第11話 灯璃が俺を嫌う理由
俺が灯璃に嫌われた原因は、正直なところハッキリわかってない。
だけど、それでも本当に何も心当たりがないわけじゃなかった。
推測するのは、中学一年の暮れ。冬の終わりが見えかけてる時期のことだ。
寒さが徐々に薄れ、ほんのりとした暖かさが春風として運ばれてくるこの季節に、灯璃はおばあちゃんを亡くした。
それまでずっと元気だったのに、急死だったらしい。
病状など、どういったことが原因だったのかは聞かされなかったし、灯璃自身もちゃんとはわからない、と言ってた。本当に元気だったところからいきなり亡くなったんだと思う。
それ以降、しばらく灯璃は元気を失くしてしまってた。
当然だ。
あいつのお父さんとお母さんは共働きで教師をやってる。
夜、両親ともに帰りが遅くなりがちだったから、俺の家に夕飯を食べに来たり、お泊りしに来たりもしてたけど、おばあちゃんの家に行ってることも多かった。
そして、灯璃はおばあちゃん家に行って帰ってくるたびに、どんなことがあったのかを俺に楽しそうに話してくれてたんだ。
『おばあちゃんは物知りで何でも知ってる』
『おばあちゃんの作る煮物は美味しくてね』
『おばあちゃんとおじいちゃんは昔こういう風に仲良しで』
『おばあちゃんは私を寝かしつけてくれる時にこういう話をして』
『おばあちゃんは――』
――といった風に。
挙げ始めればキリがない。
とにかく、本当に灯璃はおばあちゃんのことが好きだったんだ。
だから……亡くなった時の落ち込みようは半端じゃなかった。
朝、玄関先で出会っても抜け殻みたいにボーっとして俺に気付かなかったりとか、普段なら会話の最中に沈黙なんてできないのに、やけにブツブツと途切れるような会話しかできなくなってたりとか。
次第に、俺は自分がどうにかしてあげないといけない気持ちになっていってた。
灯璃を元気付けられるのは、ずっと傍にいた俺しかいない、と。
で、それまでよりも夕飯を食べに来るよう誘う頻度を増やしたり、泊まりに来るよう誘う頻度を増やしたわけだ。
とにかく、灯璃を一人にさせないようにした。
その結果、あいつは唐突にボーっとすることも無くなったし、俺との会話に沈黙を頻繁に挟むことも無くなった。
つまるところ、元気を取り戻してくれたわけだ。
「――なんだよ。それなら万々歳じゃん。何が問題なんだ? 問題なんて一つも無さそうだけど?」
「……うん」
そう。表面上は、大丈夫なように思える。
けれど、それは本当に表面上でしかなかった。
「問題が無いように思える……だろ? だけど、そうやって元気を取り戻していき始めたところで、灯璃は俺から徐々に距離を取るようになっていったんだよ」
「はぁ? なんで? 訳わからんぞ?」
「だろ? だから、俺はいつも言ってるんだ。いつの間にか灯璃と不仲になってたってな。別に喧嘩してるってわけじゃないんだが」
「うーむ……」
腕組みし、悩まし気に考え込む仕草をする雄太。
「でも、あれだよな? 今はこうしてお弁当を作ってくれてるわけだろ?」
「……ま、まあ……」
「じゃあ、もういいんじゃないか? 成哉の考え過ぎだろ」
「考え過ぎ、か……」
適当に野放しにしていいようなことではないと思うんだけど……。
「ほら、よく言うだろ? 案外自分で考えてるよりも人は悪い風に考えてないって。これもそれなんだよ。幼馴染ちゃんは別に成哉のことをそこまで嫌っちゃいない。もっと胸を張っていいと思うぜ。今は平和なんだし」
「んー……」
微妙な反応しかできない。
なぜなら、本心のところで俺はまだ雄太のように軽く考え切れていないから。
もしかすると、今でも灯璃の胸の内にはおばあちゃんのことがずっとあって、俺に対する何かマイナスな思いがあり続けてるのかもしれない。
だから、惚れ薬――いや、思考のコントロールを施そうとしてるってのも考えられる。
よくわからない。わからないんだ……。
「ってわけでよ。考え過ぎるのも良くないし、腹が減る。飯にしようぜ。お弁当食えよ」
「……あ、ああ……」
煮え切らない態度で俺がそう返事をした時だった。
おもむろに背後の方、つまり屋上の入口扉が開かれる音がする。
姿を見せたのは――
「あ……!」
灯璃だった。
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