寧音と仁科
花屋『奏野』。
「早く行きましょう」
「いやちょっと待ってくれって」
「………やっぱり雪那さんが好きなんですか?」
「は?」
「雪那さんと話している時の仁科さん。とっても楽しそうだし。武道家同士通じ合うものがあるだろうし。綺麗だし。強いし。長年の付き合いもあるし」
「いや。雪那と結婚したいと思った事はただの一度もない」
「じゃあ澄義さんですか?」
「あいつともしたいと思った事はない。雪那も澄義も大切な同胞だ。そりゃあ、あいつらにしか通じ合えんもんもあるだろうが。それは、おまえにも言える事だ。おまえと俺にしか通じ合えん事がある」
「じゃあどうして澄義さんの処に行くのを渋っているんですか?私の求婚を受け入れてくれたと思ったんですけど、やっぱり聞き間違いだったんですか?そうならきっぱり言ってください。私また一週間後に求婚しに行きますから」
「いや。聞き間違いじゃない。確かに了承した。声が小さくてなってすまんかった」
「じゃあ、どうして?」
「気恥ずかしい、んだよ。絶対に俺は結婚しない。闘いの中で満足して死ぬだろうと夢見てたからな。だから。予想外の事にまだ戸惑っている部分もある。が。結婚したいという気持ちに嘘はない。信じてくれ。寧音」
「………」
「ど、どうした。何で泣く?戸惑っていると言ったから不安になったのか?それとも。やっぱり嫌になったか?」
「嫌になってませんし、不安にもなってません。覚悟しています。怪我は日常茶飯事で。死に目に立ち会えない事も。心配は尽きないって」
「すまん」
「謝らないでください。結婚に向かないって何度も教えてくれたのに。確かにそうかもしれないって思っても。私が結婚したいって望んだんですから。仁科さんの不器用で豪快な明るさに私はいつだって救われた。いつだって仁科さんを少しでも支えたいって。どんどん気持ちが強くなる。必要ないって分かっているのに」
「必要ないなんて言うな。俺は寧音の細かな可愛らしさと明るさに、いつだって新しい感情をもらえる。寧音」
「はい」
「遅くなってすまない。俺と結婚してくれ」
「遅くなんて。ないです。ありがとうございます」
「泣くな」
「泣きますよ、もう」
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