第10話 幼馴染は絶対に成哉のことが好き

 キンコンカンコン、と昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響く。


 三限目の授業が終わり、ようやく昼食タイムだ。


 教室内のクラスメイト達は伸びをしたり、友人と話し始めたり、購買の方へ走ったりと様々だが、俺は――


「よし、成哉。屋上だ。屋上に行くぞ」


 雄太に言われ、腰を上げる。


 朝話したことの続きを詳しく聞きたいらしかった。




――『妹から灯璃が俺のこと好きなんじゃないかって聞いて』




 結局これを言った後、すぐ担任の前橋先生(女・31歳独身)が教室に入って来たから、詳細を話せなかったんだ。


 だから、しっかりと時間が取れて、色々な場所に足を運べる昼休みを会話タイムに選んだ。


 いつものことだ。


 何か相談事があれば、俺と雄太は屋上へ向かう。そこで色々打ち明け合ったりするわけだ。


 なんだかんだ、俺はそういったのが好きではあった。


 青春感が凄いっていうか、なんというか。


 一応相談したりだし、青春だのなんだのと浸ってる場合じゃないことの方が多いんだけどな。


 まあ、それはいい。


 とにかく、これから俺たちは重要な会話をしに行く。


 俺だって今回の話ばかりは、正直なところ聞いて欲しかった。


 こんな話ができるのは雄太くらいだろうし。


「しかしなぁ。まさか本当に進展があったとは。成哉さ、夕凪さんとは不仲だったはずじゃん?」


 屋上へ向かって歩いてる段階だが、我慢できなかったのか雄太が切り出してくる。


「進展って……。さすがにそれは気が早いからな? 成実が言ってただけで、実のところは俺にもわかんないし、あんまり浮かれすぎるのもどうかと思うし」


「でも、成ちゃんは言ってたんだろ? 夕凪さんが星空の見える夜は毎晩玄関に出て、『昔から一緒に居るあの人と付き合えますように』って念仏唱えるみたいにブツブツ小声でお願いしてるってさ」


「……らしいけどな」


 しかも、それは流れ星が流れてる時じゃなく、普通に何も流れてない状態の星空へお願いしてるらしい。


 成実の推測だが、変わったところの多い灯璃だから、いつ流れ星が出てもいいように、タイミングを逃さないためにお願いを連呼してるんじゃないか、とのこと。


 よくわからないけど、確かに灯璃が考えそうなことではあった。


 変わってるってところも同意だ。


「だけど、そうは言ったって『昔から一緒に居るあの人』ってのも色々あるだろ? 俺だけじゃないはずなんだよ」


 歩きながら俺が言うと、雄太は「いやー」と返してくる。


「どうかなぁ? もう一つ、夕凪さんがお前らの家付近にある書店で幼馴染モノの少女漫画とか、恋愛小説買い漁ってるってことも言ってたらしいじゃん? これは完全に黒だと俺踏んでるぞ?」


 そう。これも成実が言ってたことだ。


 成実の奴、最近高校受験を意識して参考書を書店に買いに行ってるらしいのだが、そのたびに少女漫画スペースのところで一人ニヤニヤしてる灯璃を見かける、とのこと。手に持たれてるのは幼馴染系の甘い純愛モノらしい。


「でも、それだけで灯璃が俺を好いてくれてるってことにはならなくないか? 面と向かって好きって言われたわけでもあるまいし」


「なら、最近お前に向けて作ってくれてるお弁当は何なんだよ?」


「っ……」


「何とも思ってない人間に対して、女の子がお弁当なんて作ってあげると思うか? 夕凪さん、表ではツンツンしてたけど、本当のところは成哉のことが好きだったんだって。確定だよこれは」


「………………」


 他にも、弁当以外に気になってるところはあった。


 惚れ薬だ。


 あれ、中津川先輩は至高のコントロールのために使った可能性が高いって言ってたけど、実際のところはわからない。


 灯璃は……俺のことを好いてくれてるんだろうか……。


 悶々としてくる。


 答えが出ない。


 雄太の言うように黒のような気もするけど…………うぅぅ……。


 グルグル考えてたところで、屋上へ到着。


 誰もいないのを確認し、俺たちはコンクリートの上へ腰を下ろした。


「そういうこった、成哉。しかしなぁ、羨ましいよほんと。幼馴染ちゃんとの恋愛とか、死ぬほど憧れるし、俺」


「………………」


「……? 何だ? まだ疑ってんのか? もうほとんど確定だろー? 気持ち楽にしろよー」


「……いや……。……だったら……なんで灯璃は俺のこと嫌うような素振り見せてたんだろって思って」


「そんなの照れ隠しに決まってんじゃんよ。恥ずかしいんだろ、素直に好きって言うのが」


「………………」


 そうは思わない。


 小さい時からずっと一緒に居たからわかる。


 普段の灯璃は、考えてることを割と素直に出すタイプなんだ。


 好きな人のことは好きって言うし、嫌いな人のところにはあまり寄り付いていかない。


 だからこそ、俺は灯璃に嫌われてるんだと思ってた。


 灯璃との恋なんて、とっくの昔に諦めてたんだ。


「っだぁー! 何だよ、煮え切らねーなー! 大丈夫だって! 夕凪さんは成哉のこと好きだよ! 安心しろ! 俺が保証する!」


「全然安心できない保証じゃないかよ、それ」


「安心できるって……。てか、逆にここまで来て何をそんな疑ってんだ? 普通の男子ならもう有頂天だろ。慎重すぎだぞ、お前」


「灯璃はそんなタイプじゃないんだ。好きなものには好きって言って、嫌いなものには嫌いってハッキリ言う。だからこそ、俺への対応は明らかに嫌いな時のあいつが出てて……」


 ブツブツと俺が言うと、雄太は「はぁぁ」と深くため息をついた。


「じゃあ、聞くけどよ成哉。お前、夕凪さんに嫌われるようなこと何かしたのか?」


「……いや。それがまったく記憶にない。気付けばあんな対応されてた」


「でも、人間何かないと誰かのことを嫌いになったりなんてしないぜ? 本当に嫌われてるんだったら、お前は彼女に何かしてたんだろ? 思い出してみろよ?」


「………………んー………………」


 言われ、冷静に振り返ってみる。


 俺が灯璃に嫌われるようなこと……嫌われるようなこと……思い当たる節のあること……。


「…………あぁ…………」


「ん? なんかあったのか?」


「……いや、無い」


「無いんかい」


 ズコっと首を前に折る雄太。


 でも、だ。俺は続ける。


「これは俺の推測だし、もしかしたら考えすぎかもしれん。一つだけ、ちょっと引っかかることはある」


「おぉ! それだよ! そういうのだ! 何々? 言ってみな」


 雄太に促され、俺は過去のことを切り出した。

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