ薬飲ませるとか、それもうやっぱ好きだろ。好きって断定づけない方がおかしくない? 無理あるよね?
……でも、もしも好きだった俺をここに一人で置いてくとかはしないか。
ぐぅぅ……! わ、わからん……!
その辺のことも今日聞く予定だったんだ。
だけど、眠らされたせいですべてがうやむやになった。ちくしょう。
まあ、でもこれで最後ってわけじゃない。しょうがないからまた明日、あいつのところ行ってみよう。行って、真意を確かめなければ。
決意を新たに、カラオケ屋から出た直後だった。
「ん……?」
ふと、胸ポケットに何か紙切れのようなものが入ってることに気付く。
なんだこれ……?
疑問符を頭上に浮かべ、俺はそれを取り出す。
『――なりくんへ』
それは、俺を置いて行った灯璃からの手紙だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます